あるボロくはない質素な部屋。肥えた男と破水した妊婦、そして魔女



「どどど、どうすれば良いんですか? 魔女子さん」


「五月蠅いねっ、デブ。私は調合薬士で、医者じゃないんだよ」


「フシューっ、フシューっ、うぅうぅ、痛いっ」


「ままま、魔女子さん、ぼぼぼ、僕はどうすればっ?」


「清潔な布を持ってこいっ。早く用意しろ」


「ブシューっ、ブシューっ、あぁぁあぁっ、早く出て来てっ」


「ブシュブシュ何度も息を吐くな。豚は一匹で十分だ。私も産んだ経験がある訳じゃ無いが、腹のそこに力を込めろっ」

 

「いいいい、一番綺麗な布、持ってきました、魔女子さんっ」


「一々魔女に子を付けるな、気色悪いっ。それに私は魔女じゃないと何度言えば分かるっ」


「ウゥゥゥンっ、ウゥゥゥゥンっ、ああっ、お願いっ」


「そうだ、それで良い、頭が見え始めたぞ。力を込めろっ、私が引っ張り出すから」


「ぼぼぼ、僕はどうしたら良いですか?」


「手でも握ってろっ、デブ。それにしても何故私なんだ。だいたいこんなのは親族で御用達の産婆が居るはずだ。この娘が独り身なのは知ってるさ。お前の所にも居ないのかいっ?」


「そそそ、それは、いや、あの、そうなんです。僕も、誰も知らなくて」


「姉さん、フシューっ、違うの、この人は、アァアァっ、フーっ、この人は、私と一緒になったから、家族から、縁を――」


「いい、今はそそそんな事、良いから」


「お前の想いは認めてやるがねっ、じゃあこうなる前に適当な産婆を見つけておけっ。父親になるんだろうがっ」


「すす、すみません」


「謝ってる暇があるならこの娘のお腹でもサスってやれっ。何か言わなきゃっ何も出来ないのかっ」


「すすす、すみませんっ」


「アァァァァァアアァアッァアッ、フシューっ、フゥゥゥっ、ンゥゥゥンゥウゥンっ」


「そうだ、力を込めろ。母親ってのはそんなに弱いのかっ」


「アァアアァァッァアっ、うんんぅぅうんんんぅうぬぅう、アアッ」


「その調子だっ、もう少しで産まれるぞっ」


「がががが、頑張れっ」


「うんうぬんぅぅんうぬんぅんんぅんぬぅぬっ、あああぁあぁあっ、フゥゥゥっ、ヒフゥ、ヒィィィ、うぬんうんぅぅんうぅんうぬぬううぅぅんぅぬぅぬっ」


「よしっ、産まれたっ」


 オギャーーーっオギャーーーーっ


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