世界が終わるその日まで

長島東子田川

第1話

「世界が終末を迎えるまで一ヶ月を切りました。皆さんはどんな生活をするか決まりましたか?」


テレビから聞こえる女性レポーターの声。街中でいろんな人にどんな最後を迎えるか聞いて回っている。


「こちらの会社では終末割りとして全国で系列店全て9割引となってます。これを期に遠くの店まで出掛ける人も多く混雑を見せています」


私はいつものように制服を着て食事をとる。あと何回、食べることが出来るだろうか。


「お母さん、行ってきます」


「学校行かなくてもいいんでしょ?」


「いいの。私が行きたいの。だから行ってきます」


鞄を手に私は家を出た。何も変わらない街。ただ違うのは微かに怯えの空気がある。そりゃそうだ。


地球は数百年前に宇宙進出を果たし他の惑星を侵略した。そしてその惑星から地球への報復として攻撃を開始すると宣言されてから地球滅亡のシナリオは始まった。


「ミーコ!!子猫ちゃんは元気?」


通い慣れた道を進んでいくと校舎が見えてきた。閉ざされた校門を登ると校庭にある大きな木の下に彼がいた。


「よぉ、また来たのか?」


「うん」


大きな木に寄りかかって本を読んでいる彼の隣に座る。ここで見かけた男の子。名前も何も知らない。


「何読んでるの?」


「惑星攻撃による地球滅亡について専門家が書いた本」


「ふふっ…何それ…そんな人いるんだ?」


「いるんじゃね?著者近影付きだし」


彼が笑いながら答える。私が生まれて16年。短かったな。生まれる前から地球滅亡は始まってた。


「お前さ、いつもここに来るけどなんで?」


「……私はここの生徒なの。やりたかったことに思いを馳せてるのよ」


「へー?例えば?」


「夏の海合宿!!スキューバも出来る勉強合宿なんだけど楽しそうでしょ?あとやっぱり修学旅行に文化祭!!」


「小さいなー。お前」


「小さくないよ。当たり前が大事だって気付くんだよ」


「他にはないのか?」


「…恋してみたかった…」


その言葉に彼は黙り混んだ。小さく彼は息を吐いた。


「俺がいるじゃないか?」


「え?」


確かに彼といるのは心地いい。気を使わなくてすむ。でも贅沢いうなら………あれ?彼はどんな顔をしてたっけ?


途端に彼の顔が霞んでいく。私は急に怖くなって彼の服をつかんだ。彼の服をつかんで見上げる。優しそうな笑顔の彼がいた。


あ、この人だ。


直感でそう思った。


最後に一緒にいたいのはこの人だ。


「ふ、はははは!」


「な、何?」


「本当にあるんだ…。電撃!!今走った!!」


「…は?電撃?」


「好きな人を見て直感で電撃が走るって言うでしょ?私、信じてなかったんだけど……あははは!!」


「じゃあ、いいの?」


「えへ、一ヶ月ないけどお願いします…!!」


「…こちらこそ」


優しそうな笑顔。これを見ることも無くなるのかな?寂しい。


なんだか自覚したら急に寂しくなって彼に寄りかかる。


「そういえば名前は?俺は鏑木優馬」


「私は早見未来。おかしいね、名前知らないのにこんな気持ちになるなんて」


「恋なんてそういう物だよ。俺は一目惚れだった」


「嘘!?私の顔が!?」


「…小動物っぽいの好きなんだよ…」


真っ赤になってそっぽを向いた優馬。一ヶ月ないと考えたらやりたいことが増えた。私は立ち上がって優馬に言う。


「デートしよう!!あちこち行けるだけ行こうよ!!」


「そうだな、行こうか。どこに行く?」


「定番の遊園地、水族館、動物園、映画館!!」


「多いな!!」


なんだか楽しくなって私は優馬を引っ張って立たせた。


「よし、行くか」


「うん!!」






「テレビをご覧の皆さん、緊急事態です!!地球への攻撃が早まりました!!地球を離れる方は急いでください!!繰り返します!!地球への攻撃が早まりました!!」






「あ、見て優馬!!あそこに虎がいる!!」


「動物園から逃げたんだな。こんな状態じゃ仕方ないか」


好きな人とはじめて繋いだ手。大きくて力強くて温かい。私たちは生きてるんだ。


「こーんな空青いのに滅亡すんだぜ?」


「ふふ、私たちが生まれる前から決まってた事だもん。変えられなかったんだよ」


「変えようぜ、未来。俺達の未来を」


私の手を握る優馬の手が強くなった。


「…出来るの?」


「ああ、出来る。一緒にやろう」


「やる!!」


私は笑顔で優馬と走る。どこに向かうかわからない。ただ優馬についていく。あわただしく悲壮な街を走った。なんだか楽しくなって笑いが止まらない。












「ほら、優馬あの時の虎が亡くなったんだって。ニュースになってる…。私達はあの時滅亡するって騒いでたね」


「なんとか出来るって言っただろ?」


優馬は滅亡対策をずっと続けてきた家の人だった。何代にも渡って宇宙と話し合いを続けてきた。誰も知らない歴史の裏の話。


何冊にも及ぶ交渉ノート。優馬は私と二人交渉に向かい成功した。地球を守るために失ったのは地球の歴史。資料をあるだけ全て渡すことで地球は守られた。


「俺達の子孫が地球奪還に動くことを祈らないとな」


「そうだね!!電撃を信じてよかった!!」


「俺も。一目惚れ信じてよかった」


一人じゃない。二人だから出来たんだ。

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世界が終わるその日まで 長島東子田川 @toukonagasima

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