御伽の世界

@Ruli

序章 始まりの刻

冷たい北風が体に刺さる。


私がいる学校の屋上から見る世界は、車が色とりどりのミニカーみたいで…


ミニカーみたいと思った途端、弟のことを思い出す。



「私が死んだら…家族ぐらいは悲しむかな…」



ポツリとつぶやく。


でも、悲しんでくれないかも。


母は、仕事人間だから私になんか興味ないだろうし…


父は再婚相手だからどちらかというと私のことは好いてない。


弟も同じようなもの…


友達だっていない。


違う、前はいた。


でも、今は卵の殻より脆い絆で繋がれた友達。


というか、それは上っ面でホントはただ私をいじめたいだけ。


トイレに靴を流されたり、制服を破られたり…


なんでこうなったんだろう?


昔は皆仲良くて、なにがあっても一緒にいようね!って約束したのにな…


思い返せば、いじめられたのは人魚姫のハンカチが原因だったかも…


ボロボロになったハンカチを高校生にもなって持っている方がおかしいのかもしれないけど。


まぁ、いいや。


もう、思い残すことはないし…


飛び降りるのは少し恐いけど、楽になれるのだったら…


後、一歩踏み出せば落ちて死ねる。


そう思うと涙が出てくる…


逝こう…



『何してるんですか?!

こんな所で!!!』



え?


誰?


なに、誰かに見つかった?!



「貴方だれ?

何者?」



『そんなに警戒しなくてもいいじゃないですか?!

わたくし夢先役所人事案内科勤務ゆめさきやくしょじんじあんないかきんむ

通称、夢先案内人ゆめさきあんないにん時計兎とはかうさぎと申します!

以後お見知りおきを!』



えぇ?


どういうこと?



『あなたは死にたいとおもいましたよね?!

そういう人間を止めるのがわたくしたちのお仕事ですので!

で、どこに行きたいですか?

なにをしたいですか?

何なりとお申し付けを!!』



なに?この人。


本当に安全な人?


ピラピラした派手な服装をした、中性的だから性別はわからないけど…


とても綺麗な人…


って、見とれてる場合じゃない。


あの人が言ってることが本当だとしたら…


私が行きたい場所…



「どこでも良いの?」



『どこでもいいですよ!!!

ありとあらゆる地図を持ってますからね!』



一拍も置かずに返答が返ってくる。


それなら…



「私…【御伽の世界】に行ってみたい!」



『これは、これは

変わったお嬢さんだ…』



そうだよね…



「やっぱり無理でしょ?

【御伽の世界】なんて…」



『…』



どうしたんだろう?


さっきまでうるさいぐらいピーチクパーチク言ってたのに…



「って、何見てるの?」



兎さんの方を見てみれば、なにか握ってうなっている。



『静にしてくださいよー

お仕事中です!

貴方が【御伽の世界】に行きたいっていうから探してるんですよー』



へー



「凄い…」



『あ、ありがとうございます。

見つかりましたよ!

しかし、【御伽の世界】に行きたいなんて初めて言われましたよ!

わたくしてっきりお台場とか遊園地だとかそういう現実的な所かと思ってましたー

ちなみになんで【御伽の世界】なんですか?』



私がそこに行きたい理由…


それは…



「私、小さい頃からおばあちゃんと一緒にいることが多かったの。

それでね、おばあちゃんは寝る前によく絵本を読んでくれた。

私が好きだったのは人魚姫だったんだけど、最後の人魚姫が粟になるところでおばあちゃんに抱きついて泣きながら寝ていたの。

その頃から【御伽の世界】に行ってみたいとは思ってたから」



『なるほど!

いいおばあさまをお持ちになりましたね!

それでは、行きましょう!

さ、お手を』



え?


そんな簡単に行くの?



「本当に大丈夫?」



『大丈夫、大丈夫!

さ、お手を』

 


しぶしぶ手を兎さんの手に重ねる。



『いざゆかん、【御伽の世界】への扉を開けよう…』









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

御伽の世界 @Ruli

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ