暑い日に歩く岸和田
岸和田と言えばだんじりでしょう。
それはもう等号で結んじゃってもいいほどにきっぱりとだんじりです。
ずっとそう思ってきましたが、このたび確信いたしました。これは少々暑い初夏の日に、ちょっぴり歩いた岸和田のお話です。
なみはやホールという劇場を、恥ずかしながら知りませんでした。
このシリーズではぽろぽろこぼしておりますが、私は生まれも育ちもぎりぎり大阪市内という淀川の北側の人間です。この淀川の北の、特に阪急沿線の人間は、何事も阪急の沿線内で済ませようという傾向があります。平たく言えば私にとって繁華街と言えば梅田の事で、天王寺あたりは年にニ回か三回行く程度、もしかしたら京都の方がよく買い物に行くかもしれない、という生活をしているのです。
そんな私にとって岸和田はテレビでだけ見る未知の場所、行ったことのある月島の方がよっぽど身近な場所でした。
その未知なる岸和田に出かけることになったのは、ツレの一人の発表会に起因します。その日偶々私はヒマで、ツレは私が行くのを猛烈に嫌がっていました。それなら知らせなければいいようなものだと思われるでしょうが、知ってしまったものは仕方がありません。
そこで私は初めて未知なる「なみはやホール」を検索する事になりました。
なみはやホールは南海電車の岸和田駅から商店街を抜け、しばらく歩いたところにあります。
南海電車自体ほとんど乗ったことのない私は、一々スマホで確認しながらおっかなびっくり乗り換えました。
特急券の販売機が珍しく、とても面白く感じます。恥ずかしながら今までの人生で特急券らしき物を買ったのは、新幹線の乗車券くらいなものです。普段使う阪急も、そこそこ使う大阪メトロも、特急券自体が存在していません。JRだって乗るのはほぼほぼ環状線で、特急券の出番はないのです。
そんな不安いっぱいの道行きでしたが、なんとか岸和田の駅にはたどり着きました。
本人がきて欲しがらない発表会に、なぜそこまでして行くのかと思われるかもしれませんが、私にもひけない時があるのです。
スマホが示しているところでは道は難しくはありません。あとはただ進むだけです。
始めて岸和田駅前の商店街を歩きました。
最も感銘を受けたのはおもちゃ屋さんです。
店先には木で作られただんじりのおもちゃの大小が飾られ、さらには空気でふくらませるタイプのだんじりまで売られています。
奈良などに行くとよく、空気でふくらませた鹿の足に車輪をつけ、子供が引っ張れるようにしたおもちゃを見かけますが、あれのだんじりバージョンと思えばわかりやすいかと思います。幼いころからこうやってだんじりを引き、岸和田人としての誇りを育てると言うことなのでしょう。
この日は結構暑くなりつつある6月の日で、アーケードのある商店街を抜けると、道行く人が日傘や扇を使っているのをたくさん見かけました。
幸いにも商店街を抜けても道は歩きやすく、しかも人通りは途切れません。ただ、日傘をさすのにふさわしい日差しは十分に強烈で、日差し対策になるものを持たなかった事には後悔しました。
その道沿いのそこここにも、だんじりは姿を表します。
ポスターは当たり前。
シャッターや壁に描かれているのもそう珍しくはありません。
何種類ものだんじりを描き分け、どのだんじりであるかを一々記してある壁画など、もしかしたら子供がこの壁で各だんじりを覚えるのではないかというほどに丁寧です。
私の住む近所に天神祭で有名な天神橋筋がありますが、「日本一長い」とうたう天神橋筋商店街でもお神輿や船渡御のおもちゃを見た記憶はありません。あの独特の祭り囃子に合わせて踊ることのできる子供も、そう多くはないでしょう。少なくとも私には無理です。
京都でなら山鉾のミニチュアを見たことがありますが、華奢で精巧なミニチュアはどう見ても大人向けでした。
岸和田の町を上げてのだんじりへのこだわりにはつくづく感銘をうけました。
だんじりのおもちゃを引いて遊び、だんじりの壁画を見てだんじりを覚え、祭りの盛り上がりを毎年見て育つ子供が、だんじりを愛する熱い大人へと進化を遂げるのは、まさに必然の成り行きだろうと納得できます。
毎年ニュースを賑やかす熱い祭りは、一朝一夕では育み得ないものなのです。
ここまで書いて下書きのままになっておりましたが、あえてこのまま掲載いたします。
この体験は今から三年前の事になりますが、この時たった二年後に多くの祭りを自粛させる疫病神が到来するとは思ってもおりませんでした。
どう考えてもマスクをつけては熱中症が心配される熱い祭りはもちろんのこと、このご時世に一部の神事以外を自粛した多くのお祭りが、早く本来の姿を取り戻せますように。
お散歩のススメ 真夜中 緒 @mayonaka-hajime
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