けものフレンズ 第七.一話 ぶるまん

阿井上夫

けものフレンズ 第七.一話 ぶるまん

「博士、博士」

 じゃぱりとしょかんの片隅で本を片付けていたワシミミズクのミミちゃん助手がいつもの通りの声で呼んだので、アフリカオオコノハズクのコノハ博士は首だけを回してその方向を見た。

「どうしました、助手」

「博士。先日、かばんのお陰で料理というものを味わうことが出来ましたが」

「出来ましたが、それがどうかしましたか、助手」

「はい、それでその次に何か味わうべきものを探していたのです、博士」

「ほう、で何か見つかったのですか」

「はい、もちろんです。私達は賢いので」

「そうですね、私達は賢いので」

「で、これはどうかと思うのです」

「どれどれ、私にも見せるのです」

 コノハ博士は音もなく飛んで、ミミちゃん助手の隣に降りる。

 するとミミちゃん助手は本を開いていた。

「これなのです」

「これなのですか。何ですか、この黒い液体は」

「これは、かふぇで出されていた飲み物なのです、博士」

「飲み物なのですか。何だかそうは見えないですね、助手」

「飲み物なのです。しかも、料理の後に出されるもので、飲むと頭がすっきりするらしいのです」

「それは、料理を食べた後の賢い私達にはもってこいの飲み物ですね。じゅるり」

「料理を食べた後の賢い私達にはもってこいの飲み物なのです。じゅるり」

「かふぇといえば、あそこですね、博士」

「そうですね、助手」

 二人は顔を見合わせた。


 *


「あんれぇ、珍しいお客様だこどぉ。いらっしゃあぃ、博士ぇ、助手ぅ」

 夕方の営業が終わって、ジャパリカフェの掃除をしていたアルパカ・スリは、満面の笑みで二人を迎えた。

 そこでミミちゃん助手が先に質問する。

「あの外にある絵は何なのですか、アルパカ」

「そうなのです。あの分かりやすい絵は何なのですか」

「あぁ、あれねぇ。あれはぁ、かばんちゃんが教えてくれたのぅ。サイン、って言うんだってえぇ。お陰でお客さんが来るようになったんだよぉ。たンだ、鳥系の子が多いんだけどねぇ。うへへへ」

「なるほど、かばんですか」

「やるですね、かばん」

「でぇ、何飲むぅ。いろいろあるよぉ」

「実は今日は飲みたいものがあるのです」

「そうなのです。飲みたいものがあるのです」

「何が飲みたいのぉ。すぐに準備するよぉ」

「これなのです」

 ミミちゃん助手が持ってきた本を差し出したので、アルパカはそれを見つめた。

 コノハ博士がその中の一つを指差して言う。

「私はこの『ぶるまん』というやつが飲みたいのです。飲ませろなのです」

 ミミちゃん助手は別なものを指差して言う。

「私はこっちの『きりまん』というやつが飲みたいのです。飲ませろなのです」

 二人の注文を聞いたアルパカは、上を向いた。

「ああ、これねぇ。これはぁちょっと難しいかなぁ。これはぁ、お茶じゃなくてコーヒー、っていうやつだからぁ、ここにはないんだよねぇ」

「ないのですか」

「ないのですか」

「ないねぇ、全然ないねぇ」

「それは残念なのです。コーヒーを飲んでみたかったのです。助手」 

「私も残念なのです。博士」

 微妙に落ち込んだ二人に、アルパカはにっこりと微笑んで言った。

「あ、でもねぇ。この間、充電、のお礼だといってぇ、ボスが置いていった物があるんだぁ。それでも、どぅかなぁ」


 *


 コノハ博士とミミちゃん助手が外で待っていると、アルパカがティーカップを二つ持ってきた。

「はいどうぞぉ。博士のはねぇ、ダージリンっていうお茶だよぅ。んで、助手のほうはねぇ、オレンジペコーだよぅ」

 コノハ博士が怪訝そうな顔で言った。

「お茶ならば、もう飲んだことがあるのです」

「そうなのです。もう飲んだことがあるのです」

「まあ、いいがらぁ。飲んでぇ、飲んでぇ」

「分かったのです。飲むのです」

「飲むのです」

 一緒にカップを持ち上げて、中のお茶を一口飲んだ博士と助手は、途端に大きい目をさらに大きく見開いた。

「何ですかこれは!? 美味しいのです」

「何ですかこれは!? 美味し過ぎるのです」

「ふへへへ。この紅茶にわぁ、ボスから貰ったお砂糖、というのが入っているんだぁ。何でもぉ、ジャパリまん作るときに使っているらしいのねぇ。んでぇ、カフェには欠かせないものだからって置いていったんだけどぉ。頭が疲れた時に良いらしいからぁ、博士と助手に良いかなあって思ってぇ、取ってあったんだぁ」

「確かに頭がすっきりするのです、助手」

「確かに頭がすっきりするのです、博士」

「お代わりをよこすのです、アルパカ」

「私にもお代わりをよこすのです、アルパカ」

「大丈夫だよぉ、まンだ一杯あっからねぇ」


 この後、お茶を十杯もお代わりした博士と助手は、帰りに飛びにくくて大変だったそうです。


( 終わり )

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