第50話
明は扉へ向けて歩を進めた。
「それじゃあ、また」
明は三人に向け片手を上げると一時の別れを告げた。
「ああ、またな」
明はこの感覚がこの後も続けばと願わずにいられなかった。しかし、そんなことが続くとはさすがの彼にも思えなかった。新しい世界へ移行させた今、その発端である明すら、群衆に取り込まれる可能性を持った存在であった。あの、風早のように。
明はその扉の前へ立った。
最初にこの扉を開けて砂漠のなかの上縞町へ入った日のことがありありと浮かんだ。あの時とは逆に、今は階段から玄関へ入ろうとしている。また、招き入れられたわけではなく、自らの意思でそこを開けようとしているのだ。それは天と地ほどの大きな違いだった。
明は足元の階段の最後の一段を見つめ、ドアの取っ手に手をかけた。
彼は大きく息を吸い込んだ。
静かに、ゆっくりと扉を開ける。眩しい光が瞳の奥へ差し込んできた。目を細めて一歩足を踏み出す。
そして、新しい世界へ入ったとき、明はむせるように息を吐き出した。
彼はゆっくりと伸びやかな声で言った。
「ただいま!」
そして、明は新しい日常を手に入れた。これまでと、同じように。
了
プラスチック 長月 了士 @S_Nagatsuki
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