第36話 大食いマックス
ハントは宿屋に戻って、一休みすることにした。マックスの帰りを待つ。
なんかどんどん騎士団から離れていっているが、目的は変わらない。なので問題ない。問題があるとしたら、ここの魔装具店の店員に「必ず買います」とか言ってしまったことだ。中古で全部買うとなると、嘘をついたことになる。別に気にしなくてもいいが、言ってしまったのでちょっと悪い気がする。一つぐらいは買ってみるか。
うん、そうだな。なにもいっぺんに買う必要はないじゃないか。
問題は、どの属性の魔装具を買うか、だが。
そこで思い出すのは、酒場の地下での実験だ。
魔力体の移動、接着は難なくできる。ただ、変化が苦手だ。変化に対応する属性ってなんだっけ? グロリアさんに聞いておけばよかった。
ちょっと図書館にもで行って、調べてみるか。
食堂で昼飯を食べたあと、外に出た。図書館のほうに向かうが、やけに騒がしい。人が固まっていて、なにやらイベントがあるようだ。
あ、そういえば、大食い大会って今日か? マックスが出場するんだっけ? ちょっとのぞいてみるか。
ステージがあり、参加者が五人ほど立っている。食べているのはホットドッグだ。パンにソーセージをはさんだシンプルな食べ物で、ハントも好きだった。係員の人がタイムを測り、制限時間内により多くのホットドッグを食べた人が勝ちとなるようだった。過去には喉に詰まらせて死者が出たようで一時中止になっていたが、周りからの声によって再開されたらしい。食事とは本来楽しいものだが、競技となると楽しくなくなる。この辺りは趣味とかと一緒かもしれない。参加者の男たちは口の中をパンパンにふくらまし、苦し気に食べていた。
優勝賞金は十万だったか。観戦する立場に立つと楽だな。競技者は違うだろうが。今は予選のようで決勝ではないようだ。それにしても太めの男が目立つ。やはり、大食いというとそういう体形のほうが有利なのか?
予選が終わったようで、会場は静かになった。マックスは負けたのだろう、どこにも姿はない。
大食いが得意とか言ってたけど、まあ、あの体形じゃあしょうがないか。
決勝はちょっとだけ見て、図書館に行こう…なんて思ってたら、始まった決勝にマックスが出てきた。
「え? 嘘だろ…」
太めの男たちが並ぶ中、ひ弱そうな童顔男が混じっている。
ここに出場するってことはマックスって…。
ハントは会場に釘づけになった。そして、よーいドンの合図に一斉に食べ始める。マックスはホットドッグとパンを分けて食べるような食べ方をして、口の中にどんどんと肉とパンを入れていった。後ろにはカウントのパネルが掲げられ、どのくらい食べたか一目でわかるようになっている。マックスだけ、明らかに食べる速度が他の参加者と違っていた。死に物狂いの形相で食べるその姿に、なにか胸に迫るものがある。一生懸命になって格闘しているその食べざまに、ギュッと心臓をつかまれるような思いがした。
そして…優勝したのはマックスだった。彼は短時間に二十のホットドッグを食べ、十万を手にしたのだった。彼の顔に笑みがこぼれた。
ハントは図書館に行くのそっちのけで、彼に祝福の言葉をかけようと近づいた。それは大会が終わり、いつもの街に戻ったあとのことだった。二人は広場のベンチに座る。
「ハントさん。見てくれてたんですね。恥ずかしいです」
「すごいのを見せてもらったよ。マックスさんってすごいんだな」
「これぐらいですから。僕の取り柄って」
「いや、取り柄があることがすごいよ。俺なんてなにもないから…」
「そんなことないですよ。なにかありますって」
励ましてくれるマックス。優しいやつだ。
「ああ。そうそう。マックスさんって空飛べる?」
「え?」
「北のレギンズに行きたいんだけど。あ、予定が空いているときでいいんだ。もちろんお金は払うよ」
「僕は、ちょっと…」
マックスの表情が暗くなっていくのを感じた。
「あ、ダメか。そうだよな。空飛ぶのって難しいよな」
「いや、僕は才能ないから…」
「そんなことはないと思うけど」
自信なさが顔に出ていた。
というか、さっきとセリフが逆転してないか?
「僕は戻ってるよ。ちょっと疲れたからね」
「ああ。俺は図書館に行ってるから」
「それじゃあ」
彼はとぼとぼといつもの彼のように頼りなさそうな後姿を見せていた。
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