ドラゴン討伐 3

アスタルテは目を閉じて、意識を内側にある自分の力に集中させる。澄んだ湖のような巨大な力。どれだけ巨大な力を貯蔵していようと、すべてを開放することはできない。心の世界と現実の物質世界との間にゆっくりと道を開く。

アスタルテの体を薄紅色のオーラが徐々に覆う。

それは、熱を伴った旋風となって周囲に広がっていく。

俺は顔を覆う。

徐々に強くなっていく風に視界を奪われそうになるのを必死でこらえる。

「来ます!」

ミーシャの挙げた声と同時にアスタルテの体が変化する。

紅蓮の炎のように燃える紅い瞳。

鋼鉄のような体。

強力に鍛えられた鋼でも一瞬で切り裂けてしまえそうな鋭い爪。

そして、天を高く舞う巨大な翼。

ドラゴン。

アスタルテはその本性を開放する。

アスタルテは鋭い爪で薙ぎ払う。

俺はそれを紙一重でかわしつつ、腰のサーベルを引き抜く。

ドラゴンとの実践は初めてだが、知識はある。

魔力をサーベルに込めた鋭い一閃。

ドラゴン切りと呼ばれる剣技だ。

アスタルテは、その一閃を受けるも、びくともしていない。

「アスラン、通常の力では勝てません。紋章の力を開放するのです」

「しかしどうやって。あの時はたまたま開放されただけだ」

「欲するのです。その力を使うことを」

欲する。

俺は力が欲しい。

使える力なら何でもいい。

勝てる力が。

目的を果たせる力だ。

右手の紋章が青白く輝く。

巨大な輝きではない。しかし、それでも人並み外れた力が湧き上がってくるのを感じる。

俺はもう一度ドラゴン切りを放つ。

固い。しかし、さっきほどではない。

何度も斬撃を放つ。

アスタルテはそのいくつかを防ぐものの確実にダメージを受けている。

「だめだ。この程度では勝てない」

アスタルテは激しく鳴き声を挙げると、凄まじい熱量を口に蓄え始める。

ブレス。

ドラゴンが吐く息のことだ。

これをまともに浴びれば一瞬で体が灰になる。

ブレスを防ぐには魔力の壁が必要だ。

俺は、サーベルを掲げ呪文を唱える。

ブレスバリア。

可能な限りの魔力を放ち、波動の結界を張る。

火山が噴火したときに流れる溶岩のように炎の息が襲う。

俺は魔力の壁に守られる。

それでも、思いっきり熱湯を浴びた程度には厚い。

服の一部が焼き切れる。

「だめだ。この程度では勝てない」

一見していい勝負をしているように見える。

だが、確実にこちらは削られているのに対して、アスタルテには相当な余裕がある。

このままでは近いうちにこちらが倒れる。

ドラゴン。恐るべき力だ。

これが本気で暴れたら人間の国家などひとたまりもなく滅びる。

あのオデカルトとかいう男にすら勝てないのだ。

今の俺でどうにかできるのか?

力だ。

紋章の力をもっと引き出すのだ。

俺は念じる。

しかし、反応する気配はない。

そうしている間にもアスタルテは何度も鋭い爪で薙ぎ払ってくる。

そして強力なブレスの一撃。

俺はかろうじて防ぎつつ反撃するが限界が近い。

「アスラン!」

唐突にミーシャが声を挙げた。

「こういう時はひたすら突撃です!」

「……」

確かに手がないのは事実だ。

俺は何も考えずにひたすらありったけの力を込めて斬撃を放ち続けた。

アスタルテは高速の剣技をかろうじて防ぐ。

そこで、ふと違和感を覚えた。

動きが遅くなっている?

「ドラゴンの体力も無限ではありません。諦めないでください!!」

アスタルテは舐めるなと言わんばかりに強烈なブレスの一撃を放つ。

「そうか、何となくわかってきたぞ」

俺は強烈な一閃でブレスをかき消す。まるで、砂を払うように。

ミーシャは目を丸くする。

アスタルテも動揺しているようだ。

俺は目を瞑る。意識を内側の魔力へと集中させる。

ここまでは、通常魔力を行使するのと変わらない。

そこに、一つの細い管。今までは気がつかなかったが、なにやら途方もない力との細いつながりを感じる。とても、細い道で無理をすればはち切れるだろう。

おそらく、この道から紋章の力が流れ込んでいる。

俺はその道を一時的にではあるが強引に広げる。

目を開くと右手の紋章がかつてないほど激しく輝いていた。

「悪いな。慣れていないから加減できないぞ」

俺はアスタルテに向けてありったけの力を放つ。

視界が真っ白になる。

そこで、俺の意識は深い闇のなかへと落ちていく。

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アスラン・ゲーテ 御影 蒼 @athiya

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