第2話 WE LOVE YOU
「WE LOVE YOU」
ドレスを纏(まと)い消えた 紫の瞳を探して
ウェストを締めるベルトを引き裂いて
夜闇に飛び込んだ 蝶の群れに目を閉ざされ
媚薬の香り漂う 白い部屋の彩りを抜けて
Shadows 都 浮かぶ A consiousness(意識)
We love you eternally 溢れていく永久の目覚め
We love you always 街に溶ける君の呼吸
We love you anytime 時を刻む君の吐息
We love you forever
朱色に染まる Your hidden voice(君の隠された声)
ノイズに飲まれていく 声なき声に耳を澄まして
騒めく街に逃れて 果てしなく
機械に仕組まれた 欲望の扉のその先に
潜ませた君の夢 暗闇の中で輝き出して
Shining 踵に残る Your scar(君の傷痕)
We love you endless 絡み合う二人の意識
We love you all the time 繋がり合う細い指も
We love you everyday 流れ 揺れる黒い髪も
We love you forever
澄んだ涙に浸る your bare foots(君の裸足)
終わりなき幻想が
君の内面世界に訪れる
終わりなきイメージが
君の内なる光を照らし出す
そして今輝きだす
We love you etarnally 遠く響く君の声を
We love you anytime 横たわる君の寝顔を
We love you unlimt 時を超える君の夢を
We love you forever
鮮やかに染まる your fantasy of unknown(君の未知なるファンタジー)
We love you etarnally 溢れていく二人の意識
We love you all the time 街を駆ける君の声を
We love you unlimit 時を揺らす手に咲く華を
We love you forever
蒼い空に響く Your clear voices(君の澄んだ声)
リズミカルな喧騒の中
機械加工された女性の声が
街へ永久に響いていく
____________________________
米柄は「BOYS MIND IN THE SYMPHONY(以下BMITS)」の1stアルバム、同タイトルのライナーを開くと楽しげに語りだす。
「1stアルバムの一曲目はこれにしようと最初から決めていた。曲はキーボードの綾瀬(綾瀬大志)がずっと前に作っていたもので、何度も繰り返されるサビのフレーズが、中毒になるような曲だ」
米柄はサビの「WE LOVE YOU」を幾度も、繰り返し口ずさんでみせる。彼の表情は穏やかで落ち着いており、彼の、もしくは彼らの音楽が、とても早い段階から完成しており、彼ら自体と親和していたことがわかる。だが同時にすぐにも米柄は眉をひそめてみせる。
「僕らの音楽は、みなに語りかけるようでありながら、オープンなものだったんだよ。だから純粋に音楽のみで勝負したかった。コンセプチュアルでビジョンも統一されたバンド。そういうものを目指していたからね。だから……、大宗の音楽外のパフォーマンスは正直邪魔だった」
口元にコーヒーを運ぶ米柄は、BMITSが、スタート地点から異彩を放つ奇才、飯塚大宗に乱されていたことを述懐する。BMITSの指針の一つでもあり、シンガーソングライターでもある米柄は、大宗がデビュー当初から自分がバイセクシュアルであると公言し、ゴシップ誌にわざわざ「その類」の写真を送りつけたりしていたことに、腹立たしさを感じていたようである。
実際、BMITSのファンの一人でもある筆者にとっては耳が痛い話ではあるが。米柄は、この当時のメンバー間の状況を表すエピソードを一つあげてみせる。
「レコーディング中だ。ベースのモッちゃん(本橋浩介)が、U2のボノの話を切り出したんだ。彼がクリスチャンとして瞑想生活を送ってるって話を。そうしたら大宗が、『クリスチャンなら少年性愛の傾向もあるから、ボノも音楽的にはベストだね』って言ったんだよ。わかるだろ? これで大体どんなムードでBMITSが始まったかって」
米柄は不服そうだが、同時に大宗への愛おしさも含めて話を進める。
「メチャクチャだ。音楽面では、これほど和解できたメンバーはいなかったのに、私的な面と、とてもプライベートな価値観で、軋みが最初から生じていた。それがBMITSだったんだよ」
だが「WE LOVE YOU」と、もう一度サビをリフレインする米柄に、私は一つ、大切なポイントを抑えてみせるのを忘れなかった。
「でもこの曲の大宗さんのドラムは最高ですよね。規律がありながら崩壊していく、というか。まさに彼の人格、人となりでも表すような感じで」
その点については、まったく米柄は異論がない様子で、一興を見い出したように、テーブルを大宗の刻んだドラムと同じリズムで叩いてみせる。
「うん。本当に最高だ。当時『立てノリ』が全盛だった時代に、彼のリズム、ドラムは、BMITSになくてはならないものだったんだよ。計算づくで構築的なドラム。BMITSは彼がいるから成立した。そう言えるだろうね」
そう回想する米柄の視線はとても嬉しそうであり、BMITSの旅路が彼にとって、メンバーにとって、そして今は亡き大宗にとっても、もちろん有意義であったことをうかがわせた。時計はこの頃には午後の3時を周っていた。
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