第28話 暗黒魔法の存在

 お金に余裕ができたので、図書館へと向かった。そこでやることといったら勉強だ。大会で相手に魔法を使われ、戦闘不能に陥った苦い経験。あれは二度と繰り返したくない。

 調べてみると、昔は今のような魔力体を変化する戦い方ではなく、純粋に魔法と魔法のぶつかり合いが行われていたようだ。ファイアボールの火球を放てば、相手がアイスウォールと言って、氷壁を作り、防御するような形だ。しかし、それだとなにが問題なのかというと、そのスピードだ。魔力を溜め、呪文の詠唱、そして発動。その工程が長く、時間がかかる。呪文も覚えなければいけない。五十年ほど前までは、魔法使いといえばそれだけで「おおっ」と驚かれたほどだったそうだ。数は少なく、専門性が強かった。

 そこに新しいスタイルが登場する。それが今、主流となっている魔力体の変化だ。一度発動した魔法を変化させることで、効率化をはかった。魔法発動も、魔力を流し込めば誰でも発動できるように、物に魔石を埋め込む方法がとられる。それが魔装具だ。

 魔法発動方法、バトルスタイルが変わったことで魔法が一般人にも浸透するようになった。誰でも使えるので、より身近になったのは想像に難くない。ただ、それによってデメリットが生まれた。その一つに、どんな魔法があるのか、あまり知ろうとしなくなることだ。

「魔法って色々あるんだよな。防御魔法以外にも…」

 ハントが戦闘不能になるほどの魔力を吸われたあの魔法。あれはなんなのか? どうやったら防げるのかについて、知りたかった。そこで魔法大全という分厚い本を開いた。そこには魔法名と効果、有効範囲が書かれていた。何行も魔法が並んでいるので、目がクラクラしそうだったが、ハントが着目したのは有効範囲という項目だ。それはGからSまであり、Sが遠くまで攻撃できる魔法だ。逆にGは超近距離のみ発動可能。おそらく、家出魔法少女の使った麻痺魔法、そしてふとっちょ男が使った魔力を吸う魔法、これらは近距離魔法なのだろうと予測した。であるならば、対処として離れたらいいということになる。単純な話だ。あるいは攻撃をするか、だが…。

 パタン。

 ハントは本を閉じて、本棚に戻した。

 深く考えてもわからん。こんなリスト、ずっと眺めててもしょうがないし、とりあえず収穫はあった。それよりも後十三万ぐらいお金貯めないと、全種魔装具が買えない。

「ん?」

 気になる本が目に入った。

「暗黒の魔法…。なんだこれは?」

 興味を引くタイトルで、ずいぶんと古い本のようだ。それを開けてみると、闇の魔法について詳しく書かれていた。闇属性の魔法は五属性の中でも多くの魔力を消費する、発動者にとっては負荷が強い属性だ。それゆえ、突き抜けたこともできる。それが暗黒魔法というもので、死者蘇生だとか若返りの術とかそういった類のことが書かれていた。

「うわ…。これは…」

 読んじゃいけない本だな、ということは直感で理解できた。押すな、危険と書かれたそばにスイッチがあるようなものだ。つい押したくなるというか、そんな好奇心がハントの中に少しだけ芽生えた。少しだけページをめくり、読み進めていく。インパクトがあるのは、死者蘇生か。

 魔法名はダレイズ。

 効果範囲は超近距離のGで、命が尽きた生き物を復活させる魔法。ただし、発動者もダメージを負う、か。どの程度のダメージを負うかはランダムのようだ。例えばここに書いてあるように、病気になったり、記憶を失ったり、半身不随になったりしたものもいるとか。亡くなった人を生き返らせようとする…その思いは理解できるが、理に反したことだ。やってはいけないだろう。それに、自分がどんな目に会うのかわからない魔法とか、ないな。まさに運だ。

「よいしょと」

 ハントは怪しげな本を元の場所に戻した。そして、図書館を出て、ギルドのほうに向かった。

 あと十三万ぐらいか。食費とか入れると十五は欲しいところ。お金が溝とかに落ちてないかな? なんて都合のいい話、あるわけないか。

 そんなとき、宿屋のドアが勢いよく開かれた。出てきたのは大会の優勝者であるごつめの男と連れである細めの男だ。三人組なので、もう一人、太った男がいるはずだが、その姿はない。

「くそっ! どこに行きやがった!」

「わからないです…」

「あの野郎…。おいっ。手分けして探すぞ!」

「は、はいっ」

 なにやら問題が発生したようだ。細めの男が駆けてきて、一瞬だけこっちを見てきた。そして、無視するように通り過ぎ、走り去っていった。

 仲間割れか?

 短い話の流れから、ハントはそう推測した。

 まあ、俺には関係ないか。

 頭を切り替え、冒険者ギルドの中に入った。

 依頼、依頼…。お金、お金っと。

 新規の依頼を眺めていく。そこで、魔樹海の森に出没する飛行大蛇エイビスの魔物退治が目に止まった。

 ヘビなのに飛ぶのか?

 注目したのは報酬の高さだ。五十万…高い。しかし、条件としてランクの高い困難な依頼を複数こなしてきた者となっている。ハントは冒険者になりたてで、条件に合致していない。無理だったのであきらめる。

 エイビスか。どんな魔物なんだろうな…。グロリアさんがいてくれたら、お願いできた依頼かもしれない。

 その他の依頼で、こなせそうなものはあったが、報酬は少なかった。

 十日で二十三万。目標を設定しているので、達成してやろうという気になる。他の誰でもない、自分が設定した目標だからだろう。

 ハントは受付嬢に話かけた。

「あの。すみません。手っ取り早く十五万ぐらい稼げる方法とかないですかね?」

 我ながらバカなことを質問していると自覚していた。誰でも、簡単に稼ぐ方法があるとしたら、みんなそれをやっている。案の定、受付のお姉さんは苦笑いだ。

「特別な依頼を抱えているなんてことないから、掲示板に貼ってあるのが全てよ」

「そうですね。すみません。変なこと言って…」

「報酬だけ見るのが普通だけど、それ以外にも目を向けてはどうかしら?」

「それ以外ですか?」

「経験とかね。その依頼をやることによる経験は、お金では得られない貴重なものよ」

 なるほど。経験か。

 改めて依頼を見る。今度は新規ではなく、掲載が古いほうの依頼を眺めた。猫探し…はどうしようもないな。猫なんてどこにでもいるし、判別がつかない。倉庫のネズミ退治…。素早く動くネズミを退治してくれという内容だが…。報酬は一万。微妙だ。ただ…素早く動くネズミ…か。魔力体による攻撃、その練習に使えるかもしれないな。

 番号を書き、受付嬢に提出。さっそく依頼主の元へと向かった。

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