第2章 本当の事
「え……?……ど、どうやって、と言われても…走っていたらここに…」
ありのまま話すと翔さんが血相を変えて
「何を願った!何を願ってここに来た!?」
と大声で叫んだので少し怯んで、
「なんでわかったんですか……?願い事があるって……」
「良いから!!!早く!」
「見つけて欲しい……と…」
そう、私は…“トウメイニンゲン”誰からも見つけてもらえない、存在する意味の無い、世界に居ても居なくても全く変わることはない…そんな…
『見つける…?…見つけるも何も……お前は、そこに、居るじゃないか。』
半ば疑問系にも聞こえたその言葉。その言葉を私は…ずっとっ……!…
私の欲しかった、ずっとずっと……望んでいた…“居る“────“存在している”の言葉……一度は消えて、完全に無くなってしまった
「おい…どうした?…大丈夫か……?」
「これっ!どうぞっ!」
心配そうに翔さんが駆け寄って来て、巡さんがハンカチを持ってきてくれた…
“大丈夫です─”
言いたいのに、言葉が出なかった…ただただ、泣き崩れることしか出来なかった……嬉しいのに、ありがとうを言いたいのに…言葉が、泡になって、涙に溶けて、消えてしまったかの様に…
私が泣き止むまで翔さんが側に居てくれて、やっと落ち着いたら、優しい口調で、
「お前の願いは、本当にそれだけか?」
と言った。
これだけ。これだけが私の願い。独りぼっちだったこの世界から、救いだして欲しかった。これ以上、望むものなんて……
「気付いていない…か……」
翔さんが呟く。耳が良い私には、そんな小さな言葉も聞こえてしまう。
「気付いていない……?それって……?」
「聞こえたのか…」
「そのままの意だよ。お客さんには、この他に、願いがあるでしょう?もっと…………“大切なモノ”を犠牲にしてでも、欲しい…“何か”が……」
巡さんが気味の悪い笑みを浮かべて言う。
「巡……少し黙っていろ…」
腹立たしげに翔さんが巡さんを鋭い目付きで睨んで言うと
「だって本当の事だろう?じゃなきゃ今頃…」
「黙れと言っているっ!!!!!」
おどけた調子で返す巡さんの言葉を遮って翔さんが怒鳴る。
「………あぁ、驚かせてしまったか…悪かったな。」
「いえ…!大丈夫ですよ…?」
「はいはーい。今から敬語とさん付け今から禁止ね!鬱陶しいからさぁ~。僕も、もうお客さん呼びしないしっ!ねっ?澪ちゃんっ?」
「そうだな…もう客人とは言えんしな……」
「ど、どういう………?」
「澪ちゃんはさっきまではお客さんだったんだ。そう…さっきまではね……」
ニヤリと笑う巡さ……巡の顔は、まるで、甘い誘いに人を乗せる、悪魔のような笑みだった。
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