ある売春宿の一室。腹の肉が邪魔で屈めない男と、華奢な女





「いつもありがとうございます、お客様」


「そそそ、その、えっと、ひひ、久しぶりですね」


「えぇ、そうですね。寂しかったんですから」


「それで、ああ、あの、今日は、ちょっと、お話がしたくて、来たんだけど」


「はい、何でもお話ください」


「えっと、あの、僕は、凄く太ってて、本当に醜いと思うんだ」


「そんな、お客様は凄くお優しくて、誰よりも逞しいわ。私はいつも甘えさせて貰ってるもの」 


「うう、嘘でも、その、嬉しいんだけど、今日は、その、お店に来てて、言うのも変なんだけど、ちょっと、ちゃんと、聞いて欲しい事があるんだ」


「私で良ければ、いくらでもお聞きしますよ」


「きき、君じゃなぎゃ……君じゃなきゃ、駄目なんだけど、えぇと、その、あぁ、ごめんなさい」


「どうして謝るのですか? 今はお客様が楽しむ時間なのですから、絶対に謝ったりしないで下さい」


「君は、とても優しい」


「私の言葉ですよ。私はお客様に会えることを、いつも楽しみにしてるんですから」


「…………そ、それで、あの、ちょっと、聞いて欲しいんだけど……えっと、僕は、太ってて、本当に……あぁ、これはさっき言ったヤツだった。ごめん」


「お客様っ」


「ごご、ごめ……分かってる、もう謝ったりしないよ」


「落ち着いて下さい。背中を撫でますから」


「あり、がとう。でも、今はいいから、僕の話を聞いて欲しい。ちゅんと……ちゃんと、話すから」


「分かりました。私もちゃんとお聞きします」


「えぇと、最近、ずっと考えてた。その、君の事を。それで、ずっと考えたんだけど、僕は、頭の中にも、肉が詰まってるみたいで……兄さん達にも良く言われるんだ。いや、そうじゃなくて……いくら考えても、僕は馬鹿だから、その、全然良い方法が思いつかなくて、もしかしたら、最低って、思われるかもしれないけど……その、一つだけ、訊いて良いかな?」


「はい……いくらでもお聞き下さい」


「どうして、この仕事を、してるんだい?」


「えっと…………それは……」


「こここ、答えたく無かったら、良いんだ。変な事訊いて、ごめん」


「たっ、楽しいから。色んな人に会えますし、今だって、ここで働いてるから、お客様に会えたんですもの」


「う、うん……それなら、良いんだけど……じゃ、じゃあ、これは、僕が勝手にやってる事だから、きき、君は、全然気にしないで、受け取って欲しいんだけど……あの、勝手に、もしかしたら、お金に困って、こういう仕事をやってるんだと思って、三十万、持ってきたんだ。そそそ、それで、これを、君に、受け取って欲しい」


「どうして……私にお金を持ってくるの?」


「すすす、好きだから、そそそ、その、別に、このお金で、君を、手に入れたいとか、そういう事じゃ無くて、きょきょ、今日は、その、気持ちを伝えたくて、だけど、僕みたいなヤツに、好きと言われても、気分悪いだろうから、その、だから、このお金で、話しを聞いて欲しかっただけで、だから」


「受け取れないわ」


「良いんだ、これは、その、当たり前に、僕は断られるって分かってたし、だから、断られても、お金だけは、渡そうと思って、だから、このお金は、君の好きなように、使ってくれて、構わないから」


「受け取れ……ないの」


「あぁ、ごめんよ、泣かないでおくれ。違うんだ。初めて、人を好きになって、どうしたら良いか分からなくて、傷つけるつもりはなかったんだ。僕は、もう帰るから。余計な事をしてすまなかった。お金は、置いていくから、本当に、好きなように使っていいから。僕は……もう来ないから。本当にごめん」


「受け取れないって言ってるのっ」


「本当にごめん。だ、だけど……捨てても構わないから。ごめん。もう、僕は来ないから」


「待ってっ、違うのっ、駄目よっ、私は」


「もう……僕は来ないから」


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