<第四章:冒険の終わりに>3


 装備を入り口に適当に全部外して、ベッドまでラナを運び押し倒した。

 薄暗い部屋だ。落ち着いた調度品が並んでいる。ベッドは一つだけ。

「あ、あなた。ちょっと怖いです。落ち着いて」

「無理だ」

 頭を抱えて舌でラナを蹂躙した。絡ませてから、甘噛みして、上顎をなぞる。彼女は固く目を瞑って体を固くしていたが、徐々に熱く柔らかくなる。僕は逆である。

 ゆったりとしたローブをスッポンと剥ぐ。

「ひっ」

 涙目のラナに更に興奮した。

 生死の境を反復横跳びした後だ。変なスイッチがオンになっている。………あ、いかん。本題を完全に忘れていた。

 体勢を変更。

 抱きしめたまま転がる。彼女を上にした。

「森を燃やした件。君の父親から、レムリア王から、全てを聞いた」

「ああ」

 しゅんとした顔を浮かべる。

 魅力的な双丘が押し付けられた。子供のように、不安そうに抱き着いて来る。

「………あの、死を見せる兎。あなたはきっと気付いていたのでしょう。私は、誰の死も見ていませんでした」

「気付いていたさ」

 君は嘘が下手だ。

「私には、人の死を悲しむ権利がありません。多くの命を奪っておいて、今更人の死に苦しむなどと。愚劣極まります」

「君が、あの獣を倒さなかったら被害はもっと広がっていた」

「そうかもしれません。でも、そうではなかったかもしれません。詮無い考えです」

 たられば、と言葉を並べ後悔するのは人間らしい愚かさだ。

「化け物に囚われていた時、私は夢を見ていました」

「夢?」

 ロラの毒。あれは、人を深い眠りに誘う。

 眠ったまま虜となり、死ぬまで何も気付かずおぞましい責め苦にあう。

「穏やかな夢です。森で、私が殺してしまった人達と静かに暮らす。そんな何もない安寧。あなたも、妹もいない。愚かな夢。この醜さが私です。氏族の穢れそのものです。幻滅したでしょう?」

「甘い」

「え」

 手持ち無沙汰にラナの耳に触れる。びくん、と体が跳ねた。

 良い弱点を見つけた。

「僕を誰だと思っている。悪行の神、ミスラニカの信徒だぞ。住み家の森を焼いた? 無辜の民を焼き殺した? それが何だというのだ。僕を幻滅させたかったらな、国の一つや二つじゃ足りない。千や万の虐殺では足りない。大陸全土、いいや世界でも滅ぼしてみせろ。それでようやく、君を嫌うかどうか考えてやる」

「え、あの、それは」

「僕を見くびるな。不安なら誓おう。我が神ミスラニカの名において、僕は君の全てを許す」

「あ、あの。耳は、んうっ」

 軽く両耳全体を捏ねると太ももをくねらせる。これは楽しい。

「ほ、本当に。そこは」

 先端辺りをクリクリすると、ラナが思いっきり抱き着いて来た。肩を噛まれる。しばらくすると、力なくうな垂れる。吐息が荒い。しっとり汗ばんだ肌が吸い付く。

「ハァ、ハァ………………あなた………真面目な話をするか。私で遊ぶかどちらかにしてください。怒りますよ」

 ドスの聞いた声で囁かれる。

 ちょっと反省。

「あなたは本当に、もう全く。でも、そうですね。この世界に、心から私を愛してくれる人がいるなら、あなたのような人。いえ、あなたしかいないでしょう」

「そんな事はないと思うが」

 何故か鎖骨を噛まれた。

「そうですよね?」

「そうです」

 結構、痛かった。

 お返しとばかりにラナにシャツを剥がされる。耳も甘噛みされた。僕も負けじと彼女の胸を鷲摑みにする。安産型のお尻に指先を滑らせる。可愛い反応が返って来る。

 愛おしいと思う。

 人を愛した事などなかったが、これがそうだというのなら、そう思い込む。死ぬまでの短い間、呪いのように心に刻む。

「ラナ、結婚しよう」

「もうしています」

 あ、そうだった。失敗。

「こう精神的な意味というか、肉体的な意味というか、むぐ」

 唇を塞がれた。

 ひた向きで、ぎこちない動きだ。甘い匂いに眩暈を覚える。熱い息継ぎをしながら、唾液に塗れた粘膜を合わせあう。溶けて曖昧になる感覚。元から一つだったような錯覚。

 色々と歯が浮くような言葉が浮かぶが、そんな事より口は別な事に使いたい。

 だが、もっと繋がる為に、少しだけ体を離す。

 互いに似た様な事を口走る。

 熱に浮かされ、獣のように、ただ、がむしゃらに。

 僕らはきっと、まだまだ足りない言葉がある。埋めないといけない絆がある。消えぬ炎はないというから、この想いは時と共に崩れるかもしれない。

 それでも、と。

 思う。

 それだからこそ、この今は永遠に近い価値がある。

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