<第四章:薊が如く>1


薊<あざみ>キク科、アザミ属。

葉や苞に棘が多く、触れると痛みをともなう。花は棒状に幾つも突き出て、針山のように見える。

別名刺し草。あざむく、が名の由来になったといわれている。

花言葉は、独立、厳格、守護、孤独。

報復。



<第四章:薊が如く>


【53rd day】


 改めてリーダーとなり、色々あった。

 シュナとアーヴィンの決闘から端を発し、グラッドヴェインの眷属と揉め、組合での手続きに竜亀の素材売却、それとアーヴィンのパーティが抱えた借金を清算して、ついでにレムリアの質の悪い商会を二つ潰し、内一つをザヴァ商会に吸収して、その功績から僕が契約しているもう一人の神—————————夜梟のグラヴィウス様から正式な“慧眼<けいがん>”を賜る。

 商会の仕事や冒険中、時々だが、モノの真贋を見極める事ができた。自分の隠された特技と勘違いしていたが、まさか、この神の恩寵だったとは。

 これを得た事で、素材の価値や、モンスター、人を見る目は確かになるだろう。この目利きは冒険の役に立つ。

 だが、グラヴィウス様に一つ忠告を受けた。


“真贋は常に揺れる。確かに見定めた輝石とて、一瞬で石ころと変わる。そして、全ての価値とは神の目が決める事ではない。人の目が決める事だ。よく見定めるのだな。この霧がかった人の世の価値と、無価値を”


 商人の神らしい忠告、実に身にしみる。

 ただ、僕は冒険者だ。商人ではない。そこを忘れないようにしたい。どうにも僕は、冒険業以外に時間を割き過ぎている。

 そしてまた、時間を奪われそうな問題に直面した。

 まあ、やっかみである。

 悪徳商人を通して僕の悪名が冒険者に広がった。

 やれ結婚詐欺師だの、冒険詐欺師だの、王族騙しだの、金で冒険しているだの、特に、冒険に行き詰まっている初級、中級冒険者と同期の新米冒険者。彼らにある事ない事を流布された。

 しかし、人の噂も七十五日という。

 幸運な事に、僕個人に悪名が集中して他のパーティメンバーは<同情からなのか?>良い評判ばかりが広がる。彼らは飲食店で無料サービスを良く受けるらしい。僕は、五回ほど素材そのままで料理を出された。内二回は素材が生きていて襲われた。

 腹は立つが、僕は冒険者だ。どんな悪名も冒険の成果でそそぐ。

 そう思っていたのだが。

 シュナとラナが、そういう噂を口にする連中を片っ端から叩き潰した。

 シュナは、まだよいアーヴィンと僕がいれば仲裁に入ってそこで終われる。後は適当に美味しい物を食べさせればご機嫌だ。相手にも酒を奢れば仲良く誤解が解ける。円満解決。

 ラナは、困る。

 凄く。

 マジで。

 僕の為に怒ってくれるのは嬉しいが、一番やばい。

 彼女は冒険者を魔法で吹っ飛ばす時、大体“店ごと”吹っ飛ばす。

 周辺住民への被害も甚大だ。治療費に修理費、迷惑料、口止め料。大体、一騒動に平均金貨70枚飛んで行く。ザヴァ商会からの小遣いが全部消えた。最悪、パーティの活動資金で補償しなければならない。

 あと、次マスターの店を破壊したら出禁だ。

 凄い魔法使いなのだから、もっとスマートな魔法を使えないものかと聞くと、彼女はどんな魔法を使用しても、威力が規格外に膨らむそうだ。

 試しにゼノビアと同じ魔法を使用して見たら、目算30倍の威力になった。しかも、消費魔力も規格外になる。結局、膨大な魔力を消費する極大魔法の方が魔力効率が良いそうだ。

 彼女は、破壊の神にでも愛されているのかな?

 そんなわけで、ラナが詠唱するとパーティメンバー総動員で止める事にした。

 勘当されたとはいえ、ラナに、エルフに、ヒューレス家に、ヘイトを集めるわけには行かない。だから、別の噂を流した。


“異邦人に関わると、冒険者は不幸になる”


 冒険業は常に命を賭ける。実力に知恵が十分合わさっても、それでも運が悪いと死ぬ。だからか、運が絡むジンクスは非常に気にされるのだ。これに合わせ、二、三の実害を作った。

 犯行は必ず大通りで、しかも人通りの多い時間帯を選ぶ。

 一つのパーティは、装備品のベルトが腐食して切れ、公衆面前で全員が半裸になった。

 別のパーティは、暴走した無人の馬車に殺されかけた。

 他のパーティは、異邦人の悪口の数だけ財布から金貨を落とした。

 大通りで嘆く彼らを見て、人々は“異邦人の呪い”に実像を持った。

 二日後には、どの酒場でも異邦人の噂を口にしなくなる。それ所か、安易に口にした連中が他の冒険者に殴られ口止めされた。『俺達を巻き込むな』という意味で。

 僕の名前は完全に呪いの言葉になってしまったが、まあラナのヘイトは散らす事ができた。

 それに、人の噂も七十五日という。

 毎日のように何かが起こる街だ。近いうちに忘れられ風化するであろう。

 そんなこんなで、再びダンジョンに挑戦するのに七日もかかってしまった。

 現在、十三層。

 ここまでは、親父さんの地図のおかげで楽に踏破している。

 七人で行動するに伴い、戦術を少し変えた。

 ダンジョンの通路幅は、平均4メートル。十分な動きを得るには並べて三人か、二人。後続の事も考慮し、背後にもある程度のスペースが必要。日本の国民的RPGのように七人並んで進むわけにはいかない。

 前と同じで二つの編成にわけた。

 前方は、イゾラを伴った僕、アーヴィン、シュナ。

 後方は、ベル、エア、ゼノビア、ラナ。

 僕の役割は索敵と敵の“釣り”だ。

 イゾラのセンサー類、それに慧眼を使用して敵を見定める。弓で先手を打ち、倒せるならそれで良し、駄目ならアーヴィン、シュナの所まで誘導して倒す。敵の数が多いなら別の場所に誘導して、やり過ごす。

 敵を倒すのは、極力アーヴィンとシュナに任せた。

 この二人の戦闘スキルに、僕が文句を付ける部分は一つもない。

 二人は強い。

 条件さえ整えれば中級の冒険者にも引けを取らないだろう。後は、おぜん立て次第。

 ベルは、遊撃手だ。

 攻守のバランスが良いので、前方、後方、柔軟に移動して戦闘に参加してもらう。大技としてラナとの合体魔法があるが、これは暴走する危険が高いので使用禁止にした。

 エアは、後方の警戒。戦闘の援護。

 パーティの背後を突かれるのは致命的だ。最も索敵能力に優れる彼女には、背後に注意を向けてもらう。弓での援護攻撃も侮れない。彼女の腕は、そこいらの雑魚敵なら簡単に目や心臓を射抜く。

 ゼノビアは、サポート専用と後方の守り。それと保険。

 彼女の魔法による火力は、正直そこまででもない。しかし防御魔法はかなりのもの。万が一、エアの索敵を逃れた敵を魔法で足止めしてもらう。

 ラナは、切り札だ。

 瞬間的な破壊力だけならレムリアの中でもトップクラス。

 しかし様々な問題がある。破壊力がありすぎる事に、範囲、それと特に魔力回復に付いて、アイスで全てがクリアできたと思っていたのだが、落とし穴があった。魔力回復量に限界があったのだ。

 デザートの試作と回復量の確認がてら、ラナに魔法をぶっぱなしてもらったのだが、二日目にして何を食べても一切魔力が回復しなくなる。丸一日後、また魔力が回復し胸をなでおろした。これに付いては、まだまだ検証に時間がかかる。正確な数値をマキナが計算中だ。

 回復手段に不安がある以上、温存して損はない。

 だが、切り札があるというだけで心強い。それに、再生点の回復手段は確立しているのだし。僕を含めた男共は、多少の無茶は織り込み済みだ。

 状況に応じて編成を変えるだろうが、取りあえずの所はこれで行く。

 閑話休題。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る