WAF部

 五月六日 午前十二時十分。WAF部・部室。


 神凪悠斗は部室で一人、壁に寄り掛かるジークドラグーンの姿を見つめていると部室の扉を開き、奈々実が姿を現した。


「悠斗。行こう」

「そうだな」


 今日悠斗達WAF部は、理事長から呼び出しを受けている。

 部の今後についての話という事らしいが、何を言われるかは、想像出来ていた。


「ご苦労さん。ジーク」


 悠斗は、戦友へ労いの言葉を呟いて、奈々実と共に理事長室に向かった。

 理事長室の前では、すでに真理沙と香苗が待っており、真理沙は、悠斗の姿を見つけた途端、涙を流し始めた。


「泣くなよ!」

「でも私のせいで」


 続きを言わせまいと香苗が手を打ち鳴らして、満面の笑顔を見せた。


「はい、やめやめ。辛気臭い。今日もまたいい店連れてってあげるから」

「いや。あんたは飲みたいだけだろうが」

「黙りなペチャパイ」

「行き遅れー」

「なんだと!!」


 心地よい。

 彼女らと居るのは、酷く心地が良い。

 いつ通りのやり取りをしていく内に、悠斗は理事長室に入る覚悟が出来きていた。


「失礼します!」


 悠斗が理事長室の扉を勢い良く開けて、素早くお辞儀すると理事長から嬉々とした様子で話しかけてきた。


「準優勝おめでとう。それからWAF部の存続もね」


 理事長の思い掛けない言葉に、悠斗は疑問の声を上げた。


「え、でも優勝しないと、廃部って」


 香苗は、確かに優勝しないと廃部になると大会の前に言っていた。

 だから準優勝という結果に終わった時、悠斗は、廃部を覚悟していたのである。

 しかし理事長は、訝しそうにして眉を顰めた。


「そんな風に言ってないよ。いい成績とは、言ったけど、県大会準優勝は、十分いいと思うけどな」


 確かにいい成績と言うなら県大会準優勝はいい成績だ。

 疑いようはない。

 理事長は椅子から立ち上がると、ほっこりとした笑みを浮かべ、悠斗達を見つめた。


「しかも負けたとはいえ、決勝戦の相手は、世界大会ベスト十六の雪月選手。いやいい試合だったよ」

「ほんとに?」

「ああ。あれなら今後に期待が持てる。何とか予算の増額を出来ないか。委員会で掛け合うつもりだよ」


 ようするに理事長のお墨付きで、晴れてWAF部は存続、しかも予算も増額される。

 こんな嬉しいニュースはないはずなのに、悠斗に込み上げる感情は火山のように燃え盛る怒りであった。


「香苗、てめぇ……話が違うじゃねぇーかー」

「ごめん。勘違いしてた。てへっ」


 舌を出してお茶目さをアピールすると香苗は、理事長室から走り去って行った。


「待てや! こらあ!!」


 悠斗を先頭に、奈々実と真理沙も理事長室を飛び出して香苗を追いかける。

 いい成績と優勝では、かなり意味が違う。

 とんでもなく無意味な勘違いをさせた報いを受けさねば。

 だが香苗を追う悠斗達の顔はいつの間にか綻んで、気付けば全員が笑いながら走っていた。

 だって嬉しいではないか。

 こんなに楽しい日々がこれからもずっと続くのだから。




おわり

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アーマード・フェアーズ 澤松那函(なはこ) @nahakotaro

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