第21話 『最終回』
宇宙空間での、壮絶な撃ち合いが、始まりました。
地球の周囲を取り囲む『火星連合』の小型U.F.Oは、わたくしの乗った宇宙警部さ
んを遠慮なく攻撃しておりますが、効果は全くありません。
こちらの、『超小型球体』は、バンバン相手を破壊していますが、相手は、どん
どん補充されるのでキリがありません。
札幌(地球)の警部さんが乗っている、アニーさんと呼ばれる『自動車』は、お
かまいなしに『火星連合』を攻撃していますが、なぜか相手はアニーさんを攻撃し
ません。
それでも、わたくしたちは、その細かい相手を押しのけながら、月の裏側に近づ
いてゆきました。
ところがそこに、もうひとつ、大きな『宇宙船』が地球から上がってきたので
す。
まるで、亀さんの様な宇宙船でした。
「まあ、あれは、なんでしょうか?」
「ううん・・・・・いやあ、情報がないなあ・・・」
『宇宙警部2050』さんが言いました。
***** *****
「あれは、なんだい、アニーさん?」
亀形宇宙船を、やはり眺めながら地球の警部さんが尋ねました。
「ああ、あれはですね、『地球秘密政府』の偉い方と、天才とか再優秀な若者たち
とかを乗せた、まあ、現代版『ノアの箱舟』というやつですよ。」
「なんと、そんなもの、いつどこで作った?」
「まあ、けっこう30年くらい前から南極の地下で作ってたんですよ。技術は、女
王様が提供しました。」
「はあ?・??・・? そりゃあまた、なんで?」
「地球の危機になって、真っ先に脱出する方々ですからね。それはそれで、その意
思は尊重されるべきでしょう。この先地球は、女王さまの手に落ちるからね。あな
たもどうですか?」
「冗談じゃない。断る。地球の指導者は全部乗ったのか?」
「いいえ、違います。拒否した人もいますし、拒否した天才たちもたくさんいます
よ。まあ、苦しい選択だったでしょう。アニーは、どっちが正しいと言う判断はで
きないと判断します。」
「ううん・・・まあ、才能は確かに保護したいが、政治家や高官は話しが違うだろ
う。船長が先に逃げてどうするの?」
「そこは、考え方ですよ。船長がいない船で逃げて、どうするのですか?」
「いやあ・・・・むむむ。そういうややこしい事は、わからん! くそ!」
***** *****
わたくしは、複雑な気持ちで、この『宇宙戦争』を眺めておりました。
『亀形宇宙船』は、非常に頑丈らしくて、『火星連合』の攻撃にも、しっかりと
耐えていました。
そうして、徐々に、月とは反対方向に離れてゆきます。
やがて、激しい攻撃が、地球上にも降りそそぐようになりました。
「あああ、都市が燃えてるんじゃないかしら?」
***** *****
「被害が相当、出始めてますな。早くかたを付けましょう。」
宇宙警部さんの宇宙船は、速度を速めて、月の裏側に急ぎました。
すると、出ました!
出たのです。
でっかい『宇宙船』です。
それも、多数。
長い戦艦みたいな感じのもので、でも、とてつもない大きさのようでした。
「ざっと、20キロ近く、差し渡しありますな。まあ、大きさならこっちは無限で
すがね。ちょっとやって見せましょう。」
すると、『2050』さんの球体が、どんどん膨らんで行きました。
その周囲の、ほんわかとした霞んだ様な領域に接触した『火星連合』の宇宙船
は、どんどん消えてしまいます。
「うわあ・・・すごいわ・・」
「まあね。無敵ですから。」
「無敵・・・ですか・・」
「ええ。ただし、いままでは、そうだった、ということですよ。」
宇宙警部さんは、少し、謎かけをしたのです。
そうなのです。
そのとき、さらにまた、地球から、一気に上がってきたものがありました。
非常に小さなものです。
そう、『わたくし』の、『ペンダント』です。
小さいので、かなり接近して、はじめて宇宙警部さんは気が付きました。
「む。なんだ、こいつは。あららら、『境界領域』に掛からない。そんな物質はな
いはずだ。くそ・・・やはり、とうとう来たか。」
そうなのです。
わたくしの『ペンダント』が来たのです。
私自身が。
それは、『境界領域』の反物質の範囲も問題なく通過し、やがて『球体宇宙船』
本体の完全否反応物質も難なく通過しました。
そうして、いまや、わたくしの胸に収まったのです。
私の人間としての肉体は昇華し、この世のものでは、もはやありません。
その精神も、遥かに浄化されました。
「警部さん、よくぞ、ここまで頑張ったのう。しかし、これで、このお遊びも終わ
りじゃ。いささか、被害を出し過ぎたかのう。ほほほ‼」
わたくしは、申しました。
そう、わたくしこそ「女王様」なのです。
これらの、面前のすべての存在は、わたくしにとっては、問題にもなりません。
「まず、地球人が作った『亀さん宇宙船』は、別の宇宙に飛ばしてしまいましょ
うね。」
彼らは、消えました。
もう永遠に、この宇宙には帰ってきません。
「アニーさん、よくやりました。その警部さんは、まだ役に立つから、わたくしの
仮の夫としましょう。そなたの精神を収容します。」
「なにを、言ってるの、あなたは・・・・・はい! はは! 女王様。かしこまり
ました! すべてあなたに、お従いいたします。」
地球の警部さんが、途中からわたくしに対して、最敬礼になりました。
「それで、よいのじゃ。」
わたくしは、満足しました。
「で、『火星連合』の皆さんも、ながらくよく頑張りましたが、もう、用がござい
ません。消えなさい!」
わたくしが、そう指示すると、あれだけいた『火星連合』さんたちの宇宙船は、
すべて消え去りました。
この際、月の裏側も、もちろん奇麗に、お掃除いたしました。
「それから、柿子さん、そうして、あなた、長い間よく勤めてくれました。あなた
がたが、人間のエキスをたくさん集めてきてくれたので、わしはお腹もすかず、よ
い環境で暮らしました。あなたがたは、その、残りもの、での生活で、苦労させま
したのう。このペンダントとか柿の木のアイディアは、ちょっとおもしろかった
じゃろう? あまり意味はなかったけれど。よいゲームになったのじゃからのう。
まあ、これからは、どちらかの国の、首相か国王か大統領でもすればよいのじゃか
ら・・・・・・・・・・。
で、さて、そなたは、もう宇宙に、お帰りなさいな。ここでは・・・、そなた
は、少し力があり過ぎじゃ。それとも、わしに従うかのう? それも、よいぞ。」
「断る。」
宇宙警部さんは、あっさりといいました。
「ふん、まあ、そうじゃろうのう。では、消えるがよい、わしは、わしのこの、地
球に帰る。手出し無用じゃ。」
わたくしは、『球体宇宙船』から自らの力で、なんなく脱出いたしました。
なんで、こんな簡単な事が、これまで出来なかったのでしょう。
宇宙警部さんは、その後、宇宙の彼方に帰って行きました。
******* *******
しかし、遥かな別の時間の後、彼らはまた、遠い遠い他所の宇宙で、ほかの『地
球人』や、わたくし『女王様』と関わることになるのですが、それは、また別のお
話しで。
え?
それから、わたくしは、どうなったのか、ですか?
もちろん、わたくしは、その後、地球を完璧に支配し、戦争も、あらゆる差別も
不平等もない、豊かで平和な世界を築いたのです。
すべての人類は、わたくのもとに、永遠にひれ伏したのですから。
それはもう、人類が経験した事もない、素晴らしい世界だったのです。
ただし、毎週いくらかの、人間のエキスは必要でしたが、戦いや喧嘩で亡くなる
ような人類は、もう出ませんでしたから。
***** *****
やがて、太陽が膨張し、人類も静かに滅亡したとき、わたくしは、この、懐かし
い地球を去りました。
おしまい・・・・・・・
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続 隣のかきはよく客喰うかきです やましん(テンパー) @yamashin-2
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