<第二章:名声を求めて>7
広い空間である。
由来不明の文明の匂いを残した装飾、用途不明の祭器らしき残骸、何かを称えていた祭壇。
このダンジョンでは、時たまこういう空間に遭遇する。
先々文明の名残りらしいが、誰が何の為にどうして? と考え解き明かそうとすると、長命種の寿命でも足りない。ま、僕らにはあまり関係のない歴史だ。
祭壇を護るかのように、竜亀は静かに眠っていた。
僕らが最初に遭遇した時と同じである。違うのは、その甲羅に幾つもの武器が突き刺さっている事。それと血の跡や、新しい武具の残骸が散らばっている。
しかし、でかい。
幅8メートル、高さ2.5メートル。甲羅に収まり切らない首の長さは、推定で10メートル以上。首回りは2メートル。最早、この広間から出られないサイズ。
こいつ、この三日で成長してないか? 何食べてるんだ。ああ、冒険者とか? 豚もデカかったし、栄養豊富なのかな。
「全員配置についたな。通信のテストを行う。名前を読んだら返事を」
皆の喉と耳孔付近には、通信用のシールが貼ってある。これでマイクとスピーカーの役割が果たせる代物だ。
「ラナ」
『はい』
「エア」
『はーい』
「アーヴィン」
『おう』
「シュナ」
『うお、これ気持ち悪っ』
「ベル」
『はいはーい』
「ゼノビア」
『なんで、わたしはいつも最後なの?』
「通信状態良好」
配置を確認、逃げ込めるよう通路付近に、ラナ、ベル、ゼノビア。その少し前、右側にアーヴィンとシュナ。左側に僕とエア。
「イゾラ、最終チェック」
『了解。………………問題ありません』
「作戦開始だ。皆、気合い入れてくれ。エア、頼む」
「了解」
エアが樽を転がしながら竜亀に近づく。あまりにも無造作に近づくので焦る。
「え、エア。静かに、静かに」
『大丈夫、大丈夫、こいつ自主的に攻撃するタイプの動物じゃないから』
離れたエアから通信越しに返事。ゴロゴロと結構な音を立てて悠々と進む。樽を指定の位置に置くと、周囲に塩と銀貨を均等に撒き始める。雑、雑だ、怖い怖い。心臓に悪い。
『設置完了っと、戻るね』
小走りで戻って来る。竜亀がエアの後ろ姿を捉えるが、すぐ興味が失せて眠りに戻る。冷や汗が噴き出た。心拍数が上がりっぱなしだ。
「お兄ちゃん。あの亀、警戒心がないよ。たぶん生まれてこの方、危機的な状況や痛みを味わった事がないみたい。室内飼いのペットみたいなものよ」
「強すぎて他のモンスターじゃ相手にならなかったのか」
「たぶんね」
少し哀れだが、だからといって引く気はない。
「アーヴィン、移動開始」
『おう』
アーヴィンを敵付近に配置。
「ラナ、ベル、ゼノビア、任せたぞ」
ラナが杖を床に突き刺し、両手を広げ、言葉を紡ぐ。
「我が神エズス、我が神エズスよ。偉大なる汝の名のもとに、並び奉る神に我が声を伝えたまえ。水明のミドラース、その恩寵を我が右手に」
ラナの右手に水の塊が生まれる。
「死色のリ・バウ。その破滅を我が左手に」
左手にはおぞましい白き煙。
「併せ」
合掌し、
「生まれし」
広げた手には長大な氷の槍が生まれる。この魔法は、ラナと相性が悪いらしくこの一発でラナの魔力は空になる。
「この槍を以って、死の冬の先触れとす。ホーエンス・ロメア・ディ、ネオミア!」
ラナは数歩の助走から、見事なフォームで槍を投擲した。
そこで竜亀が反応する。
両目を見開いて体をくねらせる。明らかにこの槍を恐れている。しかし、ラナの狙いは正確に竜亀の芯を捉えていた。
槍は首根元に突き刺さった。
悲鳴。
金属を擦ったような金切り声。
「ぐっ」
メガネのスピーカーがハウリングを起こして音の暴力に襲われる。
「ゼノビア!」
返事は耳鳴りで聞こえない。
視界の端で彼女が動くのが見えて安心した。小粒な炎の塊が無数に生まれ飛ぶ。槍にまとわりついた炎が炸裂して、槍の切っ先以外を破壊した。
無数の氷が霰のように散らばり降る。
「エア、行くぞ」
「お兄ちゃんこそ外さないでよ」
傍の妹と息を合わせて矢を番える。この矢は、シャフトまで銀で造った特別製だ。
「今」
矢を放つ。狙ったのは氷槍の残滓。寸分違わず僕と妹の矢は突き刺さる。深手とはいかないが肉には到達した。
「よし、ベル!」
『わっ、我が名は、神媒のベルトリーちチェ、ひっ』
ベルが緊張で声が裏返る。竜亀がラナ達を見据え、長い首を伸ばす。大砲の発射と見間違う勢いと速度。
だが、
『させん』
そのアギトはアーヴィンの盾で防がれた。ゾッとする牙が盾を噛む。蛇首はアーヴィンの体を持ち上げ振り回そうとするが、そこでシュナの剣が鱗を叩く。
『くっそ、斬れない!』
斬れなかったが竜亀はアーヴィンから牙を放す。
エアと僕は通常の矢に切り替え援護を開始。狙うのは目だが、矢より速く動く首には当てられない。竜亀はアーヴィンに殺意を向け襲いかかる。
「ベル、落ち着いていけ。まだまだ余裕はある」
『は、はい』
プレッシャーで震えるベルの手をラナが取り、自分の杖を握らせる。
『落ち着いて、私の言葉の後に続きなさい』
『ひゃい』
ラナが先に詠唱して、ベルがそれに続く。
『神媒のベルトリーチェが近世の神に願い奉る。主神ウカゾールよ、我が願いを耳にせよ』
『しし、しんばいのベルトリーチェが、近世のウカゾール様にお願いします』
何かぐずぐずの詠唱だが、精一杯ベルの詠唱が続く。
『我は力を求む。汝と並べ奉る神に奇跡を乞う。風穴のルテュガン、汝の力を我らの前に』
『わ、我わ、我は………………我は、我………並べ奉る神に奇跡を乞う』
ラナが、ベルの耳元で何かを囁く。涙目だったベルの顔から表情が失せる。人が変わったように、ベルの口からはスラスラと言葉が流れ出す。
『風穴のルテュガン、汝の奇跡と恩寵を彼の場所に。風よ舞え、つむじ風から始まり、うねり壊す嵐の如く。捻じれ、曲がれ、巻き込め、砕け、全てを奪い、凍てつく、死都ネオミアの惨劇をここに! 荒れ狂え嵐、氷雨よ降りそそげ、その悲鳴すら凍てつかす、死の“つらら”を天上より落とさん』
ベルが魔性に憑かれた顔で魔法を放つ。
『ラウアリュナ・ロメア・ブライクニルッ!』
舞い散った氷が風に巻き上げられ渦を作る。
僕は、虎の子のミスラニカの矢を番え放つ。転がった樽に矢が突き刺さり炸裂。魔法との親和性が高い霊禍水が、渦に巻き込まれ嵐を膨らませる。
「アーヴィン! シュナ!」
『おう!』
『いくぞっっ! おらぁぁあああああ!』
盾と剣が、六度目の噛みつきをベストなタイミングで迎え撃つ。顎を捉えられ蛇首が甲羅の元まで打ち上げられる。
「今だ、防御魔法!」
アーヴィンがシンボルを掲げる。
ゼノビアが杖を掲げる。
『麗しのリリディアス。その慈愛、献身、護法の恩寵を“彼の者”に与えたまえ。ザモングラス・ロメア・ティリング!』
『火よ。素と交わり光壁となれ。平穏を照らせ、“彼ら”の糧を守りし防壁となれ』
合わさった防御魔法が竜亀を包む。巨大な竜亀をすっぽりと覆う光のドーム。
そこで丁度。
ベルの魔法の最終段階が訪れた。
溶けかけの氷が塩と混ざり急激に周囲の温度を奪う。一気に零℃以下になった気温が暴風雨にかき混ぜられ竜亀を白く染める。甲羅に貼り付いた銀貨が、傷口に突き刺さった銀の矢が、極低温を吸収して外から内から竜亀を侵食。
悲鳴を凍てつかせた。
しかしこれは、次に起こる現象の媒介に過ぎない。
ゼノビアの光壁は温かさを持つ。それに巻き上げられた冷気は上部中心に集まり、濃い白さを持って粘ついた渦になり、ゆっくり降りて来る。
凝固点降下、銀、霊禍水、神媒の巫女による祈り。これらが重なる事で引き起こされた奇跡。
ラナが新たに作り出した魔法。
現象媒介魔法、ブライクニル<死のつらら>。
これが、やばい。
マキナの観測では瞬間的に絶対零度を示した。あらゆる分子が呼吸を止める滅びである。
昨日、これの制御に失敗して草原の一部を雪原にして、高さ15メートルの氷柱を作り出した。昨日は逃げ場があったが、今日はない。
しかし、アーヴィンの防御魔法という壁が増えているから、
『ソーヤ。すまん、もう持たない』
『あ、こっちも無理よ』
二人が早々音を上げた。
ちょ、マジかよ。巻き込まれたら全員骨まで凍るぞ。
「ベル、魔法を停止。ベル! ………ベル?」
返事がない。嫌な予感がする。駆け寄って彼女の元に。
「凍れ凍れ、血と魂を止めよ、止まれ止まれ、時と歴史を、定め定め、破滅を――――——」
「ラナ、これってあれか。トランス状態な」
「はい」
光のない瞳で小さい詠唱を続けるベル。
ラナが揺すって、ゼノビアが平手をかますが反応はない。ラナの時はエアのテクニックで戻せた。だが、ベルに胸はない。時間もない。一刻の猶予もない。迷っている暇はない。
仕方ない。
「すまん!」
誰に謝ったのか自分でもわからない。
ベルの顎を掴んで、キスをした。
唇と唇を合わせた。
ラナの顔が恐ろしくて見れない。ゼノビアの目が点になっているのは見えた。
これは仕方がない行為だ。
まだ反応がない。
ままよ、舌を入れた。絡ませた。上口部分を舌先でなぞり、歯の裏側もなぞった。このえぐい技はテュテュ直伝である。
「………………っ」
ベルの目に光が戻り、背後の魔法が霧散した。
そして僕は、ゼノビアに往復で張り手をくらった。
「ぐふっ」
「この変態! 所帯持ち! ちょっとベル! ベル! しっかりしなさい! 傷は浅いわよ!」
ベルは、ゼノビアに両肩を掴まれガクガク揺すられ、意識を取り戻す。
「ふあっ、な、何が。何かとんでもない事をされた気が」
「面倒だから後にするわ。大丈夫、あの男からガッポリ被害料巻き取ってあげる」
不可抗力なんだが。
パーティの命を守る為にやったんだが。
「あなた」
しまった。
ラナが静かに詰め寄ってきた。ポンチョを掴まれ引き寄せられる。
不器用に唇を奪われた。
「後で続きをしてください」
「はい」
急すぎて感情が動けない。
『おーい、痴話喧嘩は外でやってくれないか』
アーヴィンの声で色々正気に戻った。そうだ、戦っている最中だった。
敵に視線を戻す。
何とか光のドームは維持できている。死のつららが霧散した影響で、白い飛沫がドームを覆っている。中が一切見えない。
「アーヴィン、防御魔法を――――」
僕の指令よりワンテンポ早く。防御魔法を砕いた蛇首がアーヴィンを跳ね飛ばす。彼の体は叩きつけられ壁にめり込んだ。
「ギィイイイイィイィィィィィイイイイイイイイイイイイイィイィイィ!」
声は断末魔に近い。
竜亀は既に致命傷を負っている。銀矢の傷口から体は半分に割れ、凍った内臓が垣間見えた。血管の凍結で死が伸びているだけだ。放置するだけで絶命する。
しかし、こんな言葉がある。
獣は、手負いになってからが本物である。
「ラナ、ベル、ゼノビア、君らは退避しろ!」
返事は聞かない。
竜亀が暴れ狂う。痛みにのたうち回り蛇首を振り回す。
これを潜ってアーヴィンを助けなければならない。僕なら一撃で死ぬな。だからといって、足を止める理由にはならないが。
「エア援護を」
「してるけど! 効いて、きゃ!」
エアが蛇首に弾かれる。直撃ではなく受け身を取って着地。すかさず矢を放つ。効果はない。
僕も矢を放つが、急所には届かない。近づけない。
蛇首がアーヴィンの近くを叩く。再生点が幾らあろうが、ペシャンコにされてそう持つわけがない。不味い、不味いぞ。次の策がない。
『はあ………………やれやれ、おれが何とかしないと駄目か』
「シュナ?! 何か手があるのか?」
『あるにはあるけど………………お師匠すみません』
離れた所にいるシュナが剣を構える。刃の腹に自分の顔を写していた。
『我が名はシュナ。武と力の誉れ高きグラッドヴェインの眷属。我が腕に、その武の一端を宿らせたまえ。我が技、我が身振り、グラッドヴェインの新たな伝説とならん! 悪竜を屠りし英雄の一撃をッ』
蛇首がシュナに迫り、
「え?」
シュナの姿が消えた。
一瞬で、彼は甲羅の上にいた。
『くっ、らえぇぇぇぇぇぇぇええええ!』
長剣が閃く。
神がかった一撃だ。
凍結し破砕したとはいえ、強固なその甲羅を、シュナは切断した。その代償として剣が氷のように砕ける。
遠吠えのような声。
竜亀の最後の息吹だ。
しかし、まだ、これでも死んでいない。
あれほど荒れ狂った蛇首が、死地の冷静さでシュナだけを狙う。お前は道連れだといわんばかりの蛇の瞳。開くアギト。
『くそっ!』
剣を失ったシュナになす術はない。
そこで、
『何が、“やれやれ”だ』
アーヴィンの声がした。
いつの間に。
シュナの真上、高く、高く。盾を掲げ。
落下速度に装備の重量、加えて気迫、力の全てを込めて盾が振り下ろされる。
金属の音が尾を引き、静寂が辺りを包む。
一拍置いて、
シュナの斬撃を起点として竜亀は崩壊する。力を失った蛇首が舌を伸ばしたまま横たわり、甲羅は無数の欠片に砕けた。
「………………」
誰も何も喋らない。漂う冷気の中、汗がぬるく頬を伝う。
甲羅を蹴散らしながら、アーヴィンがシュナに肩を貸して歩いてくる。
彼らは僕の前で止まった。
「リーダー、終わったぞ」
「あ………………ああ、みんな勝ったぞ?」
アーヴィンの声に呆けた返事をしてしまう。
勝てると思ったから挑戦したが、本当に勝ったら現実味がない。
「勝ったんだよな」
「ああ、お前とパーティ皆の力だ」
今になって膝が震えてきた。一歩間違えば誰かが死んでいた。改善点は幾らでもある。それはまた別の機会に生かすとして、
「みんな。作戦終了。勝ったぞ」
エアが駆け寄って来て僕に抱き着く。
他、女性三人組もこっちに歩いてくる。あれ、彼女らの後ろに知った姿が。
『新米パーティが、これを倒せるとは思わなかった』
不意の声に驚く。
人形が僕の前にあった。30㎝ほどの大きさ、ズタ袋で出来ている。背中には小さい羽の装飾があった。
「組合長も見学していましたか」
ラナ達に付いてエヴェッタさんが歩いてくる。
「な、何で二人が」
僕の問いに、
『面白そうだから見学に決まっているだろ』
組合長らしき人形が喋る。
「同じくです」
エヴェッタさんの返事。これは不味いな。
「しかしソーヤ。竜亀討伐には参加しないといっていたのでは?」
「二人共相談が、ちょっとこっちに」
エアをラナに預けて、組合長とエヴェッタさんを連れて広間の隅に移動。
「僕のパーティが竜亀討伐に参加していた事は、秘密にしてください」
『は?』
二人揃っての返事。
「アーヴィンの名声を得るには、エルフが協力したとあっては問題なのです。お願いします。金銭で済むなら支払いますから」
『そうだな、取りあえず金貨ご———————―――』
組合長人形がエヴェッタさんに踏み潰される。
「名声を偽装したい、という話なら断りますが。名声を隠したい、という話なら了承します。今回の件で、組合が損をする事はありませんから。ソーヤ、あなたは、あなたのパーティメンバーはそれで良いのですか? しっかり何度も話し合ったのですか?」
「織り込み済みです」
これはパーティを組む時に全員から了承を得た事だ。
「なら担当として、これ以上いう事はありません。素材の回収に人を呼びますので、ソーヤは去った方が良いかと」
「了解です」
グシャっと人形を擦り潰し、エヴェッタさんは去って行く。
皆の所に戻った。
「ラナ、エア。僕らは帰るぞ。組合の人間が素材の回収に来るそうだ」
「はい」
「りょうかーい」
「ちょっと待てよ」
シュナに止められる。
「本当に、あんたらは無関係を決め込むのか?」
「そうだ。パーティ組む時に決めた事だろ」
シュナも了解したはずだ。
「それは、そうだけど。巨人の時もそうだが、あの亀はラナさん魔法がなかったら絶対に倒せなかった」
「いえ、私だけの力ではありません。ベルさんがいなかったら、あの魔法は使えなかった」
ラナの返事を受けて、シュナが僕に詰め寄る。
「だからこそだろ! おれ達七人でやった事だ! 一人でも四人でもなく七人でやった事だ! どんな理由があっても強い人間は褒められるべきだし、誇られるべきだ! それを隠すなんて、やっぱりおれは納得できない」
こんな時に何を。
シュナは、自分の師匠と今の状況を重ねているのだろうか? 確かに、こんな天才剣士を育て上げた才人が、獣人というだけで世間に認められないのは不憫である。
だが、これはどうあっても譲れない事だ。
アーヴィンの為でもあり、僕のリーダーとしての問題でもある。決めた事である以上、絶対にブレてはいけない。
「シュナ、リーダーとして命じる。この事は二度と蒸し返すな。僕とラナとエアは、この場にはいなかった。君ら四人であれを倒したんだ。それは変わらない、絶対にな。分かったな?」
「………………」
無言で睨んでくる。
「返事をしろ」
「ここにいないのなら、命令に従う理由はねぇよ」
「シュナ!」
怒りというより、驚きで声を荒げてしまった。
「ソーヤ止めろ」
一触即発の僕とシュナ、その間にアーヴィンが割って入る。
だが僕は絶対に退かない。
どんな天才剣士でも、こいつはまだまだ精神的に子供だ。人の打算や利権の付き合いを知らない。理屈や正論を並べても飲み込まない。多少強引にでも上の人間が正さなければならない。今、僕が退こうものなら調子付いて傲慢になる。命を賭ける冒険業で、傲慢は最も死に近い。
影だろうが表だろうが、僕は彼らのリーダーをやると決めた。
だから、殺してでも死なせない。
最悪、足を射抜いてでも止めるし言い聞かせる。それでも駄目なら調教する。
素手のシュナなら弓を持った僕に分がある。
『接近警報、他のパーティかと。解散をするなら急いだ方がよいです』
イゾラの警告に水を注された。
「シュナ、続きは上にいってからだ。今回だけは、お前の要望は一切通さない。忘れるな」
舌打ちの返事。
姉妹を連れて広間を出ようとすると、
「待ってくれ、エア」
アーヴィンが意外な人物を呼び止める。
「え、なに?」
エアも驚きを隠せない。この二人が正面からコミュニケーションを取ったのは初だ。
アーヴィンがエアの前に跪いて、シンボルを掲げる。Φ<ファイ>の形をした銀のアクセサリー、聖リリディアスの洗礼を受けた証であり、その奇跡と魔法を使う媒体でもある。
頭に血が上って気付かなかった。エアの再生点が切れている。膝から少し血が流れていた。
「美しい肌だ。傷が残るといけない」
アーヴィンが治療魔法を唱える。温かな光にさらされエアの傷が消えた。
「あ、ありがと」
困惑気味にエアはお礼をいった。
僕と姉妹は、人目を避け帰還の途に就く。家に帰るまでが冒険である。まだまだ気は抜けない。
悪冠の竜亀を倒した。
しかしその達成感は、シュナと揉めた事により失せてしまった。
後に響かなければ良いが、不安だ。
それと、
「そういえば、お兄ちゃんベルとキスしてたね」
「ぶっ」
「その後、私ともしました」
「じゃ、アタシともしようか?」
「エア!」
エアがラナに怒られる。こっちにも不安の種が。
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