ドラゴン討伐 2
更に地下深く進んでいくと、ミーシャの言う通り徐々に雰囲気が変わり始めた。泥と湿気に満ちた陰鬱な雰囲気は消え去り、どこぞの王城の渡り廊下のような景色が取って代わる。
装飾品も洗練されており、アストリアの王城にも引けをとらない。
「どうやら、たどり着いたようですね」
ミーシャは回廊の終わりにある巨大な扉を指さす。
宝石などがちりばめられた上品な扉だ。
俺は、扉を力で押し開けようとするもののびくともしない。
「どうやったら開くんだこれ?」
すると、突然扉は開いた。
まるで、招かれているようだ。
「どうやら、ここの主は私たちを招待しているようですね」
山ほど疑問はあるが、俺とミーシャは門をくぐる。
そこは、玉座の間だった。
そして、その玉座には外見上は年の若い少女が腰を掛けている。
ロングの金髪に碧眼。
足腰は細く、肌はまるで絹のようにきめ細かい。
王女のようなドレスを身にまとっている。
様々な社交界に参加したが、これほど美しい少女は見たことがない。
男なら一瞬で心を奪われるほどの美貌だ。
彼女はまるで瞑想に耽るように静かに玉座に佇んでいる。
まるで、そこから世界のすべてを見渡すかのような荘厳さを感じさせた。
「おや、客人とは珍しい」
口を開けば、先ほどまでの荘厳さと静謐さは一瞬で消え失せる。
見た目通りの、いや見た目よりも幼い感じの口調だった。
しかし、その態度には王侯貴族のような尊大さをはらんでいる。
「人間か?もう一人は少し違うようだが、余を殺しに来たか?」
彼女は挑戦するような目をこちらに向ける。
「ちょうどいい、退屈していたところだ。少し遊んでやるのはやぶさかではないぞ」
「いや」
俺は言葉を遮る。
「まずは、話がしたい」
少女の姿をしたドラゴンは不思議そうにする。
「話とな?一体なにを話す必要がある?其方は余を害獣として討伐しに来たのではないのか?そのような、人間はこれまでに何度もいた。当然返り討ちにしてやったがな」
彼女はふふんと誇らしげに胸を張る。
「俺はアスラン。アストリアの貴族ゲーテ家の嫡子だ」
「アストリアか。かの国は半壊状態だと聞くが」
「その通りだ。俺は、仲間を、家族を、婚約者を取り戻さなければならない」
「それは気の毒に。だが、余には感心のないことだ。だが、名乗られたからには名乗り返さねばなるまい。余はアスタルテ。赤竜王の娘にしてかつては王女であったものだ。まあ、竜族の黄金時代が滅んだ今となってはもうそのような肩書に意味はないがな」
アスタルテの瞳には幾分かの憂いを見て取れた。
「そこだ。俺は、どうやらお前たちドラゴンについて何も知らないらしい。お前たちは時折人間を襲い、また惑わし破滅させる。それはなぜだ?」
「面白い質問だな。このような人間は初めてだ。よし、暇つぶしに答えられることには答えてやろう。まず、余は争いを好まぬ。必要以上の喧嘩はしたくない。だが、攻めてくるものを追い返すのは当然では?」
「確かに、だがそれだけではないだろう。言い訳のしようのない悪事を働くこともあるだろう。幻惑で人や国を滅びに導くこともあるという」
「余は知らぬ」
「なに?」
「それは、他のドラゴンがしたことだろう?余には関係がない」
「……」
俺は言葉を失った。予想外の返答だったからだ。
「ドラゴンも一枚岩ではないということですよ」
ミーシャが口を挟む。
「それより気になっていたのだが……」
アスタルテはミーシャに視線を移す。
「其方は何者だ?見たところ人間ではないようだが。精霊か?」
「お気になさらず、私はただの従者ですよ」
「ほう、従者とな?ただの人間に従うような存在には見えんがな」
「見たところ退屈しておいでのようですが?」
「見ての通りよ。特にすることはない。ここ数百年、毎日目を瞑って座っているだけよ」
「では勇者様に協力するというのはどうでしょうか?少なくとも、今よりはスリリングな毎日を過ごせると思いますよ?」
「勇者だと?」
アスタルテの視線が鋭くなった。そのまま、アスランに視線を移す。
「この男が勇者であると??」
俺は手の痣を彼女に見せた。
「なるほど、そういうことか。ならば、お前のような訳の分からない霊がついていても不思議ではない。だが、簡単にはいそうですかとはいかんな。詐欺師は見慣れておる」
「では、証拠を示せばよろしいと?」
「左様。余とてこんな穴倉に気の遠くなるほど引きこもっていたのだ。心の踊る物語に自ら参加して、かつてのときめきを取り戻したいものだ。だが、ここでホイホイついていってはつまらぬ」
アスタルテはいたずらっ子のようにアスランを見つめる。
「アスランとやら、余と戦え。見事、余に打ち勝ったなら勇者の旅に余を同伴させることを認める」
彼女は偉そうに宣言する。
なるほど、面白いことが好きで気まぐれな種族。
ミーシャの言っていた通りらしい。
もしかしたら悪事を働く竜とは一種のいたずらっ子のようなものなのではないか。
もし、人間という種族に敬意を持ったならそのような行動はしなくなるのかもしれない。
「いいだろう。その決闘受けてたとう」
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