第14話 鎧術の発動すらできず
後日、午前の訓練の後、地下へと集まった。もはや憩いの場となっている件について、サリーは別に不満はないようで、昼飯を食べ終わる。エレナが口を開いた。
「ハント。例の件だが…」
「え? なになに? なんですか? 例の件って」
ルッカが反応を示す。例の件とは、漆黒の鎧のことだ。エレナはハントの顔を見る。続けていいと、彼はうなづいた。
「漆黒の鎧だが、見つかったよ。とある商人が一つ持っているようだ」
「そうですか。よかった」
本当は嬉しかったが、みんなの前なので控えめに喜ぶハント。
「漆黒の鎧?」
「ハントは防御魔法を使えないんだ。だから、色々と苦労があるんだよ。いちいち突っかかってやるなって」
「へえ。ていうか、なんであんたが知ってるのよ~。知ってるんだったら答えなさいよ」
「うるせ。聞かれなかったから答えなかっただけだ」
コホンとわざとらしく咳をするエレナ。
「それで、さっそくだが、購入することにした」
「はい。費用のほうは、もちろん俺が払います」
「うむ。ただ、使いこなせるかは未知だ。私も手伝おう」
「お、俺も! 俺も手伝うぜ、ハント!」
「お前はいい」
「あ…はい」
「ぷっ。怒られてやんの」
「こ、こいつっ!」
クロスは彼女の肩を殴る。
「いったあ。女性を殴るとかありえないんですけど?」
「お前を女性とは思ってねえよ」
「なんですと!?」
言い争いが激しくなる前に、サリーは口を開く。
「明日、私は城に行くわ。ここにはいないから」
「ああ。話は聞いている」
国の研究に協力とか言っていたが、それか。
「なにするのかわからないけど、がんばってね。サリーさん」
「ええ。ありがとう」
その後、午後の訓練に入った。午前中同様にペレットはいたが、顔を見るのがつらく、目を合わすことができなかった。というか、盾を持った走り込みばかりやっていて、ハントだけ別メニューだ。疎外感を感じるなというほうが無理だった。ランニングは騎士施設区域の外周を周るのだが、もう一方のBクラスも覗くことができた。訓練の進行具合としては、盾術の訓練に入っているようで、同じだ。Bクラスのカーチス指導員がいた。三十路のオヤジで、ごつい体を持つ男だ。エレナも厳しいが、カーチスもそれ以上に厳しいようだ。クロスがいた。盾術を使っているようで、防御円を形成している。
「あと三十分、耐えろ」
「く、くくく…」
防御円を維持し続ける訓練か。かなりきつそうだ。
クロスは走っているハントが目に入り、集中力が切れたのか、フッと防御円がなくなった。そこにすかさずカーチスが怒鳴り声を出す。
「クロスッ! 誰が防御を解けと言った!」
「は、はいっ! すみません!」
再び防御円を作り出す。あまり邪魔しないよう、少し離れたところに移動して走ることにした。
あれがカーチスか。エレナはドラゴンを倒したというが、カーチスはゴーレムや熊を倒したという。戦ったらどちらが強いのだろう。興味があった。
夜になり、地下室へと入った。夕食をとり、ちょっと休息していると、エレナから声がかかる。
「ハント。明日の朝には鎧が届くそうだ」
「ずいぶん早いんですね」
「マージョの宅急便を使ったからな」
それは配達する会社だ。魔女の配達員がいて、ほうきに乗って空を飛び、手紙や物を配達する。
「じゃあさっそく明日から、訓練ですね」
「そういうことだな」
漆黒の鎧を使った訓練。いったいどういう内容になるのかわからない。それゆえに不安のほうが大きかった。
「闇の魔法を操るつもり?」
「そうなるはずだ。サリー、なにか知ってるのか?」
「闇の魔法は扱いにくいわ。とても、ね。飲みこまれなければいいけど…」
「どういう意味だ?」
「闇魔法は危険ということよ。それ以上は体験しないとわからないと思うわ」
意味深なことを言うサリー。余計不安が大きくなった。
闇に飲まれる? 飲まれたらどうなるわけ?
「ハント。そばには私がいる。だから、なにがあっても大丈夫だ」
励ましてくれるエレナがありがたい。
「私、お風呂に入ってくるわ。明日、早いからね」
着替えを用意し、サリーは風呂場のほうへと歩き出した。部屋には二人きりになり、エレナの表情が甘えたものになる。
「ハント。こっちきて」
エレナはサリーのベッドに座り、ポンポンと敷布団を叩いた。
「そこは彼女のベッドじゃないか?」
「いーから、いーから」
「はあ…」
とか言いつつも不安大なので、人の温もりが恋しかった。エレナの隣に腰を下ろす。彼女は抱きしめてくれるかと思いきや、ギュッと手を握ってくれた。
「エレナ…」
「不安?」
「少しだけ…。闇に飲まれるってどういうことだろうなって思って」
「調べたんだけど、闇魔法は強力であるがゆえに、扱いが難しいらしいわ。サリーが言ってたことは本当よ。でも、それを乗り越えた先には闇の騎士ハントが誕生する」
「なんか、かっこいいなそれ。でも、闇の騎士なんて過去、いたのか?」
「昔、一人いたみたいよ。シャークって人だったかな」
「その人はもう亡くなってるのか?」
「残念ながら」
「そうか…」
もし生きていたのだとしたら、弟子入りしたいぐらいだったが。
「がんばろう。ね?」
「もちろんだ」
簡単にあきらめたりはしない。闇の騎士になって、エレナにふさわしい男になってみせる。
そして、次の日。
漆黒の鎧が騎士団に届いた。それはAクラスの前でお披露目される。
「これはハント専用の鎧だ」
「「「おおっ」」」
黒の鎧で、重そうだ。さっそく、ハントは体につける。
「どうだ? 重くないか?」
「平気です」
「魔法起動は胸の箇所を手で触れるらしい」
胸のところに星型の印が描かれているので、そこに触れた。急速に魔力が吸われて、思わず手を離す。ゾクッと寒気が走った。
なんだ今の魔力の吸いつきは。
「大丈夫か?」
「あ、はい…」
「よし。ハント以外は昨日の続き、防御円を維持するよう努めろ」
「「「はいっ」」」
みんな広場でバラバラになり、防御魔法を使う。
「もう一回、やってみるか?」
「はい…」
恐る恐る、もう一度触れる。今度は手を離さずに続けてみようと決意した。先ほどと同じように魔力を急激に失っていくのがわかる。それと同時に頭がクラクラし始めた。なにか着ている鎧から黒いオーラのようなものが出てきたところまでは視認できたのだが、それ以上続けることができず、手を離す。
「っ! はあ、はあ…」
立っていることも困難でしゃがみ込んだ。
「ハント」
「だ、大丈夫…」
こ、こんなにも魔力を要するのか? 扱う以前に、俺の魔力が持たないんだが…。
「続けられるか?」
これはまずい、と本能ではわかっていた。しかし、焦っていたのか、早く結果を出したかった。ハントは「はい」と答え、少し息を整えてから立ち上がる。
もう少しで、鎧術が発動しかけていた。もう少しだ…。
鎧の胸に手を当てる。
今度こそ…。
魔力が吸われていく中、苦痛に歪むハント。
離して、なるものかっ。
ウンッと変な異音が聞こえたまでは覚えている。ハントはそこで意識を失った。倒れる彼に、エレナの悲鳴に似た呼びかけが聞こえる。
「ハント! おいっ! しっかりしろ!」
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