第34話 マックスとの会話

 明日こそはっ!

 そういう思いで宿屋に戻る。もはや金を貯めることなど二の次になっていた。

 部屋に戻ると、マックスが帰っていた。

「おかえり」

「た、ただいま…」

 彼はテーブルの上でなにやら難しそうな本を広げていた。メガネを外し、ハントと向き合う。

 なんか久しぶりに聞いたな。おかえりとか。こういうのをシェア友とかって言うんだろうか? 仲間がいるのは安心する。…ん? そういえばベッド一つしかないな。まあ、俺は床でもいいか。

 そのことを伝えると、

「それは悪いですよ」

「いや、言い出したのは俺だし。毛布があれば俺はいい」

「そうですか? じゃあいいですけど…」

 それから二人はお互いの話をした。ハントは騎士団にいたが、一旦離れて魔樹海の森に行ったことを話すと驚かれた。そしてマックスは遠くの村から出稼ぎにやってきたという。家には病気の妹がいるという話で、危険だが儲けることが可能な冒険者を選んだのだとか。

「最初は三人で組んでやってたんですけど、僕があまりに使えないからって、別れたんです」

「そうだったのか…。でも、お互い助け合って行動するのが仲間だと思うけどな。マックスさんだって、得意なところがあるし」

「僕は大食いぐらいですよ。あとは魔法の知識が少し…」

 魔法使いだからな。あ、そう言えば、聞きたいことがあったんだ。

「テレポートって知ってる?」

「はい。知ってますが」

「マックスがテレポートを使うことって可能なのか?」

「いや、それは無理かなと…。テレポートは大量の魔力を消費するので、人一人の魔力だとまったく足りないですよ」

「だから、テレポリングがあるのか」

 マックスはうなづく。

「ハントさんがつけてるもの。そこには高価な魔石が入っているはずです。魔石には魔力が蓄えられています」

「待てよ。じゃあその魔石を取り出せば…」

「いえ。それはできません。十分に魔力が蓄えられた魔石は空気中に触れると、魔力が漏れ出してきます。そのための対策も、そのリング内で施しているはずです」

「そっか。簡単にはいかないんだな」

「はい。…どうしてそんなことを?」

「テレポートが安い費用で使えるのなら、今後楽になるかなって思って…」

「ああ。なるほど。確かにそうですね」

「マックスはテレポリングしてないんだな」

「高価ですので…」

 五百万だもんな。小さな家が一軒建つぐらいのものをそうそう買えないか。それに、危険なことをしないと決めていたら必要はない。

「マックスはこれからずっと、ここに?」

「…いえ。そのつもりはないです。稼ぎが悪くなったら故郷に戻るつもりです。ハントさんは?」

「俺は魔装具を全部買ったら帰るよ。目標は十日と決めてる」

「森に、ですよね。目標もそうですが、すごいですね。その決意はどこから来るんですか?」

「騎士団で悔しい思いをしたからかな。あと、大切な人がいるから、その人にかっこいいところを見せてあげるため、かな?」

「へえ…。いいですね。恋人ですか?」

「い、いや、まだそこまでは…」

 ハントは告白までの流れを想像していた。エレナと一対一で勝負し、勝つ。そのあと告白。これが理想だ。話すのは恥ずかしいので、このことは自分の中だけに秘めておく。

「最近、よくない噂を聞くので、森に戻るときは気をつけてください」

「え? どんな?」

「依頼にも出てましたが、エイビスという飛行大蛇が出るみたいです。まあ、森は広いので遭遇する可能性は低いですが…」

「ああ。その依頼は見たことがある。気をつけるよ」

 まあ、最悪、テレポリングがあるのだから大丈夫だろう。

 夜も遅くなってきたので、二人は風呂に入って寝ることにした。寝る前まで、マックスは勉強をしているようだった。

「マックス?」

「ああ。ごめん。そろそろ寝るよ」

「いや、いいんだけど。なにしてるのかなって」

「魔法の勉強だよ。一応、魔法使いだからね」

「そっか。じゃあ、俺先に寝るから…」

「おやすみ」

 ハントは床の上で毛布をかぶり、眠りに落ちた。

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