天秤

9741

天秤

 勇者アーロンは究極の二択を迫られていた。 

 世界の命運と、愛する女性。 


 一般的な意見ならばおそらく、一人の女性より大勢の人間を救うべきだろう。しかしそんなこと勇者であるアーロンにできるわけがない。 

 しかしかといって、大勢を犠牲にして愛する者を選ぶわけにもいかない。


「さあ選ぶがいい、勇者よ。世界を壊して愛する女を助けるか、女を捨てて世界を守るか」 


 不適に笑う卑怯な魔王。 

 

 魔王は魔法でアーロンの前に、天秤を出現させる。 

 片方の皿には赤い宝石が、もう片方には青い宝石が乗せられていた。一つの宝石を取れば、もう一つは地面に落ちて割れてしまいそうだった。 

 どっちの宝石が世界と女性のどっちを指し示しているのは分からないが、とにかく選べということなのだろう。


「俺は……」 


 アーロンは天秤に向かって、手を伸ばす。 

 彼が選んだのは、赤い宝石か、青い宝石か。世界か、女か。 


 勇者がその手に掴んだのは……。 


 ……天秤の柱、支点の部分だった。


「これが俺の答えだ!!」 


 彼は魔王の作った天秤を宙へと投げた。 

 放物線を描きながら落ちてくる天秤と二つの宝石。 

 アーロンは右手で赤い玉を、左手で青い玉をキャッチする。そして天秤は地面に衝突し、壊れる。


「……なんのつもりだ」

「俺は欲深い人間なんでね。二つとも貰うことにしたよ。どっちか片方しか手に入らない天秤なんてぶっ壊して、全部の宝を手に入れてやる。……俺は魔王、お前という名の天秤を壊して、俺自身が天秤になってやる!!」 


 宝を懐に仕舞い、剣を抜く勇者。 

 

 今、魔王と勇者の戦いの火蓋が切られた。

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天秤 9741 @9741_YS

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