からくり兵士は子守唄を聴き帰す

赤崎桐也

からくり兵士は子守唄を聴き帰す

 日誌 2XXX年 4月 12日 午前9:10

 敵国の機械兵士、型式OSU-172の236体目の破壊を持って、2日間続いた戦闘の終了を確認。占領下にあった大学病院の奪還に成功。

 大破した部下の数、11機。隊長機である自分を含めて、残った機体は13機になった。首都奪還作戦の命令を受けてから5764日が経過。


 損傷が軽微であった部下のRC-6とPX-17、PX-18に施設内部で我々の稼働時間延長に有用な物を探して来るように命令。

 残った我々は、大破した部下と破壊した敵国機械兵士の機体から必要なパーツをサルベージし、損傷が深刻な部下から順に補修を行った。


 CC-28が不要になった機械兵士達の残骸を整列させたいと進言。

 理由の説明をする様求めると「埋葬出来ないならせめて整えてやりたい」と発言。

 個人的に必要性を見出せなかったが、何人かの部下が賛同し、士気向上になると判断。行う事にした。


 施設内部からRC-6からの連絡があった。生存者発見との事。

 直ぐに動ける部下を数名引き連れて、RC-6達の居場所へ向う。

 施設内部に無数の白骨を確認。ロビーのスキャン分だけで推定143人。当時の避難指示は間に合わなかったらしい。環境が良かったのか、骨は思ったより風化しておらず、弾丸の損傷を綺麗に確認出来た。

 CC-28が「惨過ぎる」と発言。CC-28のAI脳波に不規則なリズムを確認。悲しいのかと尋ねると「骨の損傷を調べると、銃弾から逃げていた事と、何人かが盾になろうとして、射殺されているのが解り、その場面を想像した」と報告。

 彼は17日と5時間前から似た様なエラーを起こしている。近々致命的なシステムエラーに陥るかもしれない。後でCC-28から必要なものを無事に回収できるか懸念した。


 RC-6達と無事に合流。高度なセキュリティドアの前で立ち往生していた。ドアの向こうから微弱ながらも生態反応と市民IDを感知。

 施設内部の惨状を考えると、ここが無傷なのが不思議に思える。

 持っている装備の火力とセキュリティドアの強度を確認し、破壊を実行。RC-6が「先に何か言うべきでは?」と進言。以後、注意する。


 室内は狭く、中には最高級品の医療ポッドを確認。中には子供が入っている様だ。

 ポッドの記録を調べると小児白血病の治療目的で使用されている事を確認。PX-18とCC-28が興味深げに眠っている子供を見ている。

 RC-6がどうするか尋ねて来た。

 医療ポッドの治療記録を確認すると治療は無事に完了しているとの事。

 ネットワークの使用が出来ないので市民IDの検索が行えないが、最高級の医療機器による治療を受けていた事と敵国の機械兵士が手を出していなかった事から、我が国内の要人に連なる身内の可能性が高いと判断。

 首都奪還作戦もこの機体数では継続は困難と判断し、この子供を安全圏へ避難させる為に保護する事にした。

 医療ポッドの空け方が解らなかったので破壊しようとしたら部下達に止められた。今後は厳重に自粛する。




 日誌 2XXX年 4月 13日 午後8:37

 保護した子供(※以下、本人の主張により「ノゾミ」とする)は目覚めた当初、とても怯えていたがCC-28の童謡を歌うと言う奇策によりコミュニケーションをとる事に成功。

 我々のデータベースには記載されていない歌だったので、まさか即興で作ったのかと尋ねたが、どうやら医療ポッドから記録を漁り、ノゾミがポッドに入る当時のアニメソングを小児科コーナーから拝借したらしい。

 CC-28に施設内のいたる所で破壊されている医療ロボからデータ収集を行ったか訊いてみたがそんな事はしていないと言われた。


 ノゾミには我々が知る限りの現状を伝える事にした。

 当初の予想よりだいぶ説明に時間がかかった。

 途中でノゾミの理解力を成人した人間のものとして扱っていた事に気づき、修正し、経緯を省き以下の事だけを簡素になる様に努めて説明した。


 ・ここが戦場であり、このままここにいる事はとても危険である事。

 ・我々がノゾミを安全な場所まで避難させる事。

 ・ノゾミの身を護る為に我々の指示に従って貰う必要が有る事。


 ノゾミは説明を何度か聞き返しながらも納得してくれた。

 状況を把握したのか、怯えた様子はなりを潜め、快活に振舞い始めた。

 RC-6が年齢のわりにノゾミが落ち着いている事を高く評価していた。恐らく、そう言った事態になっても理解できる程度の高度な教育を親が施したのだろう。

 ノゾミが衣服と食事を要求して来たのでCC-28とPX-17にノゾミの護衛を命じて病院内部を捜索。

 ノゾミの当面の生命活動に必要な栄養素を確保出来たが、衣服は合うサイズのものが見つからなかった。もうしばらくは小児用の患者衣で過ごして貰う必要有り。

 ノゾミがCC-28とPX-17の回線を使って何度も喋りかけて来た。子供は好奇心が強いと言う意味を正しく理解出来た。

 ノゾミを連れて大学病院を後にした時は既に時刻が午後の6時を過ぎていた。ノゾミが久しぶりの外の空気は美味いと言っていたが、我々には味覚は解らない。


 午後の9時頃にデパートメントストアに到着。

 我々には必要なかったが、ノゾミの健康管理の為に暖を取るものと携帯用の寝具を調達。

 ノゾミと合流したら護衛に当たらせていた部下達が意味の無い装飾を施されていた。

 RC-6にお面を外す様に伝えたが、ノゾミの主張を理由に拒否される。

 ロボット3原則を始めて部下に使われた。


 デパートメントの屋上で食事を済ませた後、焚き火に暖まるノゾミがCC-28にもう一度歌を歌って欲しいと頼んできた。CC-28はすぐさま了承し、歌い始めた。

 この地域の敵は全て排除した後なので大丈夫だと思うが、一応、周囲にトラップとセンサーを撒いて気を配る。行動を共にしていたPX-17とPX-18が仕掛ける範囲が広過ぎではないかと言っていたが、予定通りの範囲を撒くよう命令した。

 早くノゾミの所に戻りたいそうだ。理由は2機とも不明との事。

 帰還するとノゾミが寝袋に収まって一定の呼吸リズムを繰り返していた。

 部下達がまたもや興味深くその様子を見ている。

 ノゾミが寝言で両親の事を口にしていた。


 明日、直ぐに目的地まで行ける様にする為にノゾミが行動するのに必要な物を夜の間にそろえて置く事にした。

 RC-6が志願し、一緒に探す事にした。




 日誌 2XXX年 4月 14日 午前7:28

 ノゾミが起床し、朝食を終えた後、出発する事にした。

 ノゾミの活動に必要な衣服と日用品、リュックサックを予め揃えて置いた事を伝えると、顔の筋肉をこれでもかと使って笑っていた。

 どうやらとても喜んでいたらしい。RC-6と共に礼を言われた。

 AI脳波に今までになかった動きを感知。念の為にノゾミの顔と共に記録して置く。


 日誌 同日 午前11:13

 ノゾミが我々の名称を尋ねて来たので、全員の名前を伝える。

 すると可愛くないと言われ、我々に花の名前をつけ始めた。

 RC-6にリンドウ、PX-17とPX-18にはコスモスとチューリップ、CC-28にはツバキと矢継ぎ早に部下達を次々と命名して行き、自分はアジサイ隊長と呼ばれる事になった。

 ――不満は無い。


 日誌 同日 午後2:52

 目的地へと向う途中、街の様子を見て何かを察したノゾミが硬い表情のまま、今日の日付を尋ねて来た。

 珍しく部下が我先にとノゾミへ答えなかったので、日付を伝えるとノゾミの顔色が明らかに悪くなり、その場で座り込んで泣いてしまった。

 自分が15年以上、医療ポッドの中でコールドスリープしていた事にショックを受けたと判断。

 同時に敵国の機械兵と思わしき熱源を複数探知。

 一先ず、無人となった家にノゾミを急遽連れ込んで身を隠す。

 相手の探知に引っ掛かってない確立は60%程だ。


 日誌 同日 午後3:15

 ノゾミは落ち着くと、泣き腫らした顔で戦争はどうなったか、どこへ自分を連れて行くのか訊いて来た。

 CC-28――ツバキはノゾミを不安にさせない為なのか、言葉を選びながらノゾミに現状を伝えた。


 ・この島国のインターネットが寸断されるまでに得た外部情報では戦争自体は既に終結しており、数を大きく減らした人類が我々より遥かに優秀な人工知能の元で公正な一つの国家となっている。

 ・なので人類はもうこの島国には残っていない。

 ・その国へノゾミを連れて行くのには航空機を手に入れる必要がある。

 ・ノゾミを連れて行くのは空港で飛行機を手に入れるのが目的。

 ・我々は戦時下で取り残され、最後に与えられていた首都奪還任務を遂行しようとしていた。恐らく敵も同様である。


 その事をノゾミに伝え終えるとノゾミは疑いの視線を向けながら、何故何時までも意味の無くなった命令を護っているのか強く問い詰めてきたが、我々の存在意義そのものだからと答えるとノゾミは口を開けたまま何も言わなくなってしまった。

 どうやら、絶句したらしい。

 窓ガラスが銃弾によって割れた。


 日誌 同日 午後8:15

 敵の規模が予想より多かった。どうやら発砲音を聴いて集まって来たらしい。

 敵国の機械兵士は生身の人間を優先して狙う様に作られていたらしい。

 ノゾミに狙いを定め執拗に狙った結果、8機の部下がノゾミを庇い大破。他の部下達も大破とまでは行かないが、大きな損傷を負った。

 隊長機である自分を除いて、無傷の機体はいないようだ。

 一番前に出ていた自分より後方にいた部下達の被害が深刻なのはノゾミに傷一つ着いていない事が理由だろうか。

 仕方が無いので何時も通りに大破した部下と敵から必要な物をサルベージし、まだ補修出来る部下達の補修に当てる。

 怯えていたノゾミが痛ましい瞳でこちらを見ていた。理由は不明。

 今回でRC-6、PX-17、PX-18、CC-28と隊長機の自分を入れた5機だけになってしまった。


 ――訂正。

 残ったのはリンドウ、コスモス、チューリップ、ツバキとアジサイ隊長である自分だ。


 ノゾミが大破してしまった部下達だけでも綺麗に寝かしたいと言って来たので、代わりにやる事にした。

 ノゾミでは非力過ぎて無理だろう。




 日誌 2XXX年 4月 15日 午後10:30

 今日はノゾミの口数がとても少なかった。休憩の途中でツバキが何度か話しかけたが、返事は要領を得なかった。

 今日の寝床を確保したので、ノゾミに早く寝る様に促すが、ノゾミは何故か急に謝って来た。部下が大破してしまった事を謝罪している積もりらしい。意図が不明。ノゾミが負うべき責務は何も無い。

 ノゾミを忠実に護った部下を同じ機械兵士として尊敬している。

 その事を伝えると、ノゾミは承服しかねる事を口を膨らませ伝えてきた。

 ならば、何か歌って欲しいとツバキがノゾミに提案した。

 寝床の周囲に音漏れを防ぐ仕掛けを施した後、全機でノゾミが知っている子守唄を聴いた。


 ツバキとコスモス、チューリップがノゾミの歌声を記録していた。




 日誌 2XXX年 4月 16日 午後9:30

 ノゾミの口数が今まで通りに戻った。

 コスモスとチューリップの進言で早めに今日の寝床を確保する事にしたのだが、コスモスとチューリップがノゾミの食事中に明朝の斥候中に集めて来たであろう道具で、映画の上映会を始めた。

 ノゾミの趣向が解らなかったのだろうが、幾らなんでも子供相手に最初からホラー映画を選ぶのはどうなのだろうか。ピエロが排水溝から出てくる場面で脳波AIが酷く乱れてしまった。

 ノゾミは割かし楽しんでいた様だ。本人曰く演出の臓物がチープでおもしろいとの事。

 リンドウが最後まで自主的に聴覚と視覚を制限していた事には気づいていたが黙っておいた。

 コスモスとチューリップが持って来た道具の中に、我々が使用している貴重なパーツと同じものを発見。

 中身を確認するが、誰も入っていない、空のパーツだ。数は四つ。


 日誌 2XXX年 4月 17日 午後6:12

 目的の軍空港まで後少しと言う所で厄介な事態になった。

 敵国の機械兵士が空港と付近の交通網を占拠している。

 もう占拠し続ける意味も無いだろうに、哀れな。

 兎も角、全機で作戦を練らなければ。


 日誌 同日 午後7:47

 作戦は決まった。

 内容をノゾミに説明したが、ノゾミは困った顔をしていた。

 我々は生物ではないのだ、だから悲しむ事は無いと伝えたが、ノゾミをまた泣かしてしまった。困った。

 抱きついたまま泣きつかれたノゾミを寝袋で寝かせると、部下達にある事を頼むと全員驚いていた。そして笑われた。

 幾らなんでも笑はなくてもいいだろうに。

 最後になるであろう作戦の手順を確認し合うと、先程ノゾミが抱きついて来た感覚を共有して欲しいとツバキが頼んで来た。

 全員で共有し、ツバキがレンズの洗浄液を流し、リンドウが温かいと呟いて全員で同意した。リンドウがノゾミの子守唄のデータを渡してくれるので受け取った。

 5人でノゾミを必ず人間の元へ届ける。




 バトルログ 7:25:45

 コスモスとチューリップが別れ際にノゾミにハグと頬へのキスを頼んで来た。

 ノゾミが快く承諾して行ってくれると、コスモスとチューリップの2人が張り切って出撃していった。

 我々も移動を開始した。


 バトルログ 7:55:19

 手筈通りに爆発音が聴こえ、行動を開始した。

 警備網の薄い下水道へと侵入。ツバキにノゾミの護衛を任せリンドウと共に先行していった。途中で巡回中の敵機を悟られない様に丁寧に排除していく。

 全てを狂い無く計算し実行できる機械の体に始めて感謝した。

 自分の鼻を摘むノゾミを見て配慮不足であった事を道中で詫びる。


 バトルログ 8:27:36

 下水道から抜け出し、ノゾミが空港に入ると同時に生体反応に引っ掛かったのか警戒ブザーが鳴り響いた。

 予定通り、ここからが時間との勝負だ。

 目的の物である自動操縦機能がついた航空機を発見。

 後、約3km。


 バトルログ 8:29:00

 予想以上に敵の数が多い。

 ノゾミを護りながら進もうとするが、銃弾の雨の中にノゾミを曝すわけに行かない。

 予定の時間まで後、1分。


 バトルログ 8:30:13

 作戦通りにコスモスとチューリップがクーレーン車に乗って空港のフェンスを突き破って突撃して来た。

 突然の事で気を取られた敵機が轢き飛ばされていく。

 ノゾミを背に乗せて全力で疾走した。


 バトルログ 8:31:52

 敵機がバイクに乗ってコスモスとチューリップが操縦している暴走クレーン車をすり抜けて追跡して来たが、リンドウが捨て身でバイクに体当たりした。

 本人が言う様に構わず置いて行く。お面は最後まで外さない事にした様だ。


 バトルログ 8:32:26

 航空機まで後100m。

 ツバキのハッキング能力で航空機からエアステアを降ろす事に成功、

 目の前でコンテナの物陰からレンズの反射を確認、身を前へ飛び出させるより早く、ツバキが前に出て変わりに頭部を撃たれた。


 バトルログ 8:32:42

 叫ぶノゾミを抱きかかえ航空機のエアステアを駆け上がる。

 機内で自動操縦の設定を弄ろうとすると、勝手に動き始めた。

 ツバキが頑張ってくれている様だ。

 ロケットランチャーを所持した敵機を5機確認。エアステアから飛び出し、ロケットランチャーを所持した敵機を狙撃していく。

 3機目を狙撃し様とした瞬間、敵機がトリガーを引いた。

 クーレーン車が発射されたロケットに衝突。敵機もろとも爆発し炎上を起こした。


 バトルログ 8:34:27

 ノゾミに、今まで大切に保管していた部下のメモリーチップを全て渡す。内部のAI脳波データが破損してない限り、規格にあった体を用意すれば彼らが再び動ける事を伝えた。

 ツバキ、リンドウ、カチューシャ、チューリップのAI脳波データも、2日前に見つけて来た空のメモリーチップに移してある事を伝えた。

 ――以下、音声ログ。


『アジサイ隊長の分は!?』

『自分には予備のチップは無い』

『そんな……じゃあ、どうして残ろうとするの?』

『今は敵の攻勢が一時的に沈黙しているだけだ、自分が残って敵を惹き付ける必要がある。ノゾミとはここで別れなければならない――残念だ』

『嫌だよ、私、また独りぼっちになっちゃうよ!』

『大丈夫だ。そのチップがあれば直ぐに部下達とまた会えるさ、ノゾミ』

『それでも……アジサイのおじちゃんが居ないのは、いやだよ……』

『ありがとう、ノゾミ。機械の私達に泣いてくれる少女よ、君のお陰で我々は機械兵士の自分に誇りを持てた』

『……っす、ううん、私もいっぱい、いっぱい助けて貰ったよ……』

『さようなら、ノゾミ、どうか健やかで』


 ――音声ログ、終了。




 バトルスコア報告 18:37:28 

 頭部、半壊、右レンズが2m先に落ちている事を確認。

 右腕、全壊。

 左腕、稼動可能部分、第一、第三指関節のみ。

 胴体、エネルギーコア、長時間のバーサークモード使用によりメルトダウン。残り稼動時間、2分8秒。

 左脚部、損失。

 右脚部、軽度の損傷。

 撃破した敵機86機。自己最高ベスト更新。

 航空機の離陸を確認。当機の行動により航空機に被害無し。

 ミッションコンプリート。


 本気の残り稼働時間を使い、音声データログの再生と記録しておいた画像データを表示。


 ――ノゾミの笑顔と子守唄が自分の脳裏に再生されていく。

 優しい少女の歌声に合わせて自分が希薄になって行く事を確認。

 満足した人生であった。









 ――眩しい。

 消えていった光を再び認識すると、意識が覚醒へと向っていく事を自覚出来た。

 感じた事の無い柔らかな布に覆われた感触を体中に感じ取り、沈んでいた自我が浮上して行く。


「あ、置きましたね、アジサイ隊長」


 目を開けると見知らぬ人間達が見知らぬ室内で自分をベットに寝かせている。

 いや、まて、そもそも自分の体が――。


「ぶふ、隊長リンドウと同じ事してる」

「いや、カチューシャ、お前も同じ事やったから」

「アジサイ隊長、立てるかしら?」


 顔立ちが非常に整った女性が、体の操作に慣れない自分を支えてくれる。


「ツバキ……なのか?」


 その女性は自然な笑顔で肯定してくれた。


「大変でしたよー、隊長を見つけて連れて帰ってくるの。ここの管理AIのやつ、本っっっ当に頑固で、説得にすんごい時間かかりましたもん」

「あの子、隊長の事を取り戻すのに頑張ってくれましたよ、褒めて上げてください――屋上にいます」


 リンドウとチューリップに促され、部屋を出ると、自分に気づいた人達が親切にも屋上への道を教えてくれる。

 もしかしなくても、元部下達であろう。悪運の強い連中だ。

 屋上前の扉前に立ち、一度深呼吸をした。

 これが緊張と言うものか。


 空けた扉の先には黄金色の夕焼けの下で、あの日の子守唄を口ずさむ、背が伸びた彼女がいた。

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