ステージ1-4


 ロケテスト最終日――会場には、想定外の来客があったのである。それが、まさかの襲撃者とは誰も予想していないだろう。

「ロケテストにしては、派手な演出だな」

「あれが演出なのか?」

「ARゲームは基本的にゲームであり、建造物等には影響を与えないと聞く」

 周囲のギャラリーは襲撃者が出現しても落ち着いているようだ。逆にスタッフから慌てないようにと放送があったのかもしれない。

 襲撃者が何なのか理解できず、SNSで悪意ある拡散を行おうと言う人物が何人か存在したが、そのほとんどは超有名アイドル以外をコンテンツとは認めない勢力であり――。

 ロケテストの情報が拡散した原因は、一部の悪意あるユーザーである事が判明したのは――襲撃者が現れた辺りだろう。

 襲撃者に関してはARメット等に代表されるARゲーム用のガジェットを使用しないと、その姿を見る事が出来ない。

 例外として動画サイトにアップされている動画が該当するのだが、本来であればパワードこれくしょんの動画は拡散されていないはず。

 襲撃者をARバイザー等でないと確認不可能と言う事を逆手にとり、そこに適当なイラストやCGなどに差し替えれば――ネット炎上専用の雑コラが出来上がりである。

『こういう事だったのか』

 鹿沼零(かぬま・れい)はロケテストの運営本部まで出向き、その映像を見て何かの違いを感じていた。

 ネット上に拡散している画像とロケテスト中の画像では明らかに違う物が写り込んでいるのである。

 それに加えて、雑コラ画像を扱っているまとめサイトの記事では、大抵が――。

【ARゲームよりも、芸能事務所Aのアイドルグッズを購入しよう!】

【CDランキングの独占を目指して、芸能事務所JのCDを購入しよう】

 明らかに何かのキャンペーンと言うか、芸能事務所A及びJへお金を集中させようと言う展開である。

 そう言えば、週刊誌で該当の芸能事務所の税収が大きくなったのをきっかけに、芸能事務所側に有利な法案を――と言う話もあった。

『あからさまに――炎上マーケティングのテンプレじゃないのか』

 鹿沼のタブレット端末を持つ手が震えていたのだが、それにスタッフが気づく事はなかった。



 午後3時頃、報道バラエティーでも草加市の一件が触れられるような展開になっている。

 その理由はまとめサイトの記事に影響を受けた物と思われるが、それ以上に――。

『臨時ニュースをお伝えします。先ほど、芸能事務所Aに警察の強制捜査が――』

 男性ニュースキャスターが淡々と伝えていた物、それは芸能事務所Aに強制捜査が入った事である。

 これにはネット上でも予想外と言う話があるのだが――こうなった事には何の理由があるのか?

【芸能事務所Aの単独犯行なのか? 一連のコンテンツ炎上事件は】

【炎上マーケティングで、超有名アイドル以外をかませ犬にしてきた罪は許される者ではない】

【更に、国会を利用して様々な隠れ蓑とも言える法案を通し、遂には――】

 ネット上には様々な発言があったのだが、その一部は削除されている物もあった。

 一体、その文章は何を意味していたのか――それを知る手段はなくなってしまっている。

「これは、迂闊にロケテストへ足を運べば、マスコミにたたかれるパターンなのか」

 若干出遅れた漢字のするガーベラはロケテストの様子だけでも見る為に現場へ立ち寄ったが、人ごみに混ざるマスコミの姿を見て――すぐに立ち去ってしまった。

 彼女が実際にゲームに触れたのは、最初を含めて数回程度と言える。

「これが――逆に貴重な体験だったのかもしれない。思い出は大切にしていくべきか」

 会場のパニックが落ち着いたのは午後3時40分頃だったのだが、その頃にはガーベラの姿はなかったと言う。



 午後4時にはロケテが終了し、片付け作業が行われていた。

 ゲーセンのロケテストの場合は午後10時くらいまで行われているケースがあるのだが、これはARゲームである。

 さすがに交通渋滞が起きそうな時間まで道路を独占するのも――という事情があった。

「結局、あの事件は何だったのでしょうか」

「分からない。単純にコンテンツ炎上を考えている物であれば――」

「芸能事務所が警察の強制捜査を受けたと聞く。その関係で撤収が早まったのだろう」

「残念ですね。せっかくのARロボゲーでも希少な操作方法なのに」

「ロボゲーはゲーセンでも、まだまだ現役のジャンルだ。ARゲームではなくても、プレイできる機種はあるさ」

 撤収作業をするスタッフも今回の対応に無念さを見せるスタッフもいるのだが――。

 この光景を見て鹿沼は何かを思っていた。

 芸能事務所の介入だけで終了してしまうコンテンツが出てきてしまっては――また、炎上マーケティングを繰り返すのだろう。

 何としてもARゲームが市民権を得て、超有名アイドルの様な一部投資家のみが投資をするような拝金主義的なものではない――新たなクールジャパンを生み出す事が必要なのかもしれない。



 ロケテストが終了して2週間後、パワードこれくしょんがアーケードゲームに進出する事になったが、ARゲームではなく普通のアーケード機種としてのリリースだった。

 やはりARゲームにするのは難しかったのか――と言う訳ではない。ARゲームでロボットゲームをするには、様々な課題が多かったと言うのが理由の一つだと言う。

 道路の使用許可、建造物に対する影響――夜間の騒音問題等、まるで有名アーティストのゲリラライブでもやるかのような展開だ。

 こうした許可を全て取ったとして、利益が出るのか――という結果として、普通のアーケードゲームになったのが結論なのだろう。

『ARゲームでロボットゲームをプレイできるような環境は――まだ先と言う事か』

 鹿沼は思った。新たなARゲームを生み出す為にも、今回の失敗は次回作の成功を生み出す為の糧になるのだ、と。

 そして、ロケテストだけで消えてしまったゲームも数多くある。

 それを踏まえれば、パワードこれくしょんのアーケード版は、まだ運がよかったのかもしれない。

『次のプロジェクトは、どうするべきか――』

 鹿沼が準備している次のプロジェクト、それはロボット物とは若干異なるかもしれない。

 しかし、様々な問題を何とか解決できるであろう範囲でフィールドなども準備しており、今度は――。


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