第3話 土の火-1

その女の怪異を挟んで、前後。

地震があった。

立て続けに、大きな地震。

間隔をあけずに、住んでいる世界のあちこちで、土が、揺れた。




古来。

神社仏閣やスピリチュアルスポットと呼ばれる場所には、

地脈・水脈(まとめて、気脈や龍脈と呼ばれることもある)

金属を含む地層

磁石を含む地層

呪術の痕跡

人為的にその場を”そういう”風に工作したあと(人身御供とか儀式)

が見受けられる。

そういうのをひっくるめて、こちら側では「磁場じば」と呼んでまとめたりする。


土地の気が多い、あふれ出んばかりの地の気、熱、磁力などの上に人が立てば、自分の身体に変わったことが起こったり、病気が癒されたり、何か違う力が身についたり、見えたり感じたりするようになることがある。


それを怪異と呼んだり、奇跡と呼んだり、癒しと呼んだり。

それは様々だ。


土の火の気…地振動による、土の摩擦熱まさつねつなどを、神の御力と考えて、そういったスポットが磁場として、崇められたり、保護されたり。

それを特別な形にしていったものが、神社仏閣のように見受けられる…と民俗学的には定説ではないにせよ、そう考えている。



神域しんいき

ただひっそりとそうしてあれば、人に侵されることも無いのに。

怪異は、神域でも起こり得るのだ。

人の念を受けて、気というものは、変異する。


神様にしてみたって、突然の変化というのは有難いものもあれば、そうでないものもおありだと思う。

今まで何千年も、人っ子一人こなかったのに、どうして今頃になって話しかけてくるものがあるのだろうか。

そんな懐疑的かいぎてきな神様だっていてもおかしくはないだろう。



土地の神さまというのは、祭り好きだ。


その土地に生まれた命のことや、その土地で起きた出来事などをずっと静かに見守ってくださっている土地の神様たちは、村人や、その土地に居るもの、居たものたちがやってきて、神楽や楽器の演奏、いろんなものを見せたり、かぐわせたりすることをお好みになる。

かぐわす、かぐ、かがやく、かかやく、かかや、かみ。

神様にまつわる言葉は、いつでもその言葉による行いが、神様とこちら側をつないでふるわせてくださるようにできている。

中には、よその土地の地酒を楽しみに待っていてくださるような、異文化交流に積極的なおやしろも、怪異を解決するために加勢していただいたところで、いくつかあるようなのだ。


そういう、少し人っぽいところを垣間見れば、なんとなくこちら側としても、ほっとすることがある。


ただ、人間は人間で、そうでないものは、そうでないのだけれど。


「火、火、土地の神…………ん、ん?…………いやー…。

 今回のは神様じゃねぇなぁ…………?

 なんつーか、焦げてるっぽいし………」



女の怪異を追い始めた当初は、まったくそれが術式だとは思いもしなかった。

そこまで深入りされる関わりが、こちら側にはなかったからだ。

適当にまいて、怪異から離れようと思っていたので、記録さえ碌にとっていなかった。


結局その女とは決別をして、それでもおさまらない怪異の進行に、一連のモノゴトは俗に聞いていた厄年のせいなのか?と考えていた。

そんな折、友人づてに鑑定を頼んだ坊さまが

『なんか、焼け焦げた女の人を受けこんでるのと、その女は、ろくなことしない』

と言ってくれるまで、自分に関りのある土地と…こちらは無自覚かもしれないが前世因縁さえも術式にはめ込まれたと気づいていなかった。


「マジで碌なことしねーな、あの女。」


今回の怪異の記録をまとめたページを洗い出す。

一つ目は、その女が、人から向けられた敵意を受けたとして衰弱で入院。

点滴を打っている写真を送ってきたところから。

表向きは過労になってるけど、そういった気の類だったとSNSづてに自分で拡散しているので世話は無い。


見る限り、確かに、火の気配はした。

でもそれは人から受けられた火の気配ではなくて、「おそらく人から自分に向けられているのではないだろうか」という予測…というか期待?のもとに成り立った自分の思い込み、”念”力ねんりきで自分を痛めつけている様相だった。

つまり、自分にある火の気で自分を痛めつけている様だった。


しかし、その写真についてきたなげかけは

『ねえ、火の気を飛ばしたの、あなたでしょう?』というようなものだった。



…残念ながら、違う。

最初から、その女には人を陥れたがる気配が纏わりついていたのだ。

こちらとしては、結構な頻度で怪異に当たる子供時代を過ごしていて、ひよっこ祓い屋で知識は追いついてないにしろ、そういう勘は当たる。

分かっていて策に乗るほど、阿呆ではない。


でも。

その女の中では、それを飛ばしたのはこちら側だと、”思い込んで”いるのだから、本当に厄介なことだと分かった。


火の気は、タダレを引き起こす。

皮膚炎が出たり、喉の枯れを引き起こしたり、家計が炎上したり。

後はただれた関係になりやすくなったり。

無性に体内が熱を持ってうなされたりする。




「面倒くさい人だなー…この人の周りにいる人は、居心地悪くなったりせんのかね…?

 …これが年の近い現代っ子相手なら、自作自演乙~とかって、話は早いのになー・・・。」


プカプカと、最近、祓いに煙草の煙が効くと分かって気に入った銘柄を燻らせる。

…吸うんではない。煙を炊くだけだ。



この件に関しては、目に見えない”良いほうのモノゴト”が加勢してくださっているようで、近場で火の手があがっても雨を降らせてくださったり、かまどの神様が護符をくださったり。

それから、、自分に関わりのある土地に引っ越した友人たちが、近場であった変な祭りを機に『なんか変な気がする』と思い立って家祓いえばらいをしてくれていたため、半分くらいは怪異の威力が削がれていた。

あとで分かったことに、その祭りに、女が加担していた。



『本当に。…今回も、ありがたいことに、……命拾いした……ってことだよな…。』





怪異がわかり始めて数年。

年々身に起こる事件事故の内容が、命を懸けたことに近づいてきていて、なんとなく嫌な思いをしていた。



『…まあそんだけ長く生きさせてもらってるって、ことだよな?』



そう思いはすれど、怪異による何とも言えない気持ちの悪さはぬぐえない。



「あとどんだけ必然の回数を数えれば、たどり着けるんかね。」



目星をつけた前世代の年間から、それらしき人物やエピソードを洗っていく。

ついでに女との関わりの中から洗い出した頻出キーワードを重ねていく。

火。

炎。

原人。

魔女。

坊主。

振袖火事。

貞観。

きもの。

木。

炎、嫉妬。

魔女狩り。



「まったく。この科学の現代において、魔女狩りとか、勘弁してくれよ。

 ESP能力ならまだわかるよ?現代科学でも立証されつつある現象だからね。

 だけど本当にそういうなんていうか…ヒステリックなものを引き合いに出してくるなんて

 時代遅れもいいとこだよー?

 はー…まったく、そもそも魔女を焼いた方が、悪魔だっつーの。」



荒くはあるものの、見当はついた。

消火活動にいそしむため、水の神様たちに会いに行くことにした。

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