7.そして旅が呼ぶ

さくさく、と足が砂を踏む。

熱いのか寒いのか空気の感覚はほとんど意識に上らない。


『 ― これ、どこまで来た? 』


最初に思い描いていた地図を反芻する速度が、徐々に鈍くなっていく。


水分補給が必要なのか、何がクラクラと思考回路を停止させてくるのかわからないが

急に視界が開けたと思ったら、水滴が見えた。


砂漠に、水。


水滴の中に飛び込んでしまうかのような感覚を覚えて、砂に落ちたはずの水が立てようもない、ぴちゃん、といった音で意識が覚醒した。



「 …あ、これが白昼夢か…」


砂に落ちた水滴の音が、耳に潤いを残していた。



息をはきながら、いつもの癖で顔を手で撫でる。


「 ……… 。」


なんとなく嫌な空気だ。


空気の入れ替えを図ろうと、窓を開けたら無意識に手元に寄せていたマッチ箱が落ちて、中身が散らばった。



「 …サイアクだ。 」


明日からしばらく旅に出る予定だ。


落ちたマッチを箱に収める。

あと少しで手が届く場所に、なくしたと思っていた手帳が落ちていた。


白昼夢のけだるさから抜け出せない体のままで手帳を開いた。


『 空白 』


何も書いてない。

一度も使っていない手帳。

必要だと思って購入したものの、何も書くことが思い浮かばなかったものだ。


投げるようにして、手帳はまた元の場所に収まった。

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