誓い

 小さな畑の真ん中で、キミが茄子を収穫している。

 茄子の隣にはトマトがあって、その向こう側にはキュウリがあって、一番手前には枝豆とトウモロコシがある。

 ボクが畑いじりをするようになったのも、連作障害って言葉を知ったのも、お義母さんが亡くなって、キミが家庭菜園を引き継いでからだ。


 ボクはこの畑に誓いを立てたんだ。

 お義母さんの四十九日を過ぎた頃だったと思う。自由気ままに育った野菜達がふと目に入って、ボクはキミの弟に尋ねてみた。「あの畑、あのままで大丈夫なの?」って。返ってきた言葉は、駄目だと思う、だって。

「多分、姉さんならなんとかできるんじゃない?」と彼は言った。キミが畑仕事なんてしているとこ、見たことないけど?


 とりあえず、畑に近づいてみた。たった10平方メートル位しかないその畑は、ジャングルと化していて、ちょっと不気味だった。畑からキミがいる部屋を眺めて、ボクは大きく息を吐いた。お義母さんが亡くなった悲しみの中にいるキミが、あの部屋から外に出てくるとは思えなかった。

 それでも、この惨劇をどうにかすべく、ボクはキミに窓の外から声をかけた。

「ねぇ、畑なんだけど……」

 キミがもぞもぞ動いている気配がして、すっと障子戸が開いた。窓のボクではなくて、畑を見てキミが大きなため息をついて、バタバタと勝手口から出てきた。

「どうしてこんなことになってんの?!」

 キッとキミがボクを見る。「なんでだろうね……」ボクは苦笑いをして、キミから目を逸らす。

「もう!!」と言って、キミが園芸用のハサミを持って畑の中に入っていく。

 パチン、パチンという音がして、キミはたくさんのトマトや茄子を持って出てきた。

「おっきいね」ってボクが言ったら「デカすぎじゃ!!」ってキミが怒った。

「もう、キュウリなんてお化けになってるし、どうやって食べるのこれ!!」

 イライラしながらキミは収穫をして、駄目になっている株を抜いて、自由に伸びていた枝を支柱に縛り付けていた。

 いつそんな知識を身に着けたのかというくらい、鮮やかな手さばきだった。彼は、やっぱりキミの弟なだけあって、キミのことちゃんと知っているんだな、って思った。

 そして何より、キミが外に出てきてくれたことがすごく嬉しかった。

 これも、お義母さんのお陰なんだなって思ったら、ボクは全然キミのこと知らなくて、キミに何もできないんだって思い知った。


 あの日、ボクはここで誓ったんだ。キミのこと、ちゃんと支えられる人になろうって。

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キミとボクの物語 わがまま娘 @wagamamamusume

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