フェアリーテイルに決別を
御伽噺はこれにて終了。
これより先は残酷劇、さあ、悪趣味な殺戮を始めよう。
その首を見つけたのはある意味では必然で、ある意味では偶然だった。
首狩りになって数週間後、割のいい
それは、暁の手から大事なものが零れ落ちる前に見慣れていた顔だった。
あの頃の自分は、代用品ではあったものの彼が住む御伽噺の住民だった。
その事実を否定したのは今から3年前のあの日。
全てを失ったあの日に、ヤケクソになって頁の外側に抜け出す決意をした。
全てを失ったからそれでも残っていた
その時に不要と捨てた偽りの恋情、その恋情を向けていた相手であった御伽噺の彼の顔を、暁はあれから3年も経った今、写真越しに見つけた。
見つけたリストに掛けられている首はたったの1億だった。
自分の人生の三分の一の価値しかないのだと、暁は乾いた笑い声を立てる。
同時に自分と同様に成長し、精悍な顔立ちになったその少年の顔に数秒目を奪われていた。
――ああ、なんということでしょう。
もう本当に一切関係ないと思っていたというのに。
完膚なきまでに縁を断ち切ったつもりだったのに。
彼が賞金首であるということは、それを狩ることを生業とする自分は、いつか全くの別人として彼と出会うことになるのかもしれない。
その可能性に気付いていた癖に、今の今まで、このリストを見つける前にそれを意識していなかったのは、無意識に逃避していたからか。
だって、もう会いたくなかったから。
もう一度会った時、自分がどうなるのかわからなかったから。
それでもどうなるのかたった今決定した様なものだ。
――きっと、出会ったその瞬間から、殺し合うことになるだろう。
何故なら自分は罪人の首を狩る
だから、どちらか一方が死ぬまで、止まることはないだろう。
それが嫌だと自分が思っているのかすら、暁にはよくわからなかった。
大事なものを失い、捨てた伽藍堂の心では、御伽噺の頁から抜け出して残酷劇の舞台に上がった自分では。
ただあの日、与えられた自分の人生の対価を払い続けるだけの自分には。
空っぽでも、それでも生きていくと決めた自分には、あの頃の激情を躊躇いなく切り捨てた自分には。
何もわからない。
出会う可能性はそもそも低い、自分から避けて通るのもまた一つの手だろう。
それでも――いつか彼の首を狩ることになるのかもしれない。
その時は、どうか切り落とした彼の首に何の感情も持ちませんように。
それは残酷劇の住民となった暁の心の底からの願いだった。
――この伽藍堂の心に悪意と決意と殺意を詰め込んで、いつかの残酷劇で、あなたの首を切り落とそう。
いつか、ヨカナーンの首を (了)
暁瑠璃の伽藍堂 朝霧 @asagiri
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