9741

 私は生まれた時から足が不自由だった。 


 頑張れば、松葉杖を使えば、なんとか歩くことはできる。


 でも不便だ。 


 子供の頃から足が悪かったせいか、私は鳥に憧れていた。 


 翼はためかせて、自由に大空を飛びたい。 


 私はそう願った。流れ星に、ミサンガに、織姫と彦星に、サンタクロースに。ありとあらゆるものに願った。 






 ある時、私は夢を見た。 


 真っ白な空間に、私ともう一人。目の前にお爺さんが立っていた。 


 根拠は無いけど、私は確信した。この人は神様だ。ここは私の夢、私の世界。この人が神様と言ったら神様なのだ。


「神様、お願いします。私を鳥にしてください。ツバメでもカラスでも何でも良いです。私に空を飛ぶ力をください」


「……良かろう。明日の朝、病院の屋上から飛び降りなさい。君を鳥にしてあげよう」 


 そう言うと神様はふわっと消えた。  






 次の日。 


 私は屋上から飛び降りた。 


 両手をまるで翼のように広げて、屋上の柵の向こうへ。 


 私は飛んだ。 

 まるでハヤブサのように。 






 数秒後、私は頭から地面に激突した。 

 私は飛んでいたのではない。バズ・ライトイヤーよろしく、格好つけながら落ちていただけだった。 


 意識が朦朧としていく。きっと私は死ぬんだ。 

 

 消えゆく意識の中で、私はあの神様の姿を見た。 


 神様は私にこう言った。


「約束どおり、君を鳥にしてあげよう。君の来世は鳥だ」

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9741 @9741_YS

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