第5話 獣の聖母は疵を刳る

 神居古潭カムイコタンにおける探索から一週間が経過した。

 清水会せいすいかいの組長から、今回作成されたクチナシの戸籍や個人情報についてまとめた書面が送られてきた。

 クチナシは禮次郎れいじろうよりも先に封筒を開けて、目を輝かせながらその書面を眺めている。


「香食クチナシになってる!」


 名前欄を見て驚くクチナシ。


「ねえねえねえ! 禮次郎! なんか知らないけど僕が二十歳になってるんですけど! 福祉の大学に通ってるんですけど!」

「ハ、タ、チ……?」


 禮次郎は慌てて年齢欄を確認する。間違いなく二十歳だ。

 この作品に出てくる女の子はみ~んな十八歳以上だよ! とかそういう生易しいものではない。

 もっと恐ろしい、1990年代の、対暴法がおとなしかった頃のヤクザの力である。

 ――何やってんだよ組長オヤジさん……!

 禮次郎は頭を抱える。


「これで僕も二十歳だ! 警察だって怖くない!」

「……おう」

「それとも禮次郎は十二歳くらいにしておいた方が良かった人?」

「知らん……いや、その、実年齢は?」

「あ、レディーにそういうこと聞くの失礼なんだー!」

「ああ、分かった。悪かった。気にしないよ」


 禮次郎はそれ以上の追求を諦めた。


「そうだよね。僕は僕だもんね!」

「お前のそのポジティブさが羨ましいよ……」

 

 禮次郎はため息を付きながら肩をグルグルと回す。

 先日、神居古潭カムイコタンで痛めた肩も大分治ってきた。


「よし、書類も届いた。外に飯でも食いに行くか」

「なになに? 外に食べに行くの?」

「羊ヶ丘までジンギスカン食いに行くぞ。ちょっとした気分転換だ」

「ジンギスカン? やったね! ビール飲んで良い? 僕ハタチだし!」

「駄目」

「うにゃっ!」


 禮次郎はクチナシの頭を小突いた。


「お酒は二十歳になってからだ」

「うぅ~分かったよぉ……でもさ」


 先程までケラケラ笑っていたクチナシが、禮次郎の頬に両手を添える。


「なんだ、急に」


 そして何時になく真面目な表情になる。


「これを用意してくれたのは嬉しかったけどさ。これ以上、無茶はしないでね。僕のせいで禮次郎が辛い思いをするなんて、僕は……」

「心配すんな。元からゴミのような人生だったんだ」

「禮次郎……そんなこと、ないよ」

「そうだな。今の俺にはやらなきゃいけないことが有る」


 ――クチナシを拾ってしまった人間として、その責任を果たさなくてはいけない。

 ――俺が彼女の人生を守らなくてはいけない。


「だから心配するな。今の俺は自暴自棄な真似はしない」

「禮次郎……」

「心配性が過ぎるぞ」


 禮次郎はクチナシの両手を自分の頬からどけて、玄関に向かう。


「ほら行くぞ」

「う、うん! ねえ禮次郎!」

「どうした?」

「僕に聞かせてくれない? 僕と出会う前の禮次郎に、何が有ったのか。どうしてゴミみたいな人生だなんて言うようになったのか」


 禮次郎は暫し沈黙した後、ゆっくりと息を吐き出す。


「面白い話じゃねえぞ」

「かまわない」

「事情があって全部は話せねえぞ」

「良いよ」

「じゃあ飯の後にでも話すか」


 禮次郎とクチナシは、フィアット500に乗り込み羊ケ丘へと向かった。


     *


 今の禮次郎から見て、遡ること十年以上前の、ある日の話だ。

 薔薇の美しい庭のベンチに座りながら、小学生の男女がゲームに熱中していた。

 一人はかつての香食禮次郎、もう一人は彼の友人だった阿僧祇あそうぎマリアだ。


「まだ遊んでいたの? もう五時よ。禮次郎君のお父さんお母さんも心配するから帰りなさい」

「ママ! 今良いところだったのよ?」

「駄目なものは駄目よ。ほら、早く貴方もお家に戻りなさい」

「もう……じゃあまたね、禮次郎君」


 小学校で決められた門限が近づいたことで、少女の母が遊びの時間が終わったことを告げに来た。


「うん! また明日ね、マリアちゃん」


 阿僧祇マリアは緑の瞳を細くして微笑み、金の髪を揺らして頷く。そんな彼女の笑みは、この庭で咲く花の中でも一際輝いていた。


「うん、また遊ぼうね!」


 後ろ髪を引かれる思いだったが、禮次郎はあっさりと家路についた。

 ――明日もまた会える。

 そう思っていたからだ。


「ただいまー」


 家に帰った禮次郎を出迎えるのは彼の母親だ。

 

「あら、おかえりなさい禮次郎。今日は何処で遊んできたの?」

「今日もマリアちゃんと遊んできたよ」

「あらそう。楽しかった?」

「うん! 二人でゲームしてた!」

「そう……偶には家の中で遊ぶのも良いわね」

「遊んだのはお庭だよ。三時のおやつにって、マリアちゃんの新しいお母さんがクッキー焼いてくれたんだ!」

「そうだったの? 素敵ねえ、今度お礼しなきゃ」


 禮次郎の母はそれを聞いてニコリと微笑む。


「あっ、いけね。マリアちゃん家に通信ケーブル忘れちゃった」

「あらあら……」

「取りに行ってくる!」

「夕食の邪魔をしちゃ駄目よ。それに明日も遊ぶんでしょう?」

「でも置きっぱなしの方が迷惑かもしれないし!」


 この時、禮次郎はマリアに会いたいとしか思っていなかった。

 母もそれは分かっていたのだが、息子があまりに熱心に主張するものだから、終いには折れて彼のしたいようにさせてあげることにした。

 禮次郎は阿僧祇家の前まで走り、チャイムを鳴らす。


「……おっかしいなあ」


 返事は無い。

 ――外食にでも行ったんだろうか。

 禮次郎は困ってしまう。


「誰か居ませんかー?」


 そう呼びかけても返事は無い。

 ――家の前で自転車のベルを鳴らしただけで、マリアちゃんなら来てくれるのに。

 マリアの父の車はまだ無いが、継母の車はまだ有る。

 ――ということは誰か居る筈なのになあ。

 禮次郎は不審に思い、ぴょんぴょんと跳んで玄関の窓から家の中の様子を覗こうとする。

 だがカーテンのせいでよく見えない。


「うーん……まあいいか」


 どうせ遊んでいたのは庭なのだ。

 禮次郎はこっそりと家の裏手に回って庭から通信ケーブルだけ持って帰ることにした。

 家の横を回って裏の庭にたどり着いた禮次郎。

 そんな彼の耳に、妙な声が聞こえる。


「あっ……んっ!」


 禮次郎はそれが何を意味するかを知らない。

 ただ、その声には聞き覚えが有る。

 彼のよく知るマリアの声だ。


「怪我でもしたのかな……」


 禮次郎は辺りを見回す。

 庭に置いてあるのはベンチとコンクリブロック。

 彼はその二つを組み合わせて、少し高い所に付いた窓から家の中の様子を覗く。


「……なに、あれ」


 庭の窓から見えた阿僧祇家のリビングはあまりに冒涜的だった。

 床に赤く塗られた六芒星の紋章。

 その角には一本ずつ蝋燭が置かれ、小さな火を灯している。

 そしてその中央では、二人の女性が裸で絡み合っている。

 幸か不幸か二人は禮次郎の方に足を向けている為に、禮次郎の姿には気づかない。

 

「……マリア、ちゃん……!?」

 

 上になっているのがマリアの継母、そして下になっているのがマリア。

 マリアは手錠と目隠しをされた上で、継母に組み敷かれながら、窓越しでも分かる程の嬌声を漏らしていた。

 継母は手に持ったナイフでマリアの肌を少しずつ傷つけながら、そこから溢れる赤い血を舐めとり、同時にゆったりとした淫靡な動きで娘に腰を擦り付けている。

 傷だらけのまま悲鳴を上げ続けるマリアを見て、禮次郎は完全に言葉を失う。

 ――マリアちゃんがいじめられている。

 この光景の意味が禮次郎には分かっていない。

 此処から離れて親に報告するべきか、今から止めに行くべきか、

 そもそもこれは何をしているのか。

 何か悪いことをして怒られているという雰囲気じゃないのは、まだ幼い禮次郎にも分かった。


「んっ……ふぅ……う! ああっ!」


 禮次郎が何も出来ずにいる間にも、マリアは肌を刻まれ、その度に艶かしい嬌声を上げる。

 肩を、肘を、耳朶を、胸を、首を、腹を、溢れ出る血でその身を洗うかのように、マリアの継母は溢れ出る血液を自らに擦り付ける。

 マリアは傷つけられながらも身体を小刻みに震わせ、頬を上気させていた。


「ママ、もっと……」

「駄目よ、マリア。こんなの、いけないの……なんでこんなこと、私にさせるの?」


 一方でマリアの継母は今にも泣きそうな顔でマリアに縋り付く。


「……ふうん」


 カチャリ、と音を立てて手錠が外れる。何かが触れた訳でもないのに勝手に鍵が開いた。

 マリアは自由になったその手で自らの継母の頭を抱きしめ、彼女の頭を優しく撫でる。


「ママは嫌なの? だったらおしまいにする?」


 血に濡れたマリアは、クスクスと嘲笑わらう。

 

「やめて、私を見捨てないで、マリア」

「呼び捨てにするの?」

「私のマリア様……」

「貴方のものじゃないわ?」

「ご、ごめんなさい!」

「ふふ、良い子。でも……貴方にもそろそろ飽きてきたわね。こんな簡単に壊れちゃうんですもの」


 マリアはそう言って禮次郎の居る窓の外の方を向いた。

 マリアは目隠しをしたままで、禮次郎に向けてニコリと微笑む。


「そうだ。良いことを思いついたわ」


 禮次郎は言葉を失う。

 ――此処に俺が居てはいけない。

 しかしその判断は遅かった。いや、もう何もかもが遅かった。


?」


 驚いたマリアの継母が窓の外を振り向き、覗いていた禮次郎の姿を見つける。


「禮次郎君、なんで!?」


 もう禮次郎に迷いは無かった。

 ――助けるとか、止めるとかじゃない。

 ――は、狂っている。

 ――逃げよう。

 

「私を置いていくの? 禮次郎君?」


 そう言われた瞬間、禮次郎の足が止まった。

 別にマリアが哀れだと思った訳でもないのに、もう逃げ出したかったのに、足が止まった。

 禮次郎の恐怖は頂点に達する。


「良い子ね。禮次郎君」


 ムクリと起き上がるマリア。

 目隠しをしたまま、手を前に出して、ノロノロとこちらへ歩み寄ってくる。

 指先から、ひた、ひた、と血が滴る。


「大丈夫よ、怖くないわ」


 小さくて愛らしい口の端を醜く釣り上げ、窓の向こうの禮次郎へ手を伸ばす。

 まるでドレスか何かのように、幼い裸身を朱色に染めて。


「新しい遊びよ、きっと楽しいわ」


 禮次郎は動けない。逃げなければいけないと本能的に理解しながら、そこから一歩も動けない。


「なんで、なんで動かないんだよ!」

「それは禮次郎君が私を好きだからだよ。ふふ、可愛い」

「やめてよ! 怖いよ!」


 禮次郎の目からじわりと涙が滲む。


「大丈夫、大丈夫だから……!」


 そう言ってマリアが窓に触れた時だ。


「――うわあっ!?」


 突如として禮次郎の乗っていたベンチとコンクリートブロックの塔が崩れ、禮次郎はしたたかに頭を打ち付ける。


「痛ッ……」


 思わず頭を手で抑える禮次郎。

 ――身体が動く!

 それに気づいた禮次郎は痛みを堪えて立ち上がり、自宅へと逃げ出した。


     *


 禮次郎はクチナシに、その惨劇の内容を一部ぼかした上で語った。

 語り終えた禮次郎は煙草に火をつける。

 羊ケ丘の風は禮次郎にとって吐き気を催すほど優しく、そして爽やかだった。


「あの時は、俺があの子のことを放っておけなかったから動けなかったと思っていた。だけど、今考えてみたらあいつも……お前の父親と同類だったのかもな」


 しばしの沈黙の後、クチナシはため息をつく。


「辛かったね……」

「……ああ」


 禮次郎は紫煙を吐き出す。

 心が荒んでいるせいか、普段よりも幾ばくか辛い味になっていた。

 だが親以外の誰にも言えなかったこの話を、初めて他人に語ったことで、彼の気持ちは幾ばくか軽くなっていた。


「ねえ、その後どうなったの?」

「俺は両親に相談した。だが信じてもらえず逆に俺は怒られた。俺は両親を信じなくなった。それと同時に幼馴染も、先生も、優しかった近所の大人も、信じられなくなった」

「信じられなくなった?」

「俺の言うことを誰も信じてくれなかった」

「……そっか」

「あれは夢だったのかもしれない。だが俺が信じてもらえなかったのは事実だ。だから今の俺は何も信じないし、受け入れない。そしてそんな風に育ってしまった俺は世界にとって異物で、俺が必要とされることなど無い。俺はこの世界で生きるのが嫌になって嫌になって……終いにはヤクザまで身を落とした」

「そっか……そのマリアって人はどうなったの? 継母って人は?」

「居なくなっちまった」

「どういうこと?」

「今の話の晩に両親が無理心中をして、修道院に引き取られたと聞いた。父親の友人で宗派は違ったそうだが、親切なシスターが居たんだとよ。引越し前に俺にだけ教えてくれた。まるで両親を失った可哀想な女の子みたいな面でな……何が『また会いましょうね、ぐすん』だよ反吐が出る」

「禮次郎……」


 禮次郎は煙草をベンチの側の灰皿に押し込む。

 その目は暗く淀んでいる。


「今でも思う。もしかしたらアレは夢だったのかもしれない。俺が見たあの風景は何かの間違いで、あの娘は本当に運が悪くて可哀想なだけの……でも、だとしたら、俺は……俺は一体何をやっていたんだ。怯えて、逃げて、不信感に支配されて。分からない。分からないんだ。人を拒絶して、人に拒絶されて、殻に閉じこもって、道を踏み外して、そうやって失った俺の時間は帰ってこない。今更引き返すことだってできない。俺の作った薬で人生を壊した奴だって居る。可哀想だとは思わねえが、俺は、俺は……もう駄目なんだ。俺に救いは無い……いや」


 ボソボソとした早口で喋ったかと思うと凍りつく禮次郎。


「どうしたの? 大丈夫?」


 クチナシは狂気の淵を揺れる禮次郎に、一瞬だけ、かつての両親の姿が脳裏に浮かぶ。既に曖昧な記憶だが、彼等も今の禮次郎のように淀んだ目をしていた。


「今思えば、俺の両親はあの時の事件を無かった事にする為に、あえて俺の話の相手をしなかったのか……? だが、だとしたら、俺は、本当に……本当に馬鹿な……俺なんて地獄に落ちれば……」


 震える手で二本目の煙草を吸おうとする禮次郎。


「大丈夫。大丈夫だから、落ち着いて」


 ライターを持って震える手を、クチナシがそっと支える。

 クチナシはライターを代わりに手に取り、禮次郎の煙草に火を点けた。


「……わりぃ」

「いいよ、これくらい。だけど忘れないで」

「何を?」

「……一緒か。そいつは良くないな」

「だって――」


 ――両親が居なくなった今、僕を看取る人なんて居ないんだから。

 クチナシがそう言おうとしたその時だった。

 朗らかな女性の声が二人の背後から響く。

 

「あらぁ! 禮次郎君! 私のことんだ! わ!」


 禮次郎はビクリと震えて慌てて振り返る。

 其処に居たのは修道服を身に纏った緑の瞳の女性。


「――なっ!?」


 クチナシが今までに無いレベルで動揺している禮次郎。修道服の女性はニコニコと微笑みながら禮次郎に近寄ってその手を取る。

 禮次郎は、女性に触れられたところから、自らの肌がプツプツと粟立っていく感覚を覚えた。


「お、お、お前……」

「久しぶりね、マリアよ! 覚えてる? 覚えててくれたから会えたんだけどね! おじさんとおばさんは元気? あの人達はもう私のこと忘れてるだろうけど!」


 ひんやりとした手の感触、わずかに漂う石鹸の香り、そして一点の影も見当たらない眩しい笑顔。

 全てが禮次郎にとっては恐ろしい。


「ちょっとお姉さん。貴方何なんですか?」


 クチナシは禮次郎を守るように、マリアと禮次郎の間に立ちふさがる。そして正気に戻った禮次郎はマリアの手を振りほどく。


「あら? そう言うお嬢さんは誰?」


 マリアは少し屈んでクチナシと目線を合わせる。


「答える義務は無いでしょう?」

「あらそうなの! 可愛い答えねえ!」

「子供扱いしないで下さい。僕、二十歳なんですけど」

「えっ」


 にこやかだったマリアの表情が凍りつく。

 笑顔がひきつっている。


「大学生ですから!」

「え、え、え……?」

「禮次郎が嫌がっているんで、構わないでくれませんか?」

「えー……?」


 マリアは困惑して禮次郎とクチナシを見比べる。

 

「ねえ禮次郎君、貴方悪い物に憑かれてない?」

「……その言葉、そのままお前に返してやる」


 禮次郎は低く唸る。

 マリアはそれを聞くとつまらなさそうに溜息をつく。


「ああそう。禮次郎君はその娘が何者か分かっているのよね?」

「そういうお前は何様のつもりだ。お前は俺の知っているマリアじゃない」

「違うわ。貴方が知らない振りをしようとしたマリアよ。貴方が来るのを待っていたマリアよ」


 マリアはニィイと口の端を吊り上げる。

 禮次郎と別離した日と同じように。


「マリア、お前は……だ?」

「気になる? そうね。あえて言うなら千の雌羊を連れた雄羊、あるいはシュブ=ニグラス」

「シュブ=ニグラス……なんだそれは?」

「気になる? それなら教えてあげても――」

「あらマリア様!」

「マリア様、こんなところにいらしたのですか! お戻り下さい!」

「バスが出てしまいますよ!」


 その時だった。

 遠くの方から、シスターの集団がマリアを呼びながら近づいてくる。


「あらあら、お迎えが来たから行くわね」

「おい、待てマリア!」


 マリアは禮次郎に背を向け歩きだす。

 だが一度だけ、禮次郎の方に振り返る。


「札幌から、北海道から、いいえ日本から離れなさい。出来る限り早く、遠く遠くまで。望むのならばその娘を連れて」

「どういうことだ?」


 マリアはニタァと微笑むだけでその問いには答えない。

 そして遠くから近づくシスター達の集団の中へ帰っていく。

 追いかけようとする禮次郎の足は、またしても動かない。

 背後から古い扉を開けるかのような軋む音色。

 禮次郎が振り返ると羊が一匹鳴いていた。

 羊は禮次郎をただっと見つめていた。


【第5話 獣の聖母はきずえぐる 終】

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