第9話 ただいま
バスで家へ戻り、祖母たちが一通りお礼や挨拶をし終えると、パラパラと参加した人たちが帰って行った。従兄弟らは叔母がまだ話したりするので残っている。
千春は制服から白いTシャツに紺のハーフパンツの部屋着に着替え、応接間へ行った。そこでは中学生の正樹が制服のままソファーに横になり、テレビを見ていた。そのソファーの下で、春樹がテレビを眺めている。
「あれ? 海人くんと陸くんは?」
「車で着替えてくるってさ」
正樹は外に止めてある車を指さした。わずかに車が揺れている。
「わざわざ車じゃなくても、着替える部屋ぐらいあるのに……」
まあまあ田舎であり、農家の家ということもあって、平屋だが、部屋数は多かった。言ってくれれば部屋をあけたのに、わざわざ狭い車で2人そろって着替えさせてしまって申し訳なく感じた。
「かいくんがね、ゲーム持ってきてくれたって言ってたの! だから僕は我慢するんだ!」
そう言う春樹を見ると、ソファーの上の正樹が足で後ろからつついていた。
「まさくんは何してんのさ……? はるくんかわいそう!」
「こいつが悪いんだよーっだ。 ゲームゲームってうるさいんだよ」
「まあまあ……みんなでやろうか! 春くん、負けても泣かないよね?」
「泣かないもん!」
春樹と正樹、千春と美咲の4人で人生ゲームをやったことがあるが、ボロボロに負けた春樹は泣かないと約束しても大泣きしたことがある。負けそうになっているときに兄の正樹があおってくるのだ。いつも兄に何かちょっかいを出されて泣いている。
「あ、着替えてきたみたいだよ。 春くん、ゲームやらせてほしいってしっかりお願いしてきな」
千春が春樹に言うと、春樹は走って玄関へ向かい、海人と陸にゲームをやらせてくれとお願いしていた。
正樹と春樹はちょっかいを出して春樹が泣くこともあるが、弟の荷物を持ってあげたりと仲がよい。中学生と小学校の低学年で歳が離れていることも仲がよい理由かもしれない。
海人と陸の兄弟は歳が1つしか変わらない兄弟だが、仲がよい。兄の海人がいつもへらへらしており、弟に手や足も出さないのと、弟の陸がしっかりしており、口では悪口のようなことを言うが、実は兄のことを慕っているということを兄は知っているのだろう。
それぞれの兄弟は仲がいいのに、なぜ3歳離れた美咲と千春の姉妹は仲がよくないのだろうか。何かを言えば、その言葉が倍以上になって返ってくるほど仲が悪い。口でいうより先に手がでるようなタイプだ。大学生にもなって、そんな暴力的な女というのはいかがなものだろうか。
ふとそれぞれの兄弟をよく見て思った。どうしたら仲良くなれるのだろうって思ったが、そんなこと小学生で友達を作ろうとした以来考えたこともなかった。
「ちーちゃん、ゲームするよ!」
目を輝かせた春樹が声をかけた。海人が持ってきたテレビゲーム機をテレビにセッティングしている間、ずっと考えていたようだ。
「よーっし! 負けないからねー!」
5人でもできるゲームをやった。勝ったり負けたりわいわいしていると、祖母が飲み物やお菓子を持ってきてくれた。大人たちは別の部屋で何やら会議をしているから、邪魔しなければ何しててもいいとのことだった。
結局葬儀から帰宅して、夕方6時すぎまでずっと従兄弟たちとともにゲームをして過ごしたのち、それぞれの家へ帰って行った。春樹も泣かずに過ごすことができたが、帰り際にまだゲームをしていたいと駄々をこねて泣いた。叔母に説得されて帰って行ったが、顔は涙でぐしゃぐしゃだった。
葬儀が終わった夜、喪主の仕事やいろんな人へのあいさつ回りやらで疲れた父はいつもよりお酒がすすんだ。あまりお酒を飲まない母と祖母も、今日ばかりはお酒を飲んだ。未成年の千春はお酒の代わりに家にあったペットボトルの紅茶飲料を飲みながら4人で夕食をとった。夕食といっても、葬儀のため準備ができないので、コンビニ弁当だったが、ひと段落したこともあってワイワイしながら食べた。
夕食後、千春は自分の部屋に戻ってベッドに横になった。明日は土曜日で学校は休み。しかし、父いわく、明日は田んぼをやるのだと言っていた。何をするのかまでは聞いてないが、父には休みがないのだけはわかった。
(明日なにしよっかなー……って宿題あったかも)
☆
「千春はお手伝いできて偉いなあ」
「じいちゃんをこれからも手伝ってくれよ」
「偉い千春にはお駄賃だ。ママには秘密だからな」
「千春の成人式みたいなあ」
「千春の好きな刺身買ってきたぞ」
「ほれ、旅行のお土産だ」
何をしようか考えているうちにいつの間にか寝ていたようだ。
祖父の夢を見ていた。たびたび祖父は旅行へ行き、お土産をもらったことがいっぱいあったが、毎回同じ場所へ旅行き、色は違えど、サイズは同じ赤べこのキーホルダーをもらっていたことを思い出し、机の引き出しをあさった。すると、赤と青の赤べこがでてきた。
(なんで毎回赤べこだったんだろ?)
祖父の同窓会メンバーで旅行へ行っていた。何度か写真を見たことがあるが、そのたびにこの人は亡くなった、こっちの人も亡くなったと聞いており、今ではほんの数人しか生きていないのではないだろうか?
見つけた赤べこのキーホルダーを机にかざる。机の上の時計を見ると夜の11時をすでにまわっていた。自室から出ると、廊下の電気も消されており、どうやら家族はみんな寝たようであった。後に誰もいないので、ゆっくりお風呂に入ると、仮眠したのにも関わらず眠くなり、ベッドにもぐるとすぐに再び夢の中へ落ちていった。
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