花と蟲③ 醜さという美しさ

 我に返ったコルナはすぐさま薬を店の中の花と言う花にかけ続けた。元々品ぞろえは悪い店だ、全てにかけるのにそう時間はいらない。

 たちまち店は「美しさ」で満たされ、元々あったボロの雰囲気など微塵も残らなかった。建物は変わっていない。クモの巣もマリーが持って行った部分以外は手つかずだし、メリーが潰した虫の死骸や体液も掃除されないまま、腐臭を放っている。


 だが気にならないのだ。


 あまりの花の美しさに、それ以外の情報が一切頭の中に入ってこない。体がふわふわと宙に浮き、そのまま空に飛んで行けそうな気がした。コルナは確実に自分の人生が大きく変わって行くのを感じていた。



 ? どうしたんだい君たち。

 なに? コルナはこのまま幸せになって終わりなんじゃないか、って?











 

 そんな訳ないだろう?


 たしかにコルナも君たちと同じ気持ちだった。虐げられた哀れな少女は優しい魔法使いの手を借りて、幸せな人生を歩み始めると、信じて疑わなかったんだ。自分と言う花が咲くときがついに来たんだと、確かにそう思えたんだ。

 ところがそうはならないんだよ。

 だって君たち、よく考えてごらん? たしかにあの薬で花たちは美しくなったし、お店も以前に比べて確実に町の人たちの目に留まるようになった。普通ならここでお店も繁盛して誰もが幸せなハッピーエンドを迎えるだろう。

 ここまで私の話を見て、そう思った人もいるはずだ。君たち、ちゃんとここまで読んだのかい?

 

 まだ理解できない人が何人かいるみたいだ。

 じゃあしょうがない。すこし時間が掛かるが説明しよう。


 あの薬で美しくなったのは花で、コルナ自身は何も変わっていないんだ。

 花の美しさに惹きつけられて多くの人たちが店の中に入って行く。

 そしてコルナを見つけると悲鳴を上げて逃げていくんだ。

 なかには「醜い物を見た」と吹聴する輩までいた。

 ひどいね。

 とてもひどい。

 でも君たちの人生を思い返して。

 一度も【コルナ】と出会ったことがないと言い切れるかい?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ヒューマン。 いろはにぼうし @irohanibou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ