<第三章:ぬばたまの闇より矢を放つ>3
【9th day】
ん。
夜が明けていた。
眠っていたようだ。いや気絶したのか。
頬に草と土の感触、鼻先に白い物体が触れる。異世界の羽付き兎だった。野生動物なのに人懐っこい。そういえば、キャンプ地に侵入してミスラニカ様に追い払われていた。
ゆっくり手を伸ばすと、僕の指先をすんすんと嗅ぐ。首辺りをちょいちょい掻いてやると、羽を小さく動かす。可愛らしい。飼おうかな。
「お前は、雪のように白いから。雪彦だな」
飼う。名前も決めてしまった。
「こっちの兎の餌って野菜でいいのかな?」
こねこね撫でくるが、雪彦は逃げるそぶりすら見せない。こいつは野生で生き残れないだろう。ここで出会ったのも何かの運命だ。
「よし何か食わせてやる」
立ち上がると、
トスっと雪彦の頭に矢が刺さった。
「雪彦ぉぉぉぉおおおおお!!!」
「朝ご飯獲った!」
矢を放った体勢のエア。雪彦は一発で絶命していた。苦しまなかったと思いたい。現実とはなんて過酷なのだろう。
「え、もしかして徹夜で練習していたの?」
「夜明け近くまでは記憶がある。いや、これ楽しいよ。僕に向いているのかもな」
「ふーん、見てあげるわよ。朝ご飯食べた後でね」
矢を抜いた雪彦の躯をエアが差し出す。受け取る。
雪彦ぇ。
まだ温かい雪彦の耳を持ってキャンプ地に戻る。
『おはようございます、ソーヤさん。練習に熱が入るのもよいですが、お体は大事にしてください。コーヒー入れますか? それともココアがよいですか?』
「ココア二杯で」
たぶんエアが欲しがるだろうから。
マキナはキッチンに火を入れてお湯を沸かしていた。
「マキナ、兎捌ける?」
『お魚は捌けますが、兎はやった事ないですね』
「え、魚捌けるの?」
適当に聞いて、驚いた。
『えっへん、マキナは元々調理ロボットとして造られたのです。その旧世代の記憶や経験は多少残っていますから、お魚捌くくらい朝ご飯前です』
「で、その経験で兎は?」
『日本の食卓に出ませんからね、兎。血を抜いて内臓抜き、皮を剥げば良いのでしょうか?』
「たぶん」
うーん、と二人で首を傾げる。マキナがどういう構造で斜めになっているのか、不思議だ。こいつ実は変形できるんじゃないか? 一応、日本製だし。あ、合体とかもできそう。
「何? 兎も捌けないの? ぷっ」
エアに笑われる。
「全くヒームって奴は、なーんにもできないのね。貸して、やってあげる」
彼女は雪彦を僕の手から取り上げると、取り出したナイフで羽と頭を落とし、腹を裂き内臓を掻き出し、後ろ足に切り込みを入れると、服を脱がすような手つきで皮を剥いだ。
「はい」
エアから、綺麗に肉彦になった雪彦を受け取る。やや複雑な気持ちはあるものの、しっかり食べてあげなくては死んだ意味がない。
しかし、兎ってどう食べるんだ。
『ココアできましたよ』
「あっつ、熱い、甘い!」
まな板の上の肉彦を眺めていると、隣でそんなやり取りが行われていた。取りあえず、不衛生なので肉彦の残骸をゴミ箱に捨て手を洗った。
食糧庫に移動、カットした豚肉に野菜、調味料と竹串を取る。戻る。
「鍋借りるぞ」
『はーい』
醤油、みりん、麺つゆ、砂糖を目分量。小指で味見。よし。
「煮立ったら教えてくれ」
『らじゃ』
肉彦を解体する。爪先を落とす。骨っぽい部分を避けて一口大に切り揃えて行く。鶏肉っぽいな肉彦。時間があればコトコト煮込むのもよいが、今はないので骨が多い所は肉叩きハンマーで潰す。ここは僕が食べればよいだろう。根菜も一口大にバラす。
出来た材料を竹串に刺して行く。
『煮立ちましたよ~』
「おう」
鍋を見る。水溶き片栗粉を入れてトロみを足す。再度味見。悪くない。うーん、後一つ何か足りないが、足すと全体がおかしくなりそうな味だ。素人ではこのくらいが限界か。
タレを火から離す。
「マキナ、できるか?」
『もちろんできます』
竹串を渡す。マキナはアームで材料を揃えると手早く刺し込んで行く。
車輪の軋む音が近づく。のんびりした老馬の嘶き。のんびりした老人の掛け声。昨日頼んだ、農奴のおじさんが来た。
馬車に積まれた取れたての野菜を見せてもらう。
白ナス五本と太くてでかいキュウリ三本に瑞々しいトマト三個を購入。銅貨五枚という破格に驚く。保存が効かない野菜は総じて安いらしい。また明日と手を振り、別れた。
『はい、できました』
マキナは材料を竹串に挿し終わっていた。
「お前、凄いな」
『えへん』
串に刺さった材料をタレに漬ける。
火の上に網を置いて、まず一本試し焼き。甘さの混ざった醤油の焼ける匂い。朝から、ヘビー級のパンチだ。ご飯食べたいなぁ。でも米はあんまり無いから我慢。
「………………」
エアが僕の分のココアを飲みながら、串焼きを凝視していた。
獲物を狙う眼光だ。
兎の少ない肉汁が熱で浮き垂れる。玉ねぎの端が少々焦げた。
『そろそろ反対側を』
「了解」
返す。タレを追加で垂らす。凶悪なタレの芳香がキャンプ地を包む。甘くした醤油で、不味くなる焼き物はこの世には無いと思う。
「こんなもんか?」
肉色良し、野菜のヘタリ具合良し。
『マキナ的に65点の焼き加減です。大腸菌は熱で死滅しているので安全に食せますよ』
「お前、厳しいな」
さっそく味見しようと、手首を掴まれた。
「食べるの?」
「そうだが」
エアの腕力は中々だ。串焼きが口に行かない。口の方から行こうとして、腕を掲げられた。
「まず味見しないと美味しさの基準がだな」
「じゃ、一口。アタシが一口先に食べる。一口だけ」
「嘘だ。お前絶対全部食べる」
そういう顔している。
まだまだ串焼きはあるのに、一本を廻りエアと揉める。
「よし、よしわかった。同時に食べよう」
「いやよ! 気持ち悪い!」
「傷つくな! 他にもあるんだから、ちょっと我慢しろ! ちょっとな!」
「あんたが我慢すればいいでしょ! アタシは今、食べたいの! よ・こ・せ!」
この子供が、と思いつつ僕も譲らない。これを譲ったらこの先延々と同じ事をされそう。
ちょこざいな揉み合いをしていると、
「そこのエルフ」
後ろから声がした。
「その男から手を離せ。我が客分の食事を奪うとは、恥を知れ」
ゲトさんが銛を構えていた。
何でまあ、ややこしい瞬間にこの人は。
「き」
ん? エアは顔を真っ青にして、
「きゃぁあああああああああああああ!」
大音量の悲鳴を放った。咄嗟に僕の背に隠れてガタガタ震える。
「我が神エズス、我が神エズス、森の恩寵により深淵の者達から我らを守りたまえ」
僕を盾にしても防御力はたかが知れているぞ。
「全く失礼極まるな、エルフは。度し難い」
「すみませんゲトさん。子供がした事なのでお許しを」
「何故、ソーヤが謝るのだ。解せん」
双方を落ち着かせて、食事の席に座らせる。その間、マキナが串焼きを焼いていた。ちらり横目で見る。くやしいが僕より上手い。皿に盛られた串焼きの焼き加減も、お店に出せるレベルだ。取りあえず、自分で焼いた奴を食べる。まあ、美味し。
「ソーヤ、朝餉か?」
「おはようございます、ミスラニカ様。もうできますよ」
「うむ、マキナ。それは何の肉じゃ?」
『取れたての兎です』
「兎かぁ、妾骨っぽいのは嫌いじゃ。そっちの豚の方が良い。きちんと冷ませよ、後そのソースは食べる前にもう一度漬けよ」
ミスラニカ様はマキナの頭に乗って、自分が食べる串焼きを予約していた。
「おい、ソーヤ。忘れていたが、これ」
「毎日どうも」
「いや、朝飯を食わせてもらっているからな」
網に入った貝類を貰う。お、牡蠣が沢山。さっそくいただこう。
「マキナ、スキャンを頼む」
『はい、手が離せないので。下の検査ボックスに入れてください』
牡蠣を一杯マキナの中に入れる。ゲトさんが持ってくるモジュバフル大洋の海産物は、水質が良いので殆ど生食でいける。といっても寄生虫は入るので、検査は必須だ。
他の牡蠣は身を取り出し、水で洗う、片栗粉を塗す、優しく揉む、水で洗う、という工程を三回やってぬめりと汚れを取る。塩水に入れて一旦放置。
白ナスを軽く火で炙り、スティック状に切る。きゅうりも同じように切る。トマトは四つ切り。掴みやすい大きさにする。今日はワイルドに全部手掴みで食べるつもりだ。
ドレッシングを作る。粒和風出汁、酢、砂糖、醤油、ごま油を混ぜ混ぜ。味見して、酢と醤油を追加。野菜を皿に盛って、ドレッシングは隣のコップにヒタヒタに入れる。
『ソーヤさん、検査終了です。生食、問題ありません』
「そうか」
ボックスから取り出した牡蠣に、レモン汁と塩をかけて直食いした。
なんじゃこりゃ、美味いなんてもんじゃない。身が新鮮過ぎて口の中で踊り出しそうだ。贅沢で肉厚な感触だが、身は絶妙な噛み堪え。実に濃厚でクリーミー。喉を通る麗しさは果実のようだ。素材の真価である。許されるのか? こんな美味しくて。
「ソーヤ、オレの分は?」
感動に震えているとゲトさんにジト目を向けられる。
他の身をボウルに移し、ポン酢とレモン汁を適量。無粋に味付けしたくないが、ゲトさんは素材味に慣れているので、日本の調味料で新鮮さを出す。
貝殻は手早く自然由来の洗剤で洗う。それを大皿に並べて、味付けした身を戻して行く。もう一度、ポン酢&レモン汁を上から撒く。完成した物をテーブルに置いた。マキナも同時に料理を置いた。
「本日の朝ご飯。異世界牡蠣の生食と、サラダ大盛和風ドレッシング付き」
と、
『具だくさん串焼き、タレです』
更にマキナが緑茶を並べる。
「お、おおー」
エアが、喜びと恐怖の感情を半々にした顔を浮かべる。
「これ、生なのよね?」
牡蠣を指さす。
「新鮮だし問題ないぞ」
『はい、問題ありません』
「いやなら、食わんでええ」
ゲトさんがさっそく牡蠣を食べる。相変わらず貝ごと。割と物騒な咀嚼音の後、
「美味っ」
カッと見開いた目が、ズレたサングラスから覗いた。
「食い飽きた貝がこんな美味いもんか」
贅沢な食生活だな、この人。
「エア。食べる前に手洗えよ。後、姉さんを起こせ」
手洗い用の水桶を持ってくる。
「お姉ちゃんなら昼まで起きないわよ。昨日も夜遅くまで起きていたし、寝かせてあげてよ」
「ん………ああ、そうか。そうだな」
何で起きていたのかは聞かないでおこう。そうだよな、知らない相手の住まいだ。警戒しない方が馬鹿だ。
エアは手を洗うと、恐る恐る牡蠣を食べようと、
「やっぱり、あんたが先に食べて」
「さっき一杯食べたが」
「いいでしょ!」
「はいはい」
「やれやれ、こんな美味いもん。エルフに食わさんでも」
呆れるゲトさん。手を洗い、いただきますと牡蠣を食べる。
「美味いすぃ」
ポン酢に素材が全然負けていない。何という相乗効果。僕とゲトさんの牡蠣を食べる手は止まらない。
「ミスラニカ様、食べないので?」
ちゅるんと一杯食べて聞く。
「妾、宗教的な理由で生は食べぬ」
それは仕方ない。
「何これー!」
まあ、食べたエアが歓声を上げた。
ゲトさんへの恐れも忘れて牡蠣を食す。てか、何で怖がったのだろうか?
「これお姉ちゃんにも食べさせてあげたい」
「うーん、生だと傷みやすいし。また別の日にな」
冷蔵庫って、手作りできるのだろうか? デバイス用のバッテリーとソーラー給電装置はあるのだけど。
「約束よ! 絶対だからね!」
「はいはい」
安易に約束してしまった。取りあえず、牡蠣は三人で平らげた。二十杯あったが五分もかからず完食した。
『ミスラニカ様、こちら冷めていますよ』
「うむ、よきにはからえ」
串焼きは、まず神様が先に食す。別に意味は無い。
「う、む。うむ。中々これは、うむ」
マキナに食べさせて貰っていた。具は豚と玉ねぎ。当たり前だが、普通の猫に玉ねぎをあげたら駄目だ。絶対にやってはいけません。うちのは神様だから安全です。人間の姿で飯食べてくれないかな。
「マキナよ、やはり兎も食べるぞ」
『はい』
じゃ、僕らも食べる。
「甘塩っぱい。変な味」
「気に入らないか?」
「そうでもない」
エアは七割くらいの美味しい顔で食べる。
「贅沢な。オレは美味いと思うぞ」
ゲトさんの言葉に嘘はないようだ。両手に串焼きを持って交互に食べている。ちょっと思い立って、調味料を取ってくる。
「エア、これかけてみ。ちょっとだぞ。こっちの世界じゃ貴重な物だからな」
七味の小瓶を渡す。
不思議そうに蓋を開け閉めして、ちょこっとかける。食べる。
「あ、美味しい」
目が輝く。ガシガシかけて食べ出す。
「辛いっ美味ッ、辛い!」
涙目。わかりやすい奴だ。
「ソーヤ、妾もそれ」
「オレも」
二人も七味を試す。ミスラニカ様は辛い物が苦手で不評であった。ゲトさんには好評である。この人、何でも美味しく食べてくれるから好き。
「てかみんな、野菜も食べようね」
余り減らないサラダを僕が頑張って仕留める。こんな美味しいのに。ドレッシングが不評なのか? もっと頑張らないと。
人数が増えると食事は楽しい。わいや、わいや、と朝食が済んだ。
満腹のエアは草の上に横になり、その傍でミスラニカ様も横になる。
川で皿を洗っているとゲトさんが隣に腰かけた。
「色々と言いたい事はあるのだが、そも、魚人と平気に付き合うお前だ。オレから何を聞こうと変わりはしまい。それに陸の種族のゴタゴタを海の種族が語るのは、おこがましい。しかし客分として迎えた以上、放置するのも気に病まれる。ほれコレやる」
「何ですか、これ?」
干からびた指、いやタコの足? のような物。
「我が神、グリズナスの触手だ。最悪の状況に陥って偶然に水場があったのなら。これを手に、我が名を借りて神を呼べ。運が良ければ救いが、恐らく、たぶん、来る、と、良いな」
「え、えぇ」
不確定な救いだ。
「我が神は気まぐれなのだ。海の者ですらその意思は汲み取れない。本当に、最終手段として使え。死ぬよりもおぞましい結果を覚悟して使え。できれば、そんな状況には陥るな。お前は賢い人間だと思う。思うが、非常に愚かな賢さを持っている。その危うさ、オレは嫌いではないが定命の者には身に余る思想だ。そんな感じで………オレは帰るぞ。またな」
「また」
ドボンと魚人飛び込む水の音。消え去る姿は影のよう。
貰った触手を見て、タコ焼きが食べたくなった。
さて、弓の練習しよ。
矢筒を担ぎ的の前へ。少し馴染んだ弓を引く。十本ほど矢を放ち、命中率は七割。常にこれなら良いが、疲労や集中力でここから下がる。
「あー、ダメダメ。力み過ぎ」
後ろにエアがいた。彼女は涅槃仏のように横になっている。
「呼吸に合わせて弓を引き、放す。それが合ってないから無駄に力が入って、肘も手首も痛むのよ」
「了解」
いわれた通りにやっては見たが、息継ぎを間違えて矢が見当違いな方向に飛ぶ。
「矢が相手に当たったら呼吸をする。そのくらいのタイミングまで体を固める」
「はい」
何か教師らしい指導だ。指示通りに放つ。当たった。綺麗で、思ったより体に負担の少ない一射だった。
「今のソレ、繰り返し体に覚えさせる」
「はい」
今の感覚を刻むように体に覚えさせる。繰り返し繰り返し繰り返す。銃と似ていると思ったが違う。その感覚の差異を消して行く。撃つのではない、射る、放つだ。
矢筒に伸ばした手が空を掻く。
「これ使って」
じゃらっと矢筒に矢が追加された。重さで体が後ろに傾く。
「昨日の夜、暇だったお姉ちゃんが組み立てた。これどこで買ったの?」
「ザヴァ商店だ。勧めてくれたのは獣人だったけど」
「なるほどね。ルササ族の狩猟矢に似てる。当てれば威力あるよ。その分、重いけど」
試しに番える。矢柄も金属製だからか、キュイの矢より三倍は重い。それを考慮し照準はやや上。呼吸を止める。最初は、絶対に外さない。
放つ。
心なしか羽音も低い。当たる音は鈍い。矢は的を貫通した。
「はーい、練習練習」
「了解了解」
エアがいるせいか、矢が合っているせいか、コツを掴んだせいか、気持ち良いほど当たる。これは調子に乗る。
的を射抜く。
四本目で的の支柱がぐらつき。
五本目で完全に破壊した。
どや、っとエアを見る。複雑な表情をしている。
「そ、そんなねー! アタシだってそのくらい! 弓持って半日くらいでやったわよ!」
「そりゃ凄いな」
「いいから練習! 昼までに百は射って!」
「了解」
こんな事もあろうかと、マキナが用意してくれた予備の的を地面に挿す。回収した矢に傷みがないか確認して矢筒に戻す。
「あ、待って。次から矢を的に当てる度に三歩下がって。外したら元の位置に戻る。はい、はじめ」
「はいよ」
練習である。
何事も。
考えずとも矢を放ち射殺せるよう肉体に覚えさせる。でもこれは無駄な事かもしれない。上等の弓を担いで、上等な技術を習得しても、白紙に潰されれば無意味だ。
ま、駄目なら次だ。それも駄目なら次を試す。延々と試し続ける。試す思考と力を失くす日まで。僕のここでの生活とは、こんな感じで過ぎ去るのだろう。
四本目を外す。
エアが後ろに立ち、外す度にブーイングを上げる。
元に戻る。
繰り返す、繰り返す。が、意外とすぐ、変化は訪れる。
五度目のトライ。七本目。的までの距離は十八メートルくらいか。
矢を番えイメージする。矢の軌道、感覚的に想像する曲線を。弦を引き、線を的に合わせ、放つ。その瞬間、風が吹いた。
回る矢にしなる矢柄。
矢は的を射抜いた。
僕の感覚は狙いを外していたが、風がそれを修正した。
奇跡だと思う。神の御業か、悪戯か。しかし、これとして意味のない奇跡だ。それでも、当たりは当たり。
「エアどうだ?」
振り向いてガッツポーズ。だが視界にエアはいなかった。いや、少し下にいた。丸まって呼吸を乱していた。
「………………エア?」
返事はなかった。
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