第22話 闇の防御円発動成功

 不思議なことに、焦りのピークを乗り越えると、緩やかに下降していくのが自分でもわかった。ここに来て十日の間、後半は家に引きこもって栄養をつけることに専念できた。体験を通して理解できたことが大きい。ここは魔樹海の森で危険なのだと、オートマジックアクティベート、死なない仕組みこそ大事なのだと納得ができた。ちなみに、この仕組みを作ったのはシャークさんだという。剛腕なイメージだったが、実際は発明家かなにかだったのだろうか。

 死ななければ、何度でも挑戦できる。彼女は魔物の駆除を月に一回の間隔で実行しているようだ。傷だらけになって戻ってきても、意識不明の重症じゃないのならばヒーリングカプセルで治癒できる。よくできた仕組みだ。

「グロリアさん。十日経ちましたよ。次のステップに進めるんですよね?」

「ああ。鎧術を使ってみろ」

 イスの背を前にして、座っているグロリア。彼女が見守る中、ハントは漆黒の鎧を身につけた。そして、胸に手を当てて魔力を注ぎ込む。元気の元が吸われていく感覚がするのだが、前よりは全然平気だった。ウンッ! と唸り声を上げると、黒い防御円がハントを包み込む。

「や、やった!」

 何度目のチャレンジだったのかわからないが、ようやく発動までいけた。その嬉しさに歓喜の声が自然と出る。グロリアと握手して踊りたいぐらいの気持ちだ。そんなことをしたら殴られるので、やらないが。

「維持しろ。喜んでいる場合じゃないぞ」

「はいっ」

 自然と声が弾む。

 やればできるんだな、我慢してきてよかったと涙が出そうになった。

 維持は思ったよりも難しく、三分ほどで力尽き、防御円が消えた。

「はあ、はあ…」

 全速力で走ったときみたいに、疲れがドッと押し寄せる。

 これはきつい。騎士団のみんなはこれを経験していたのか。

「今日からお前はその練習だ」

「これも十日ほどですか?」

「いや、様子を見ながらやる」

 鎧術である防御魔法の維持に努める。ただ、一回魔力を消耗するとなかなか回復しない。限界ぎりぎりまで魔力を使ったら、一日二回ぐらいが限度だ。その二回目、ハントは挑戦した。黒の防御円を形成。それを少しの間、続けていくが、額から汗が流れてきた。

「くっ…。も、もうダメだ…」

 防御円は消えた。

「一分半ってところだな」

 息を整えたあと、ハントは口を開く。

「ヒーリングカプセルがありますよね。あれで魔力回復できますか?」

「できるが、使わせないぞ。金がかかるからな」

「十万でしたっけ?」

「ああ」

「一回ぐらい、いいじゃないですか」

「ダメだ。大人しく明日まで待て」

 疲れは感じるが、やる気はみなぎっていた。もどかしい気持ちを感じたが、待つしかない。その間はやはり暇だった。スクワットに励むが、それも飽きてくる。

「なんか、もどかしいですね」

「修業というのはそういうもんだ。そうだ。一つ、やることがあった」

「なんですか?」

「属性を知ってるな?」

「火、水、風…の?」

「そうだ。ハントの属性は闇が一番強いだろう。ただ、その他の属性はどうなのか、調べてみるか?」

「はあ…」

 彼女は寝室から透明なビンを持ってきた。中に四角の変な物体が三個浮いている。

「これはそれを調べるためのものだ。握ってみろ」

 言われたとおり握る。すると、手前のサイコロ大の四角い物体がドロドロになった。次に、奥の一つがプルプルと揺れ始める。そして最後の一つは反応がなかった。

「なるほど。風の属性が強いみたいだな。二種属性持ちか」

「風ですか」

 それがなにを意味するのか、わからなかった。

「風は魔力体の移動が得意だ。ちなみに私は三種属性持ち。闇、火、風。闇は接着、火は硬質化が得意。これがなにを意味しているのか、わかるか?」

「いえ。さっぱり」

「少しは考えろ」

「すみません…。えっと…」

 硬質化、接着、移動…。なんだ? 戦い方に関係あるのか?

 そこで前にドラゴンと戦ったときのグロリアを思い出した。

「あっ。あの箱…」

「ああ。魔力の壁を硬質化し、勢いよく移動してドラゴンを囲った。そして壁同士は接着。最後のフタで押しつぶした」

「なるほど…。てっきりグロリアさんはああいう風に潰すのが趣味かと思ってました」

「私をどういう女だと思っているんだ?」

「い、いやその…」

 彼女を前にするとたじろぐ場面が増えたのは気のせいだろうか。

 機嫌を悪くしたと思ったので、矛先を変えるために口を開く。

「つまり、俺は移動が得意ってことだから、魔力体を素早く移動して攻撃できるってわけですか」

「そうだ。小刻みにゆっくりと移動することもできる。でも、それだけだとまったく意味がない。魔力体の変化なしに相手にぶつけても、壊れてしまう」

「え…。じゃあ、意味ないんじゃ…」

「その他の属性を高めたらいい。私もそうしたからな」

「つまり、グロリアさんみたいなことができると?」

「ああ」

「ぜ、ぜひ他の属性の高めかたを教えてくださいっ!」

「お前、元気だな。まあいいか」

 鼻息荒いハントの表情に対し、やや呆れ顔のグロリアだった。

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