ヒーローへの憧れ

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ヒーローへの憧れ

 この星には悪の怪人と正義のヒーローがいる。 


 とある少年はそのヒーローに憧れていた。パンチやキックの応酬、派手な必殺技。とても羨ましい。 

 少年はヒーローになりたかった。 

 

 だから彼は目指した、ヒーローを。 


 五年かかった。 

 五年間、ジムで身体を鍛え、ヒーローの司法試験に合格するための勉強もした。 


 そして少年は青年に成長し、ライセンスも取得して、晴れてヒーローになった。  


 今日は青年の初陣の日。 

 青年は先輩ヒーローと共に、怪人と戦うことになった。 

 新米ヒーローは、いきなり怪人と戦うのではなく、その部下のザコ敵と戦闘を行うことになっている。 


 五年間のトレーニングもあってか、青年は数人のザコ敵を一掃した。 


 そして彼は、一人のザコ敵を標的に。そいつに馬乗りになった。 

 彼は思いっきり、その敵を殴った。何度も何度も。敵の顔面を、骨を砕くほど強く。

 どんどんザコ敵の顔が整形されていく。どんどん原型が無くなっていく。


「も、もうやめて」

「いひひ、いひひひひひ!」 


 敵の降参も無視し、新米ヒーローは不気味に笑いながら殴り続ける。その笑い方は、とても正義のヒーローには見えなかった。 

 先輩ヒーローが彼を止めるまで、彼は殴り続けた。 


 青年が、いや少年がヒーローに憧れたのは、平和を守りたいからでも、正義を貫きたいからでも、悪に家族を殺された復讐でもない。 

 彼は、相手は誰でもいいから、暴力を振るいたかったのだ。誰かを、蹴り、殴りたかったのだ。 


 だが、無闇に暴力を行うと犯罪者になってしまう。彼は人を殴りはしたいが、犯罪者になるのは御免だった。

 

 だから少年はヒーローを志したのだ。相手が悪の怪人なら、遠慮なく暴力を奮えるからだ。 


 この事件をきっかけに、適正に問題があると判断された青年は、ヒーロー免許を剥奪された。  


 殴る味を占めた青年が、悪に寝返ってバッドヒーローとなり、先輩ヒーローに倒されるのは、もう少し未来の話。

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