<第二章:名声を求めて>6
【46th day】
やや寝不足でダンジョン受付に訪れた。
朝一でマキナから通信が入り、ダンジョンで合流するよう連絡があったのだ。
色々あり、王城から直近である。
まさか一泊した後、朝飯まで作らされるとは思わなかった。あんまり親しくするのも問題だ。
「用意は問題ないか?」
『銀貨300枚、塩20㎏、霊禍水一樽、ラナ様がご所望の品は全て揃え、ザヴァ商会経由でアーヴィン様に渡してあります。加工した矢はエア様にソーヤさんの分も渡してあります。イゾラが作戦プランを作成、パーティの皆様には通達済みです』
念の為に聞いたが、用意万端じゃないか。
「いやぁ、僕がいなくても何とかなりそうだな」
『そうですね』
否定しろよ。
「お兄ちゃんおはよー」
姉妹も現れる。
「あなた、おはようございます。昨日はすみません」
「いや、お前の魔法は突破口になる。これがわかっただけでも大収穫だ。流石だよ、ラナ。この技が君の名声に繋がらないのは残念だが、僕は誇らしく思う」
「そ、そんな」
近寄って来たラナの頬に触れる。彼女はテレテレでふにゃる。
「はーい、朝からイチャイチャしなーい」
エアにラナを取られた。
『ソーヤさん』
マキナから低め目の声で忠告される。
『準備や作戦は完璧です。成功率についてはあなたには無意味な数値なので示しません。ですが、人的被害が出る可能性があります。そこだけは気を付けてください。では、ご自愛とご武運を』
「ああ、行って来る」
三人揃って僕の受付担当の所に。
銀髪から角が覗く美しい女性だ。
「エヴェッタさん、おはようございます」
「おはようございます、ソーヤ。今日の予定は何でしょうか?」
「十階層に潜って変化した生態を調査します。クエストの申請用紙はこれで」
サイン済み用紙を渡す。ちなみに、生態調査はアーヴィン達が昨日済ませ、イゾラが情報をまとめた。
「申請許可します。………ソーヤは悪冠に挑戦しないので?」
「まさか、僕は安定した冒険を求めて選んでいます。そんな無謀な挑戦はしません」
「賢い選択です。昨日と一昨日で、十七組のパーティが悪冠に挑戦し、傷らしい傷を付けられたのが三組だけです。あくまで傷を付けただけ。討伐には程遠い。挑戦と敗北が原因で、三組のパーティが解散しています。それに、挑戦して無傷で済んだパーティはいません」
凄い被害状況だな。
明らかに新米パーティが戦う相手ではない。
「あなたの言葉、無謀を冒険の花と勘違いしている連中に聞かせてやりたいです。しかし、時にはその無謀さが必要になる時もあります。記憶のどこかに置いておいてください」
「了解です」
「では、良い冒険を。必ず生きて帰って来てください」
「はい」
担当を騙すのは心苦しいが、アーヴィンの為に、エルフが関わっている事は隠さなければならない。これは組んだ時に決めた確約だ。絶対に破らない。
エヴェッタさんと別れ、ポータルを潜り、ダンジョン十階層でアーヴィン達を待つ。
「あなた、あの、もし、これ、よかったら、ですど、いえ、その、大したものでは、ないのですが、どーしても、あの、その………………」
「え?」
ラナがどもりながら話しかけて来る。鞄から何かを取り出そうと、しまっては、取り出そうと、しまう。エアはそれを微妙な表情で見ていた。
「エア、やっぱりあなたから伝えて」
「ダメー、伝えなーい。お姉ちゃんが自分でやるっていったんでしょ」
「ええ」
姉妹のやり取りに疑問符を浮かべる。
困り顔のラナを見かねてか、エアがラナの後ろに回り腹話術のように喋り出す。
「いっしょうけんめい、つくりました、たべてください」
ラナが顔を真っ赤にして、鞄から葉っぱに包まれた塊を取り出す。
「ふ、普段あなたが作っている物に比べたら、粗末な泥団子と同じでしょうが。よかったら、食べて、ください」
受け取って剝いてみる。あ、おにぎりだった。
マキナから通信が入る。
『塩とお米以外の内容物はありません。安心してください』
食べる。
少し塩辛く、ちょっと固めだが、噛めば噛むほどお米の甘みが口中に広がる。白米が嫌いな日本人はいません。これ、ラナが握ったのか………………不味いわけがないだろ。
「美味しいよ」
「ほ、ホントですか?! 私を気遣っていませんか?」
「いや、本当に美味しいよ」
「ホントにホント?!」
ラナが詰め寄って来る。
「本当に本当」
奥さん近いです。完食した。
「よかったぁ~あの、沢山あるので食べてくださいね」
開いた鞄には、おにぎりがギッシリ詰まっていた。
『ソーヤさん。四十個ほどございますが、あまり食べ過ぎて冒険に支障がでないように』
そんなに食えるか。
「ええーと、ラナ。みんなで食べようか僕一人じゃ食べきれない」
「はい、そうですね」
ほどなくアーヴィン達が現れる。樽やその他の荷物を抱えていた。
挨拶も程々に、皆でおにぎりを片付ける。エアが味に飽きたからと、適当な調味料を付けて食べ始める。案の定、シュナとベルとで調味料の取り合いになる。
ラナが作ったと伝えたが、これとして抵抗なく、アーヴィンがおにぎりを口にしていたのが、嬉しかった。
腹も膨れ、
では、
いざ、悪冠竜亀ミドランガの討伐に。
友の名声の為に。
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