<捨て犬のパスタ>4


【72nd day】


『そーですか、王様にもマリネは好評でしたか』

「今朝の冷製パスタのマリネ入れも好評だったな。てか、生野菜が基本不評なんだよな。無農薬野菜なのに」

 朝食の後、マキナと情報交換中である。

 姉妹は、グラッドヴェインの宿舎に向かっていった。最近彼女らは、暇さえあればあそこで鍛えている。身をつまされる思いだ。

 今日も冒険はお休み。

 アーヴィンの死後。一度ダンジョンに潜り、十四層に到着してから番人を眺めて帰還。

 それから色々とあり、十日もダンジョンに挑戦していない。

 姉妹は当たり前として、シュナやベルも文句をいってこない。それに甘えてしまっている。このままでは駄目と思いつつもズルズルと。

 だから、商会関係の揉め事は今日全て解決したい。

 そして、明日は無理でも、できれば三日後くらいには何とかダンジョンに。

『ソーヤさん、無農薬野菜イコール健康、美味しい、安全というわけではないのですよ』

「え、マジで」

 その発言は衝撃的だった。

 何か農薬=悪。無農薬=善。というイメージを植え付けられていた。

『野菜にも防衛機能がありますから、喜んで虫に食べられる物はありません。防虫効果がある物質を発生させます。これが、物によっては農薬よりも毒性が高いのです。ふふ~ん♪ 知らなかったのですか?』

「知らなかった」

 まあ、手間かけた野菜の宣伝広告に騙されたのだろう。

 現代社会の陰謀だ。

『異世界の方々は感覚に優れた方が多いですし、そういう毒性を直感的に理解しているのでしょうね。後、単純な話、こっちの野菜は品種改良がそこまで行われていないので不味いです。ソーヤさんは、無農薬野菜という言葉に踊らされて、舌が曇っていたようですが』

「あ、はい」

 そういえば、渋くエグ味があった気がしたけど無農薬という事で気にせず食べていた。むしろ自然の味とありがたがっていた気も。

『でも、毒といっても灰汁抜きすれば問題ないレベルですし。ダンジョンの食物のように特殊な手段の毒抜きは必要ありません。ソーヤさんも、酢水に付けたり塩で揉んだりと処理はしっかりしていましたよ。たまにですが』

「ああ、死んだ爺さんがしていたから、その癖を深く考えずにやっていた。時間がある時だけだが」

『これから、野菜生活をするなら下処理はサボらないでくださいね』

「はい」

 正論なんだが、なーんか面白くない。面白くないが間違っていないので我慢する。

『野菜、虫といえば、ソーヤさん! マキナの秘蔵コレクション見ますか?!』

「は?」

 え、人工知能のコレクションって何? ちょっと興味あるが、こいつら情報以外の蒐集ってするのか。

 マキナが平行に移動して物資テントに入る。平たいボードのような箱を持ってきた。

『ジャンジャ、ジャ~ン♪ これぞマキナ秘蔵の』

「ちょっと待てお前」

『はい?』

「それ何?」

 マキナ・ユニットの下部を指さす。

 そこに丸い玉が付いていた。それを360度回転させて、移動しているように見える。詳しい技術などは素人の僕には分からない。

 現代の法律と条約では人工知能は自走してはいけない。それを、こいつらは色々な理由を付けて無視して来たが、これは流石に堂々と破り過ぎだ。

 ただでさえ、フェイルセーフの問題で神経質になっているのに。

『マキナ・ユニット危機回避の為の緊急措置です。実は二日前、いつも通りストレス解消の為、草原を転がっていたら丁度良い岩と岩に挟まれて、全く動けなくなりました。偶然、通りががった人に助けてもらったのですが、次また偶然と助けが来るとは限らないので、緊急措置です』

「いやでも、不味いだろ。条約をここまで露骨に破ったら」

『ソーヤさん、これは冒険に必要な事なんです』

 うわ、既視感。

 自分の台詞だけど。

「お前、それで全部片付けるつもりか?」

『ソーヤさん、ソーヤさんの冒険に必要な行為は動画で記録してありますが、これを奥様に』

「緊急措置だな! 仕方ない!」

 あかん、とんでもない弱味を握られている。

『はい! 緊急措置です! これは仕方ない事なんです!』

「そうだな! てか異世界だしね! 浮気もノーカンだよな!」

『はい! そう、ではありませんよ』

「………………はい」

 そこはノリで乗ってくれよ。

『エルフという種族は、多妻制を敷いているせいか“嫉妬”という感情を非常に醜いと捉えています。美しくて当たり前の種族ですものね、嫉妬イコール負けという感情もあるのでしょう。しかし、だからといってソーヤさんが他所の女とイチャラブしているのを見て、奥様が気持ち良いかといったらそうでもないです。マキナに、ソーヤさんの性行為を止める権利はありませんが、よ~~~~~~~~~~~く、考えて。女性に手を出してください。あ、男性に手を出すという事もありますか?』

「ありませんよ?!」

 僕は異性愛者だ。

 大体誰にだ?! シュナか?! だがあれはある意味、女性カテゴリーに入れても良いと思うが。何を考えているんだ、僕は?!

『という事で、マキナ秘蔵の~異世界昆虫コレクションでっす!』

 何が“という事”なんだ。

 まあいいや。

 マキナが嬉しそうに掲げたのは、昆虫採集の箱だった。異世界で時々見る虫が、防腐処理されピン止めされている。

『昆虫に人権はありませんから、マキナの玩具にしています』

「怖い怖い。その発言は怖い」

 お前その発言、暴走して人間の採集セット作るフラグだぞ。

『虫ケラに何を気遣うのですか? この一番下の新しい奴など、小麦を主食にする滅ぼすべき悪種ですよ。こんな虫がいるのに、今までよく被害に合っていませんでしたね。運良くコロニーを発見できたので、バグドローンで駆除しましたが』

「何?」

 小麦の虫害など、王国内の歴史では聞いた事ないぞ。

「マキナ、それいつ見つけた?」

 時間と数、コロニーの発見場所。

 それを頭に並べて、交渉材料が一つ増えた。

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