まずは「ひとり1つの最高傑作」企画への参加、ありがとうございます。
好みの匂いの洗剤を見つけて世界が変わるような感動を抱いている今日この頃です。
匂いと言うものは、他の視覚や触覚とは違って、やけに昔を思い起こさせるやつです。私はいまだに昔の恋人に似た匂いに反応します。
この小説でもきっかけは匂いでした。しかしその甘い匂いとは裏腹に少し暗い過去。体を許した自分も、受け入れた彼も、ひどく弱弱しい印象を与える描写でした。
しかしやがて大人になった自分は、形見のリングを無造作にも、あとで片付けておくか、程度にしか考えない。それが果たして強くなったのか、それとも執着をやめたのか、あるいはどちらでもあるようにも感じました。
主人公の心情描写が、丁寧に、しかしすべてを語るのではなく余韻を残す、後味の残る小説でした。
ところで、私はこれを読み終わったあと、ある短編を思い出しました。シュテファン・ツヴァイクの「昔の借りを返す話」というもので、この小説とは正反対な印象を受ける短編です。機会があればいかがでしょうか。