嘘つき少年のたからもの

銀礫

嘘つき少年のたからもの

 これは、とある嘘つき少年のお話です。





 少年は、嘘が得意でした。

 家族に。友達に。社会に。そして、自分自身に。

 その嘘は、どこまでも優しく、そして冷たいものでした。


 少年は、たからものを持っていました。

 しかし、いつも見えないところにしまいこんでいました。

 家族からも。友達からも。社会からも。

 たからものは、儚くも綺麗で、そしてあたたかいものでした。


 少年は、たからものをかかえながら嘘をつき続けました。

 そして、嘘の優しさが、ココロを凍結させたとき。


 たからものは、少年からも見えなくなってしまいました。





 少年は、常識的に成長していきました。

 優しくて、そして冷たい青年に。


 しかし、青年は気がついていませんでした。

 嘘をつき続けることに、いつの間にか必死になっていたことに。

 いちばん大切なたからものを、いちばん大切にしていなかったことに。





 そして、その日が来ました。

 ずっと、ずっと、優しくしてきた相手から、やっと手を差し伸べられたのです。


 しっかりと。そして、荒々しく。


 凍傷だらけのココロは、為す術もなく削れていきます。



 ガリガリ、がりがり



 おもむろに、中から何かの雫がこぼれました。

 雫は気化して霧となり、全てを覆い隠します。


 とうとう、何も見えなくなってしまいました。

 ただ、既に何も見ようとしなくなっていた青年は、その異変すら見逃してしまいました。



 がり、ガリガリ



 がりガリ、がガりガリ



 がりがりガりガリががリがり





 こつん




 

 何かに、当たりました。

 そして、ちいさな火花が散りました。


 瞬間。

 火花は気化した雫に引火し、全てを巻き込んで燃え上がりました。

 家族の期待も。友達の応援も。社会の常識も。


 その全てが灰となり、風に流されて消えた頃。


 凍傷だらけのココロは、火傷だらけになりました。

 しかし、炎の熱は命となり、傷はかさぶたとなりました。

 ふさがれた傷からは、もう雫はこぼれません。

 削られて、ちいさくなった青年のココロは、ちょうど少年のそれぐらいの大きさになっていました。



 かさぶただらけで、不格好なココロ。




 その中心には、紅くきらめく、たからもの。




 見惚れていました。

 ずっと、ずっと自分が持っていたたからものに。



 少年は、嘘偽りなく言いました。



 こんどから、このたからものは、見えるところに飾っておこう、と。

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嘘つき少年のたからもの 銀礫 @ginleki

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