ある金貸し屋の事務所。肥えた男と華奢な女、正装を着崩している顎の尖った男
「それで、何の用だ?」
「ささ、三十万ある。ここ、これを、彼女の借金返済に当ててくれ」
「急に仕事辞めたってのは、こういう事か?」
「お世話になったのに、すみません」
「良いさ、金さえちゃんと返してくれれば何をしてようがな。姿を消さなかっただけ大分マシだ。それで、お前、この金はどこで手に入れた? 借金の返済に他の金貸しで金を借りてちゃ、意味ねぇぞ」
「はは、働いて、貯めた金だ」
「そんなに気を張るな、別に殴り掛かったりはしない。それで、どこで働いている?」
「そそ、それは……いい、いや、なな、なんであんたに、そんな事を教えないといけないんだ」
「確かに関係ねぇな。お前の借金じゃあるめぇし。ただこの娘の仕事を辞めさせて、どうやって金を返し続ける気だ? 負担になったから捨てましたじゃ、笑えねぇぞ」
「ああ、あんな仕事、彼女に続けさせる訳無いじゃないかっ。ぼぼ、僕が働いて、ひゃんと返してみせるよ」
「おい……あんな仕事ってのは、娼婦の事か? あんまりふざけた事を言うもんじゃないぞ。お前がこの娘と出会ったのも娼館で、この娘が一人で頑張ってたのも娼館だ。見下しているのか? じゃあなんだ、お前はこの娘も見下しているってことか?」
「ちちち、違うっ……そういう意味で言ったんじゃ……でも、大切な人を……言葉は、悪かったかもしれないけど……でも……彼女を、あういう場所で働かせるのは、嫌なんだ……その」
「いやっ、ハハハハっ、悪かった。その言葉を聞けただけで十分だ。お前は正しいさ。少し鎌を掛けただけだ。連れ合いを娼館で働かす男なんざ、最低最悪だ。この仕事やってりゃ、たくさん居るんだよ。悪かったな」
「いや、あの、僕の方こそ、すみませんでした」
「この金は責任もって預からせて貰う。この娘は良い子だ。引っ張っていくなら、お前も責任を持て」
「はは、はい。しし、幸せにします」
「良い心構えだ。じゃあ、また来月に会おう」
「はは、はい、よろしくお願いします」
「金をちゃんと返してくれれば、立派なお客様だ。こちらこそ、よろしくお願いします」
「じゃじゃ、じゃあ、帰ります」
「ああっ、ちょっと待て」
「はははは、はいっ、何でしょうか?」
「祝儀だ、五万減らしてやる。俺に出来るのはこれが限界だ。借金は後三十五万だ。頑張れよ。その娘をよろしく頼む」
「あああ、ありがとう、ごじゃいます」
「ありがとう、ございます」
「泣くな、今度会い辛くなる。別に良い。まぁ、幸せにな」
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