第2話 Fake True - 真実-
ニューヨークシティは世界的に治安が悪い都市でもある。
よくそういった題材の映画も公開され、皮肉にも興収は高いそうだ。
俺はそんな治安の悪い都市の一警官でもある。
15歳の頃、
それでも憧れていた仕事を諦めきれず、違う形ではあるが、
20歳で市警として働くことになった。
軍隊入隊を目指してきた身体作りは幸いにも、警察の働きぶりに影響し、評価され、
働いてわずか2年で支部の
SWATに一番近い男とも呼ばれている。
「で、どこまでが嘘ですか?」
「すべて事実だ。馬鹿者。」
SNSのプロフィール設定をしているときに覗き込んでくるんじゃない、と言いたいところだが公務中にしていたことに反省はしておこう。
「さて、ミーティングだ。」
そう言って俺は支部の警官を集めホワイトボードの横に立った。
「先週、ハドソン河付近で起こった人身落下事件だ。
様々な情報がとんでいるが、落ちた当人が酔っ払って足場から落ちたのが濃厚だろう。」
聞く者たちは肯定するように首を頷き動かす。
「当日、酔っ払ってテーブルにぶつかったと話されているカップルや夫婦の言質もありますし。」
「一番の情報源は、落ちた当人、クリス・ブライト氏の友人、ジェイク・ベイ氏の発言だ。」
ジェイク・ベイ、事件当日にビルから落ちたクリス氏と同席していた人物。
一番疑うべき立ち位置ではあるが、レストランの客やその場にいた者たちの事情聴衆をしたところ、誰よりも、クリス氏の落下阻止をしようと動いていた人物だ。
監視カメラ映像にも落下寸前に大声で止めようとした場面も既に確認済である。
飲み物に何か薬物を入れていた説もあったが、彼の携行品には何も見当たらず、映像からも彼がおかしな行動をしたところは見ていない。
ジェイク・ベイは誰よりもクリスの死を嘆いていた。
「あいつから目を離さなかったらこんなことにはならなかった。」
ジェイク・ベイはそう言っていた。クリスが死んだのは自分の責任であるかのように。
「だが・・・この事件の一番解き明かしたい謎が・・・。」
色々と考え始めていたところ、突然ミーティングルームのドアが開いた。
「失礼します。こちらにハール
小柄な女性警官が場の空気を凍らせた。
「ハールは俺だ。見ない顔だが、どこのどいつだ。」
「失礼致しました。私の名はレイチェル・カレンと申します。
元アメリカ陸軍第三軍、現在はニューヨーク市警マンハッタン署に籍をおいております。」
彼女のアメリカ陸軍という言葉に俺は反応した。
歳も俺とさほど変わらない女が、俺が入隊できなかった陸軍の経歴があることに
悔しさと自分が辱めを受けた感覚に陥った。
「レイチェル・カレン、実に女性らしい名前だ。ところで、ここに入ってくる前に扉に飾られていたKEEP OUTの文字が読めなかったか?警察になればよく見かける文字だ。今後注意するように。」
皮肉を言ったつもりだったが彼女は動じなかった。
「申し訳ありません。至急ハール殿に話すべきことがございまして。」
他の市警がざわつきはじめたので一度ミーティングは解散とし、レイチェルと話す場を設けた。
*
「で、話とはなんだ。」
「本日付けより私、レイチェル・カレンは、ハール・フォードオフィサーの下に着任し、人身落下事件の担当を本部より任されたことを報告に参りました。」
そんな話は聞いてない。なぜいつも上層部は勝手に決めるのだ、苛立ちを顔に出してしまい、レイチェルは顔を引きつった。
「急に言われてもな。他に何か連絡は?」
「マンハッタン分署長より、ハール殿の足となれと。」
つまりは彼女に指示をして動かせ、自分はなるべくデスクワークしろという勧告というわけか。だが俺は動く方が好きなのだ。誰かに指示させるくらいなら自分が現場へ向かう。ハール・フォードはそういう男なのだ。
「来たばかりのお前に何ができる。人身落下事件はこちらで捜査する。
お前は必要ない。」
「書類は来る前までに一通り目を通してきました。」
言えばすぐ反論をしてくるこのクソ女。やはり気に食わん。
レイチェルを横切り、署を後にしようと車に乗る。
するとレイチェルも自身が乗ってきた車に乗り俺の横に付ける。
しかも・・・なんでスポーツカーの警察車両なんだ・・・。
顔から察したのかレイチェルは俺にこう言った。
「私はあなたの足ですから。」
*
あの日から2週間が経った。
日常は何一つ変わらず、ただ、ただ時間が過ぎてゆくだけ。
大きく変わったことは大学へ行かなくなったことだ。
まだ現実を受け入れられない自分がいる。
「・・・・どうして僕は無事なんだ・・・!?」
DIVER-ダイバー- 薄雪朱鷺 @toki-hakusetsu
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