Chapter2-Ep.1 入学編「新しい季節、新しい出会い」

「遅い…このままでは遅刻確定だな。」

現在地、集合予定場所。駅前の銅像前。時刻は7:50。今日は入学式である。そして私は新入代表で、待ち合わせの相手は新入生副代表!つまりは、入学式で前に出て喋らせられるアレだ。蛇足だが、他校の事情は知らないが我が校は入試の成績で新入生代表を決める。入学式自体は9時30分からなのだが私こと暁司狼と、待ち合わせ相手こと結城梓は打ち合わせも有る為8時に学校集合だ。止めを刺すとこの場所から“普通に”急いでも15分は掛かる。詰まる所、チェックだ。とそこへ、駅の改札から明るく陽気で今までの全てのネガティブな気持ちを洗い流すような心地よい声が聞こえてくる。


「しー君ごっめーん!待った?待ったよね?怒ってる?怒ってるよね?どうしよう!」

待った、怒った、どうしようもないと答える訳にもいかず待ち人が30分遅れでやって来たにも拘らず私は、

「梓、おはよう。今来た、怒ってない。どうしようもない。後、その呼び方やめろ。」

そして続けて、

「梓、時間がない。あっちの物陰に行くぞ。」


「え、しー君!!ちょ、ちょっとまだ心の準備が…いや、嫌って訳じゃないけど…」

何やら、頬を赤らめている。何を如何勘違いしたらそうなるのか。


「梓、よく聞け。時間がない。防犯カメラなら後で如何にでも出来る。ただ、この力を衆人環境で使うのは避けたい。」


「え・・・・え!?まさか、そっち⁉駄目だよ!魔法使用に関する規則と評議会の議決に反するよ!」


そっちってどっちか分からないが今はそれどころではない。


「梓よ、繰り返す。もうこうしてる間に5分を切った。行くぞ。」

そうして、司狼は梓の手首を掴み物陰に隠れた。


「しー君、どうなっても知らないからね!」


「大丈夫。問題ないよ。」

そして、この世界の選ばれた者にしか使えない特別な力。


生まれたときに、決められる「持つ者」と「持たざる者」それが「魔法」である。


「転移魔導式シークエンス!ジェネレード!」




そして、次の瞬間。二人がいたのは校門の前だった。そして時間は7時58分、ギリギリセーフと言えよう。俺が梓に声を掛けようとした瞬間。


「これはこれは、時間ぎりぎりにやってきたと思ったら初っ端やらかしてくれるな。新入生代表さんと副代表君。早速、風紀委員会送りにされたいのか。」


声を掛けてきた男を見ると制服には学生自治会のピンバッチ。間違いない、彼は久城零獄だ。久城は近年低迷していた学生自治会を一代で立て直した。現在では白虎学園の全校生徒の3割が入会している。反生徒会、反若虎会を明確にしている。蛇足ながら、こいつの父は俺の命令で粛清した。


「失礼しました。久城学生自治会議長・・・いや、支部長といった方が宜しいですかね?」


「冥煉新入生代表、貴様どこまで知っている?何を勘違いしているかは知らんが、許可のない魔法の使用は懲罰ものだぞ。解っているのか?」


「勘違いしていらっしゃるのはそちらかと。評議会の議決を基にした魔法使用規則は“大衆に影響を及ぼす”魔法の使用を制限するもの。確かに、転移術式とは大衆の目を引くと言う意味では大衆に影響を及ぼしますが、3年前の司法判断で転移術式は大衆が…具体的には数十人規模に影響されたと認定されない限り問題なくなりました。そして、現在時点で大衆に影響を及ぼしたと思われる証拠は一切有りません。なにか、ご反論はおありですか。」


久城に、そう反論して梓の方に顔を向けて

「そういう事だから問題ないんだよ、梓。物陰に隠れたのも後ろめたいからではなく単にそう言う事だ。俺たちが時間ぎりぎりになった所為で永遠の反抗k、いや久城先輩が迎えに来る羽目になった。一言謝り、会場に行こう。」


梓が困り果てて口をゴモゴモしていると、久城が憤怒の表情で口を開けた。


「貴様、入学式ではなく病院に行きたいなら始めにいいたまえ。色々、君は知り過ぎた様だしな。」そう言いながら久城が指輪型のマジックツールを見せつける。


「久城先輩、申し訳ありません!この人、言葉を選ばないから昔からよく揉めるんです!」

梓が、間に入ってきた。然し状況はさらに悪化する。


「君が新入生副代表の結城梓さんか。ふん、軍部最高レベルの令嬢か…体制の犬は黙ってくれ。」


「…え」

梓が突然の言葉に絶句した。絶句せるを得ない。我が、腐れ縁の梓に喧嘩売るか。そうか。であれば、容赦はせん。


「梓、気にするな。世界は広い。こう言う人の様な馬鹿が何を言おうと、梓の評価には何の関係もない。風のさざめき、虫の囀り、とでも思っておけ。そして、この風のさざめきは俺が潰しておく。」


「はっ!この久城零獄も舐められたものだ!戦闘力であれば学園五指であるこの僕を!」


「久城学生自治会議長、冥煉司狼新入生代表!いい加減にしなさい!」


新しい声が入ってきた。声の方向を見るとツインテの少女が居た。隣のは灰色の髪の男と後ろに筆頭に十人くらいわらわら居た。そして、続けて灰色髪の男が口を開く。


「結城梓さん、初めまして。俺は内部監査機構若虎会の主長エドワード・ローゼンバーグ・エインズワース。彼女は本校生徒会会長の三笠朝伽だ。さて、久城さん。朝っぱらか新入生いびりかい?さあ、時間も押している。戻りましょう。そして、冥煉くん。君も年上に方には一応敬意を。んじゃ、講堂に戻ろう。」


「ちょっと、エドワード君。私のセリフまで奪わないでくれる?さあ、皆戻るわよ。」そう言って、踵を返した。久城も、


「ちっ、あまり調子に乗るなよ。ルーキーが!」

憤怒の表情のままテンプレの様なセリフをはいて踵を返した。


梓はずっと石像のように固まっていたがホッとした様な顔で、

「もう、しー君!自分からトラブルに巻き込まれないでよ‼早く、先輩たちについていくよ。」

そう言って、司狼の手を引く。


「いや、梓。待ってくれ。あの野郎は締めないと気が済まない。」

俺は多少、口答えした。しかし、答えは返ってこなかった…


校門の入った所に一人残っていた、灰色髪の男ことエドワードが梓に手を引かれた俺に声を掛けてきた。


「久しぶりだな、司狼。柩さんが、来賓と聞いてもしやと思ったが水臭いではないか!」


「エド…君がいるから、言いたくなかったんだ。して、アナスタシアさんは何処いる?」


「あぁ、王子様なら会場にいるよ。さて、ここで言うのは本当はルール違反なんだけどさ…」


「で有ればら今言わなくて結構。行きますよ。エドも、最初から見てたくせに人の悪い事で。」


「ははは!面白い事を言う。俺が人!はははは!まぁ、確かにそうだ!ルール違反は駄目だな!」


ちっ、しくじった。エドは確かに人ではない。人狼だ。


「さぁ結城君、そして司狼!ようこそ!白虎学園へ!ようこそ、日常の中の非日常へ!」


エドはそう、宣言の如く言い切るとスッと踵を返し体育館へ向かった。


梓は、まだ不機嫌そうだがこの位だと下校時にパフェの一つ奢れば何とかなりそうだ。


そして、エドの言った通りこれからの日常があんなに荒れるとは誰も思いやしなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ある青年が救った世界の物語 ☺環境依存☺ @sumera

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ