第4話 土の火ー2


家から一番近いお社。

天神、菅原道真公のお社がある。

天神様も、龍にまつわる神様であることには変わりないのだけど、今回は雷神様の気を借りれば火に勢いが乗ってしまうので…と考えて、やはりここは正統的に弁財天様やミズハノメ様たちのお社にご挨拶に伺うのが筋だろう。


水に関することで言えば、京都であれば貴船さまや水そのものの神様であるサラスヴァティ様まで遡っていけば、一発なんだけど。

今回は神界ネットワークにおいてもあんまり目立つことをしたくないと思ったので、まずは弁財天様にお会いしたいと思った。

その理由はおいおい書いていこうと思うけど…これ完全にサイコな内容になってくるよな、という気がしてならない。



本当はミズハノメ様のお社に、一社だけ当てがあった。

でもそれは、そこを使うとチートっていうか…。

確実に、そこの宮司だったご先祖様の加護付きで、最強の水の気をお借りすることができたのだろうけど、相手も相手でなんか知ってる限りの知識を総動員してかかってきてくれているので、そこは礼儀かと思い、なるべく相手が仕掛けてきた怪異にだけお返しするように段取りをつけた。



小さな怪異に大きな力でお返事すると、次にやってくる怪異が容赦なくデカくなってくるだろうからだ。

そんな面倒、引き受けてられん。





近所の寺の裏手。ひっそりと祀られている弁財天さまの祠があった。


さて、どこに行こうかとぶらぶら気の向くままに考えていたら、なんとなく『まずは寺に行ってみよう!』という気になって小学生以来か、足を運ぶことになる。

そういう気になるときのそのほとんどは、足をっていうことだ。

だからこそ、呼ばうものが良いものか悪いものかを判断しなければならない。

所詮、どんなに見えていようと、今告げられる側である自分は、使われることになるのだから。


「まさかこんなところに弁財天様いるなんて思わなかったけどね。

 こういう時はお告げ体質って便利だよなー。」


墓場に隣接しているからか、昼間でも”あんまり誰も来てません”感が漂っている。

その割には、捧げてある水だけはきれいに取り換えられていた。


「お寺の人が毎朝やってくれてるんだろうねー。

 今まで神社一辺倒であんまりお寺まで来られなかったけど、お寺の神様

 お見知りおきください。


 さて、弁財天様。

 『 いつも見守ってくださって、ありがとうございます。

   今回のことは、ちょっと個人的に具合が悪いなって思って、お力を借りにきました。

   水の気が必要です。

   どうぞ、拙くはありますが、楽をささげます。お力をお貸しください。』」




小さいころ、琴を弾くことを覚えた。

家業にはなんの関わりもなかったけど、それとなく育った環境の中で楽を奏で、音に気を這わせるということを覚えていった。

それが”気の練り方”だとは、微塵も知らなったけれど。

そうして、いつかくる怪異に備えさせられていたんだと、最近では考えるようになった。




「…こうさー…琴が、おりたためるようだったら、もっとモノゴトはスムーズに運ぶんだろうけどねぇ…」



一度お力添えをお願いした神様には、一緒に肩に乗って家まで来ていただく。

そうして、楽を奏でて交渉して、夢の中や瞑想中にお告げや教えをいただくようにしていた。

何とかいろんな神様を喜ばせようとした結果、今じゃ必要な伝統楽器は一通り奏でられるようになった。…時に、正統派じゃなくても、世界の民族楽器は、結構神様にシンクロできたりする…内緒だ。



「すみません、ちょっとご不便をおかけしますね」



そうして、その日は拠点に戻り、水の神様の気と自分の気を練り合わせることにした。




生まれた時から、水の神様にはご縁が深い。

命を持って生まれたものなら、たいていはそうだ。

人間は水の神様に生かされているといっても、過言ではないと思う。

人体を構成する70%は水分でてきているし、生き延びていくには、きれいでおいしい水というものは欠かせない。


それが今回の地揺れでは、水源が枯れた。


あれは水脈がずれたからなのだが、

なんとなく細川のお殿様の保養地で水源が枯れたことがこちらにとっては少し、嫌な心地がした。

だからこそ、水の神様がちゃんとお心を開いてくださるのか、少し不安ではあった。



水の神様の気と自分の中にある水の気を練り合わせ、気を合わせていると時折楽しいことが起きる。

祓いがうまくいった帰り、必ずといっていいほど、僥倖ぎょうこうの雨が降る。

そして、「あと少しで雨がふりますよ」ということを人に言えるほどに、雨の降るタイミングを教えていただけたりすることがあるのだ。


無意識に水の神様と繋がっている人たちには、おそらく普通のことだろうけれど。


自分が神様にたすけを求めるようになって、初めて実感したことだったので嬉しかったことを覚えている。




「さて神様。

 今回、こちら側は何をしたらいいんでしょうね…?」


お伺いを立てる。


いつものように、あの惑いをもたらすモノゴトたちが、ひそひそと甘言をもたらす。

『おはらい』『違ういきもの』『ふさわしいのはあっち』『おまえじゃない』

そういった囁きに惑わされずに、天から舞い降りる言葉を待つ。


「 …………え? 」


どういう意味で、でた言葉だ。



「 …は、…え?………マジですか…?!」






『 何もするな 』




それが、今回の怪異に対する、神様のお告げだった。

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怪異、その名。-ある祓い屋の手記ー CODE-01 @unknown_01

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