<第四章:再会の時、来たる>【04】


【04】


 霧の魔法が放たれてから三日後。

 晴天であり、少しだけ寒気が治まった戦日和である。

 陛下の呼びかけに応じ、ロブスの軍勢から1000の騎兵が集まる。

 アシュタリアの為、

 英雄と肩を並べる為、

 古来の侵略者を倒す為、

 恥知らずな諸王を潰す為、

 陛下は一人一人の顔を見回し、如何に敵が愚劣で、ロブスが如何に精強であるか熱く語る。

 魂が震える鼓舞だ。

 そして、

 陛下は亡き娘の事を話した。

 平和を願った子供の話だ。

 エリュシオンと諸王を繋ぐ為、未来を考えた娘の話だ。それは陰謀に踏み砕かれ、幼くも清廉に死を覚悟した王の娘を、エリュシオンの豚が何をしたのか。

 愚か、という言葉では足りない事実だ。

 兵の中には涙を流す者もいた。

 だが涙は、すぐに怒りに変わる。

 目の前に、その愚行を犯した敵がいるのだ。涙を流すのは、敵の血を流した後でいい。

 霧が晴れる。

 七万の軍は混乱していた。

 三日三晩、白い闇の中に閉じ込められていたのだ。疲弊し、仲間内で争った跡もある。巨大なカタパルトが二つ転倒して、人を巻き込んで潰している。敵の馬の多くは、急な情景の変化で慌てて鳴きだす。

 陛下が吼えた。

 ロブスの騎兵も吼える。

 英雄が1000騎兵を連れて、七万の軍に突っ込む。

 巨大な槍のように。

 何者にも止められない魔槍の如く。

「うむ、余の分はないな」

 隣のデュガンがいう。

 僕とラナ、マリアは、後詰で待機しているロブスの陣営にいた。

「ですね」

 僕は頷くが、獣を警戒してマリアにいつでも跳べるよう準備させていた。

「警戒は解け、飯と湯の準備を」

 デュガンの命令に彼の腹心が従う。それは早計だと思ったが、そんな事はなかった。

 陛下は100人の犠牲で、七万の軍を敗走させた。

 敵の死傷者は四万を超え、エリュシオンに従った諸王の旗が二つ絶えた。


 これが、新生ヴィンドオブニクル軍の最初の戦果となった。

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