<第三章:綻びと纏まり>1

<第三章:綻びと纏まり>


【47th day】


 目が覚めたら、知らない民家の屋根にいた。

 僕、アーヴィン、シュナと川の字になって寝ている。

「いっ」

 あ、頭が痛い。てか酒臭っ。

 何だこりゃ。ここどこだ? ………………駄目だ全く思い出せない。

 女性陣はどこ行った?

『おはようございます。ソーヤ隊員』

 アーヴィンの腰からイゾラの挨拶。

「イゾラ、何がどうなって?」

『ま………………いいじゃないですか。近くに公衆浴場がありますから、そこで汗を流す事を提案致します』

 提案に乗って二人を起こす。

 ちなみに二人共、記憶が定かではない。

 二度寝したシュナをアーヴィンに抱えてもらい移動。念の為に財布や装備を確認したが、金が少し減っている事以外、紛失した物はない。

 レムリア王国には数多くの公衆浴場が存在する。

 豊富な水源と、翔光石という無尽蔵の燃料のおかげだ。

 半年前まで混浴が当たり前だったのだが、あるエルフが裸を見られたさいに、相手と、浴場と、街を二区画分破壊して逃げ去ったそうな。それ以来、混浴は廃止された。

 そのエルフなのだが、未だ捕まっていない。

 断片的な情報によると、

 二人組で、

 巨乳で、

 魔法の術に長けている。

 さて………誰の事だろうね? 見当もつかない。

 周囲の風景は全く見覚えがない。

 イゾラによると、ここは普段足を運ばない商家や上級冒険者の居住区画だと教えられる。どうりで建物が真新しいはずだ。ちょっと不安が湧いたが、異邦人が今更何をといった感じ。

 公衆浴場に到着。店の表の注意書きに、男性専用とあった。

 朝一という事で脱衣室兼受付には、僕らと店員しかいない。

 衣服の洗濯もできるそうなので頼み、風呂代と合わせ前払いで三人分支払う。銀貨三枚である。貴重品と装備は、鉄箱に保管して魔法で施錠される。解除用の割符を預かり、紐付きのそれを首から下げた。

 浴場は貸し切りだった。

 基本よくある石造りの浴場。プールのような大きい浴槽が二つと、湯冷まし用の冷水を溜めた小さい浴槽が一つ。体を洗う為のヘチマに似た植物と石鹸。椅子。あと、洗体のサービスをしてくれる獣人とヒームのお姉さんが二人。

 この世界でも、浴槽に入る前に体を洗うのはマナーである。

 お姉さん二人は、黄色い声を上げてアーヴィンとシュナに近づく。内容は予想通り、昨日倒した悪冠の話。もうこんな所まで伝播しているとは。

 シュナが顔を真っ赤にして、獣人のお姉さんに背中を洗われている。

 アーヴィンはヒームのお姉さんと、大人の怪しい雰囲気でヒソヒソ話。お姉さんの手が彼のきわどい位置まで伸びている。

 僕はまあ、一人でゴシゴシと。

 汚れを落とした後、三人で浴槽に浸かった。ちょっと熱いが良い湯である。シュナが泳ぐのをアーヴィンと二人で止めた。

 肩まで浸かってのぼせると、水の張った浴槽で我慢大会をして、途中馬鹿らしくなったので適当に体を温めて浴場から出る。

 洗濯はもう済んでいた。パリっと乾いた衣服に袖を通して装備を回収。

 ぐぐ~と腹が鳴る。

 昨日今日だが、変な店に入って腹をやられるよりはマシ、なのでマスターの店に。

 店に着いて顔見知りのウェイトレスに挨拶、テーブル席に着いて食べ物と飲み物を適当に頼む。

 不味くはない。

 素材は良い。

 お腹は満たされた。

「さて………………」

 食後のまったりとした時間。

 アーヴィンもシュナも、飲み物で口直しをしている。

 そこでようやく、

「なんで僕らの関与をバラした!」

 問い詰めた。

「聞くの遅っ」

 シュナの他人事のような反応に苛立つ。

「うむ、まあ理由がある」

 そりゃ理由はあるだろうさ。アーヴィンくん。でも、

「パーティ組む時に決めた事だよな! 決めた事は守ろうぜ!」

「よしよし、ソーヤ落ち着け。順に話す」

 アーヴィンが両手の平を僕に向ける。シュナは面倒くさそうにそっぽを向く。

「そうだな。まず、シュナが竜亀を斬り割った一撃。あれから話そうか」

 あれは凄かった。というか、あんな事ができるなら教えてくれ。そうすれば、もっと楽に倒せたかも知れない。

「英雄の一撃、グラッドヴェインの伝説をなぞり、竜に連なる敵を屠る一撃。グラッドヴェインの悪竜退治は知っているな?」

「ああ、武器が壊れたから素手で竜を殴り倒したんだろ?」

 人間技ではない。

「仔細には違う。グラッドヴェインは自分の武器を犠牲にして、竜に致命傷を与えた。素手の一撃は止めだ。シュナはその伝説をなぞった。生半可な才能や剣では行えない奇跡だ」

「魔法なのか?」

 杖やシンボル、現象を媒介に魔法を発現できるのなら、剣や技を媒介にして神に奇跡を乞う事もできるはず。

「そうだが、少し違う。魔力は極僅かしか必要としない。契約をした神の伝説や歴史を再現するのは、眷属や信徒の務めだ。そう、そして人は、意思と無関係に神の“運命”に引きずられるのさ。それを奇跡と呼ぶか、呪いと呼ぶかは、今を生きる人間しだいか」


“汝、王者を謀り、英雄を屠る事すら厭わないか?”


 それは僕が神と契約した時に交わした言葉だ。これに引きずられるというのか? 確かに、王者は謀った。では後者もか? まさか。

「シュナの剣は、師から譲り受けた物だ。由来は分からないが見事な鋼。しかし銘が削られ、鍛冶師の名前もわからん。あそこまで壊れたとあっては修繕もできまい」

 僕の記憶では、シュナの剣は粉々になっていた。破片を集めてジグゾーパズルをしても、ピースが揃うかどうか。

「一人辺境に流れ着いた獣人剣士。それと連れ添った剣。積み重ねた年月と少年に託した思い。竜亀を斬り割った一撃には、それだけのモノが詰まっている」

「………なるほど」

 だが、まだ話は見えてこない。

「うむ、ここからが本題だ。シュナの師匠、優美のレグレという獣人だが。我が師、ザモングラスと因縁のある人物だ」

 世間って狭いもんだな。

 まさか親父さん、これ知ってて僕らにパーティを組ませたのか?

「一度だけ、我が師から酒の席で聞いた話だ。不明瞭な罪状で、獣人の一家を執政官が捕らえ、弄び、殺した。よくある話だ。

 しかし、その執政官の護衛が日ごと殺されて行く。次は自分だと半狂乱になり、そいつは我が師に泣きついた。師も、エリュシオンの騎士である以上そういった要請には逆らえない。相手が賊である事には変わりないのだしな。

 弟子を連れ添い護衛に付いた師の前に、獣人の少女が現れた。彼女は、不釣り合いな長剣を背負っていた。

 油断した弟子は一瞬でやられたそうだ。その中には、若きルクスガル様もいた。

 自分と聖リリディアス騎士の名誉の為にいうが、油断したからといって簡単に敗れるようなヤワな鍛え方はしていない。相手が異常なだけだ。

 執政官の護衛が全てやられた後、少女は師を前にしていったそうだ。

『あんたと戦えば互いに無傷では済まない。右腕一本くれてやるから、そいつを殺させろ』

 とな。

 師は迷った末、執政官を病死という事で処理して、隻腕の少女を愛人にしたそうだ」

 ん? ザモングラスさん。

 思ったより俗な人だな。

「不愉快だ。不潔だ」

 シュナの感想はごもっとも。

「愛人といっても、周囲の納得させる為の詭弁だ。エリュシオンの立場ある人間が、獣人を傍に置く為には奴隷か愛人という事にしないと周囲の目を誤魔化せない」

「ふん」

 シュナは納得せず、不機嫌そうだ。気持ちはわかる。自分の好いている人間が、愛人をやっていたとは中々複雑な気分だろう。しかも相手がパーティメンバーの師匠。

「レグレ殿に、我が師が聞いたそうだ。『何故、あの獣人の一家の為に剣を振るったのだ?』と。

 ここからが驚きなのだが、飢えた時にパン一つ恵んでもらったのが理由だそうな。

 飢えの苦しみは自分もわかる。だがパン一つに命を賭け、右腕をためらいなく捨てる。その彼女の信念は、騎士からすれば理解し難い。しかし、その剣と技は、どこまでも本物だった。挨拶もなく、師の前から姿を消したそうだが、縁とは奇妙なモノ。こんな所で我々が繋げるとは」

「はじめて会った時も、お師匠は腹減らしていた」

 シュナが遠くを見ている。

「飯、きちんと食べているかな」

「前置きが長くなったが、つまりはこうだ。シュナの英雄の一撃は称えられて然るべきもの。その師の名と共に。これは絶対だ。

 で、レグレ師の名を出せば、獣人の弟子と自分は組んでいると公言した事になる。特に、ヴァルナー様は良い顔をしないだろう。だから、ついでにエルフと組んでいる事も公表した」

「は?」

 まてまて、意味が分からない。

 シュナの師匠にしても、アーヴィンの師匠と深い関係があった人物だ。どうとでも言い訳できるし、まだ掠り傷程度だ。何故にエルフとの関係をバラして致命傷を負う必要がある?

「ソーヤ。これは自分の落ち度だ。聖リリディアスの騎士達が、今どれほど潔癖に他を廃しているか。その内情は想像を絶する。

 黒エルフ、法王達の権力闘争、獣人や奴隷の反乱、エリュシオンに蔓延する謎の奇病。騎士は守るべき民を欺き、殺し、焼き、吊るす。今や聖リリディアス騎士は、恐怖と火刑の象徴になっている。遠い知らせでは、我が師も、エリュシオンを見限り中央大陸を後にしたそうだ。

 最早、獣人と関わりがある人間と組んだだけでも、彼らは自分を異端と見るだろう。

 汚名に汚名を重ねた所で下手にはなるまい。だから、エルフとの関係を暴露した。すまない。騎士の現状を告白すれば、君らが自分を見る目は変わる。それを恐れた」

 それは確かに、

 いや、だが。

「なあアーヴィン」

「知らねぇよ、そんなの」

 僕を遮りシュナがいう。

「おれ達を見くびるな。それにあんた“元”リリディアスの騎士だろ。関係ねーし、一度でも命を預け合った仲をそんな簡単に捨てねぇ」

「シュナ、矢張りお前は子供だ」

「なん、だと?」

 シュナが怒りをあらわにする。

 アーヴィンの言葉には僕も同意だ。

「人の怨讐は血の一滴まで憎む。いや、血に触れた者までも憎む。関わらない事が一番だ」

「ならもう、おれ達は手遅れじゃねぇか」

「これはただの比喩だ。その覚悟をしろという――――――」

「アーヴィン」

 揉めそうなので一旦話を折る。

「僕から一つ質問がある。獣人とエルフとの関係を明かして、君はどうやって姉の免罪を乞うつもりなんだ?」

 去り際に見たヴァルナーとお付きの顔、あれはゴミ以下を見る目だ。あいつらはもうアーヴィンの為に何かをするとは思えない。心証は最悪だろう。

「レムリア王がどうやって、一冒険者から国王にまで成り上がったと思う?」

「冒険で偉業を成して」

 そういえば詳しくは知らない。

「もちろん、冒険者としての偉業あっての事。そして前辺境伯の悪行が露呈した事。だが、一つ。エリュシオンが、優秀とはいえ、たかが冒険者を王に推した理由がある。

 レムリア・オル・アルマゲスト・ラズヴァ。

 この、王の名にある“アルマゲスト”という言葉。々の尖塔、深層部で入手した“何か”という情報しかないが。聖リリディアス教が、エリュシオンが、秘匿したい“何か”だとすると?

 昔から疑問に思っていた事がある。

 世界には無数のダンジョンが存在するが、古来、々の尖塔には異常な数の聖リリディアスの騎士が派遣されている。つまり、第二、第三の“アルマゲスト”が眠っているという事だ」

「アーヴィン。それは、危険だ」

 危険過ぎる。

 まず実態が分からない物を見つけるというだけでも無謀だ。僕の残り時間では、絶望的ともいえる。たとえそれを見つけたとして、今のエリュシオンが取引に応じるか?

 恐らくだが、そのアルマゲストという何かは、聖リリディアスの根幹を揺るがすものだ。

 レムリア王がどういう取引をしたのか分からないが、普通なら潰されて終わりだ。相手が一国家なのだから、向こうもその方が手っ取り早い。

「ソーヤ、危険なのは承知している。だがな、自分達がパーティを組んで何日経過した?」

「ん、えーと」

『四十日です。アーヴィン様』

 イゾラが教えてくれた。

「そう、たった四十日だ。自分達は同期のパーティの中でも群を抜いている。戦闘能力や計画性、経済力、人脈、骨の巨人の件、悪冠を討伐した件。どれも新人と呼べるレベルではない。

 ソーヤ、君らと冒険して自分なりに確信した事がある。このパーティなら偉業を成せる。国一つ動かすほどの名声を得る事ができる。自分達に、できない事はない」

 買いかぶりすぎだ。

 そう、熱っぽく語るアーヴィンに水を注したい。

 しかし、口が動かないのは僕なりに謙遜しつつも誇らしく思っているからか。仲間の期待に応えたいと思っているからか。

 僕は、ここまで人に期待された事がない。今までだって、できる事をがむしゃらにやってきただけだ。確かに、あのまま軋轢を抱えて冒険をすれば綻びが生まれ、死に繋がる可能性もある。

 七人纏まって公に動く事は大事だ。

 が、

「アーヴィン。これで良いのか? お姉さんの事、初期の目標より困難になっているんだぞ?」

「承知している」

「いやだが」

 シュナに軽く蹴られた。

「うるせーなーあんただけだぞ。こんなウジウジ迷ってるのは。エアとラナさんは一言で賛成したぞ」

「マジか」

 そんな勝手な。

「いや、あの二人はソーヤに従うといっただけだ」

「だろうね。ビックリさせるな」

「ちっ」

『舌打ちをするな』

 アーヴィンと一緒にシュナを叱る。お前、それなりに名声を得たのだから立ち振る舞いには気を付けろよ。

「それで、ソーヤ。どうするのだ?」

「ん、ああ」

 アーヴィンの問いに、目元を覆って考え込む。だが考える言葉がもう浮かばない。端から決まっている。こいつは、この世界に来てからずっと変わらない。

 出たとこ勝負。

 やれる事をやるだけ。

「七人でやろう。あらためて、僕ら七人でパーティだ」

「おう」

 アーヴィンと握手を交わす。

「これで正式に君がリーダーだ。ソーヤ」

「ああ、できるだけの事しかできないが、頑張るよ」

「では、早速で悪いが。登録の再申請に、組合への支払い、それと竜亀の素材を組合か商会と交渉して高値で売りつけてくれ、是非」

「………………おい」

「ハッハッハ、いやぁ重さ単位で幾らといわれても自分にはさっぱりでな。困り果てていた」

 こいつ、雑務が面倒で僕にリーダー押し付けたんじゃないのか? 

 流石に違うか。

「つーかリーダー。おれの剣、新しいの用意してくれる? 前の奴と寸部違わず同じやつな。予備に三本ほしい。贅沢はいわないけどルミル鋼がいい。それと次の冒険でエビのピザが食べたい。チーズがとろけて出来立てのやつ」

「無茶をいうな」

 シュナの早速の無茶ぶり。

 続いてまたアーヴィンも。

「リーダー、ゼノビアが色々な所からツケで飲んでいるので、支払いを頼む。あと盾と鎧のメンテナンスを頼みたいのだが、前の工房が潰れたから安くて良い工房を紹介してくれ」

「おい」

 ゼノビア、ツケで飲んでるのかよ。てか工房にツテなんてねぇよ。ザヴァとエルオメアの若旦那に聞いてみないと。

「ああ、それと」

「まだ何かあるのか?!」

 アーヴィンの呑気な声に変な汗が出る。ある意味、このタイミングでリーダー引き受けて正解だったかも知れない。後に回していたらどんな負債になった事やら。

 ため込んだ仕事の報告にうんざりしていると、

「ああん? 新米のパーティが悪冠を倒したって? マグレに決まってんだろマグレ」

「でもよぉ、そのパーティにはグラッドヴェインの眷属がいたんだぜ?」

 僕の後ろの席からそんな声が聞こえた。

 不思議なもので、他人の陰口を喋る奴ほど声がでかい。無神経だから?

「グラッドヴェイン~? ああ、あれだろ。武器が壊れたからって、竜のイチモツをシゴキ倒して屈服させた淫売だろ? いや、てめぇがヒィヒィいって竜に腰振ったのか? ギャハハハ!」

 あいたー。

 ちらりと後ろを見るが、男二人組だ。武装のくたびれ具合から見て素人ではない。たぶん傭兵くずれ。冒険者の装飾だけが真新しい事から、転向してから間もないのだろう。

 つまり、まだ街に来て日が経っていない。

 だろうな。

 まともな冒険者なら、この街で神様の悪口なんか口にしない。特に、血の気が多い眷属がいる神様のは。

 この二人は、席を立って自分達を囲む冒険者達に気付いているのだろうか? 

 というかシュナもいの一番に席を立っていた。

「な、何だお前ら?」

 男二人はようやく気付く。

 彼らを囲んだグラッドヴェインの眷属達は、目を合わせながら誰が行くか決めている。

「シュナいけ」

「了解です」

 年配の獣人がシュナに命令。シュナ以外は一旦離れた。

「ああん? なんだ赤毛のお嬢ちゃん」

「あ゛ん」

 ああ、よりにもよって一番駄目なワードを。

 シュナにお嬢ちゃんといった男は、顔面に拳をくらって三回ほど回転して床に顔面から着地。それでもまだ勢いが死なず、モップのように顔で床を拭いて滑った。

「お、お前!」

 残った男の反応は思いのほか速い。

 腰のロングソードを抜刀。そのままシュナに斬りかかる。シュナは退屈そうな顔で、背に手を伸ばし空気を掴んだ。

「あ」

 シュナの間抜けな声。

 こいつ剣失くした事忘れたな。その隙は、致命的な距離まで白刃を近づけた。

 不味い、と僕が思うと同時。

 アーヴィンが鎧で刃を受けて、男を蹴り倒し踏みつける。

「竜亀の時も思ったが。シュナ、お前は詰めが甘い」

「………………アーヴィン。やっちまったな」

 シュナが苦渋の表情を浮かべる。

「そこの騎士“くずれ”」

 先ほどの年配の獣人が寄って来る。

「貴様、グラッドヴェインの矜持を汚したな」

『は?』

 僕とアーヴィンは同時に疑問符を口にした。

「おれ達、喧嘩はサシって決まっているんだ。それを邪魔したらマズい」

「え、何がだ?」

 僕の問いを遮り、獣人がシュナにいう。

「シュナ、汚名は自らの手で注げ。わかっているな?」

「はい」

「え、だから何?」

 嫌な予感がする。何だか不穏な空気が。

 シュナがアーヴィンに向けて、ぽつりという。

「アーヴィン、おれと決闘しろ」

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