第23話 境界線上の交神規定《プロトコル》 宴の始末 

「お婆さん。先程は本当に助かりました」


 その後、禮次郎とクチナシは泊まっていた民宿の老婆が迎えに来てくれたお陰で、島の人々に気づかれる前に島の港へと送ってもらうことができた。


「また来てねえ二人共!」


 比較的訛の少ない民宿の老婆は、禮次郎とクチナシの手を握ってニコニコと微笑む。

 その左手には、昨日のガラの悪い観光客がつけていたものと同じ会社の、高級腕時計が輝いている。


「ええ、また来ます。なあクチナシ」

「僕は……うん。また、来たい……かな。ありがとうございましたお婆ちゃん」

「良いの良いの。だって貴方達、でしょう? うちの孫も世話になったから、ご恩返しみたいなものだよ」

「あ、あの……」


 何かを言いかけたクチナシを禮次郎は素早く制する。


「ところでお婆ちゃん。良い時計だね? 音で分かるよ。何処で買ったんだい?」

「あら、耳が良いんだねえ禮次郎さんは」


 老婆は笑うがその問には答えない。


「時計が趣味でね。良かったらそれ、売ってくれないかな? お金なら出すよ」

「……あら、あらあら。そんなに珍しいものなのかい?」

「そうなんだ。これでなんとかならないかな」


 禮次郎は明らかに多すぎる金額を老婆に渡す。


「禮次郎さんからは宿で心付けもたんまり貰ってるのに悪いねえ」

「それは婆ちゃんの島豆腐がうまかったからだよ。あとタクシー代」

「ふふ……心配なんくるないさあ。此処は何の事件も起きない平和な島だからねえ」

「そうか、平和な島ね。それは良い。実に良い」


 禮次郎は満足げに頷く。


「ありがとよ、婆ちゃん。そっちこそ、これで美味しいものでも食べてくれ」


 禮次郎は老婆に金を渡して時計を受け取った。

 老婆は満足げに笑みを浮かべ、禮次郎達と別れた。

 禮次郎達が船に乗り込んだ時、禮次郎の携帯にメールが入る。

 隣に座るクチナシからだ。


『禮次郎、その時計どうするの?』


 禮次郎はメールを返す。

 視力の関係で若干の文字の打ち間違いは有ったが、内容はこうだ。


『近くの寺に納めてやるさ。チンピラだが別に死ぬ程悪いことした訳じゃねえ。あいつら馬鹿で運が悪かっただけなんだ。助けられなかったんだし、遺品を寺に収めて弔いくらいはしてやらないと、哀れだろう』


 クチナシはその文面を見ると禮次郎に向けてニコリと笑い、禮次郎の肩に自分の肩を寄せた。


     *


 1999/08/14 ③

 この日誌は帰りの船の中で書いている。

 終わってみればあっけないものだった。

 神主を拷問して聞き出した情報を元に、いしを井戸に投げ込んで、しばらく待っていると霧が晴れて、神社の中の奇妙で淫靡な光景も消えてしまった。実際に目で見た訳ではないが、恐らく見たところであまり興味を惹かない光景だっただろう。そもそも男か女かもわからないようなものだって大量に居た筈だ。

 それはさておき、あの奇妙な二人組は霧が晴れると同時に消えてしまった。

 本当ならば、雇い入れて戦力にしたかったところなのだが、非常に惜しい。恐らくはあの霧……アザトース(?)の魔力で世界線が乱れたことで迷い込んできた異世界の人間だったのだろう。また何時か、似たような問題が起きた時には会えるかもしれない。

 しかし解せないことが一つ有る。だとしたら、何故彼女らは俺がシュブ=ニグラスと渡り合った事を知っていたのだろうか?

 阿僧祇マリアの関係者が、彼等の世界に行ったのだろうか?

 いや、まさか彼女自身が――。

 クチナシが最後に見た何か、阿僧祇マリアの行方、そして佐々総介がわざわざ俺達をここに派遣した意図。

 考えてみれば、これは終わりではなく、始まりなのかもしれない。


~香食禮次郎の日誌より 一部抜粋~



【第23話 境界線上の交神規定プロトコル 宴の始末エピローグ 終】

【Leisure Season Normal END】

【2nd Season Coming Soon】

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