#1 おっさん ミーツ(meats)ガール
「これで今月に入って5件目か。気が滅入るねェ」
液体がぼたぼたと落ちてくる。街灯が液体を照らす。それは赤く、アスファルトに広がっていく。
男はため息をつき、ぼさぼさの頭をぼりぼりと搔きながら、ぼんやりと電柱を見上げている。
「だんだん活性化してるってことか。面倒なことになってきた」
甲高い悲鳴が聞こえた。
まだ近くにいたのか。
「仕方ないな。放っておけないし、やるしかないかー」
本当に面倒なことになった。ぶつぶつ言いながら、男はもっさりと声のした方へと歩き始めた。
「い、いやぁぁ」
女性は地面へとへたり込んでしまった。恐怖で震えて動けない。
「へ、へへへ。に、く。おんな、おんな、クラワセロ」
血でべたべたになった顔を舌なめずりして、そいつは女性へと歩み寄る。凄まじい臭気に、女性は吐き気を催した。
男の手が伸びる。その爪は鋭く、血と何かの肉片のようなものがこびりついている。爪先が女性に触れそうになった、その時――。
「そこまでにしときな、変態野郎」
声に男は振り向いた。
そこにはニット帽にサングラス、マスクをつけ、赤いジャージを着た、何者かが腕を組んで立っていた。
「な、なんだキサマ。お、オマエも、クッてやる」
「うるせー!」
鉄拳が飛んだ。男の首が回転し、もげて宙に飛んだ。
「ひっ、ひぃぃ!!」
襲われていた女性の膝もとに男の首が落ち、女性は悲鳴を上げて意識を失った。
「ふん、雑魚め。運動にもなりゃしないじゃん、これじゃ」
「いやあ。お見事お見事」
突然の背後からの声に、赤ジャージは振り返りざまに裏拳を飛ばした。ゴキャと何かが砕ける音がした。直撃だ。
しかし、そこにあるのは電柱だった。
「最近、”魔人”を倒してくれていたのはキミだったんだねー。おかげで僕の手間が省けて助かってるよ。ありがとう」
「……てめぇ、何者だ」
言いながら、赤ジャージは拳を飛ばす。今度こそ直撃……と思ったが、そこに誰の姿もない。
「元気がいいねぇ、最近の若い子は」
「うわあっ!?」
突然、さかさまの顔が目の前に現れ、赤ジャージは飛び退いた。
「いい反射速度だね。常人の域を遥かに超えている。こりゃ、当たりかな」
茶色なのか何色かよくわからない色になった薄汚れたトレンチコート。黒い革靴はボロい。長身だが、猫背。髪はぼさぼさで無精ひげ。黒縁眼鏡をかけた冴えない男が街灯に照らされてぼんやりと立っていた。
「てめぇもあのバケモノの仲間か!?」
「やだなぁ、そう見える?」
「姿かたちはあてにならねぇ」
「あはは、そうだね。よく知ってる。まぁまぁ、そう構えなくても僕ぁあやしいものじゃないよ。そうだ、キミ、おなか空かない? おごってあげるから、ちょーっとおじさんと話ししてくれないかな。お嬢さん」
おなかが鳴る。
「くっ! 飯で釣ろうったってそうはいかねぇぞ!」
「あー、僕もおなか空いてるんだよね。焼肉でも行こうかなー」
肉。肉だと!? おなかがその食物を欲し、合唱を始める。よだれが口からあふれ出そうになる。だめだ。誘惑に負けてはだめだ。何のためにこうして夜な夜な毎日毎日走っていると思っているんだ。
「さぁさぁ、我慢はよくないよ。ダイエットは明日から頑張ればいいじゃない」
「……そうだな!」
そうだ。明日からがんばろう。食べた分カロリー消費すればいいじゃない。これ名案。
「決まりー。それじゃ行こうか」
「おう」
こうして、出会ってはいけない2人は出会った。
運命の歯車はここから動き始めたのである。
精霊神機ルシファー るーいん @naruki1981
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