魔法乙女のリリルリア

りったん

第1話 落ちこぼれの魔法使い

芽吹け、芽吹け

踊れ、踊れ

赤い果実の喜びを歌に

古の精霊よ

我に力を与えたまえ


シャルルメノアヒューデ―・・・


小さな頃から当たり前にあったこのシャルルの呪文。

魔女たちの魔法は、その家系独自の呪文が用いられ、使用者はその呪文に自分の名を足す。

私が生まれた時に与えられた、世界でただ一つの私だけの呪文は、


「シャルル・メノア・ヒューデ・・・リリルリア!」


――ぼひゅん!!


ピンク色のもこもこした煙があたりを包む。

「けほっ、けほっけほっ」

その煙を手で払いながら目を凝らす。

少しずつ煙がはれて、ぼんやりとしたものの輪郭がはっきりとしていく。

そこに広がった光景を見て私は確信した。


「リリルリア・シャルル、これは一体なんですか?」

担任のワルツ先生が真っ直ぐと私を見て言った。

私がしたかったことは、指定されたトマトの苗だけを急成長させて、赤い実をつけること。

それなのに、

「そうですね・・・、ワルツ先生の頭にトマトがめり込んでいますね」

ワルツ先生の顔は無表情だった。

笑いもしないし、怒りもしない。

漫画みたいに、顔がトマトのように赤くなり、何だかそこだけ地震が来たかのように怒りあらわに身体が震えだす、なんてこともない。

真っ直ぐと私を見つめている。

潰れたトマトの汁が額から頬に流れ顎を伝い、ぽたぽたと垂れた。

「わ、ワルツ先生、もう1度!もう1度呪文を唱えさせてください!お願いします」

無表情でワルツ先生はため息をついた。


私はこの表情の意味を知っている。


でも食い下がらなければいけない。

そうしないと

「リリルリア・シャルル、残念ですが貴女は落第です」


静かな教室に、ワルツ先生の声がぴんっと通った。

言われてしまった。先生の声が耳にこだまする。


落第の意味することは、そのまま進級できないことの他にもう一つある。

それは、

「リリルリアさぁん?約束は守って頂けますかぁ?」

視界の端から嫌な奴の声が聞こえた。

「リリルリアさん、やーくーそーく!」

今度は違う嫌な奴の声。

そして最も嫌な奴の声が響く。

「貴女のような劣等生、この学園には必要ありません。去りなさい、田舎の魔女モドキさん」


「次、セスティア・マルティス」

「はい」

自信ありげに、セスティアは前に出た。

「魔女モドキさん、そこどいて下さる?これから格式ある魔女の進級試験が始まるの」

セスティアは学園きっての天才で、マルティス家のご令嬢だ。

性格はこのように歪みきっているが、実力は確かに上。

負けている。いやそもそも最初から負けていたのに私が噛み付いたのだ。

セスティアの腰巾着の2人も、私に向かってやいのやいの言っている。

「静かに。試験の最中ですよ」

ワルツ先生は厳しい口調で2人をたしなめたが、明らかに私の時とは違う、期待のこもった目でセスティアに向き直った。

「私は魔女モドキじゃない」

毎日杖も振ったし、呪文の発声練習だって欠かさずした。

お気に入りの枕よりも分厚い、小さな文字がびっちりの精霊の本もたくさん読んだのに・・・

視界がみるみる歪んでいく。

泣きたくないのに、泣きたくなんかないのに!


「流石ね、セスティア・マルティス。合格よ」

華麗に魔法を決めて、大きなトマトを実らせたセスティアを、クラスのみんなが褒め称える。

「あら?貴女まだいたの?」


言い返したいのに言い返せない。

いたたまれなくなって、私は教室から逃げ出した。


頭の中におばあちゃんの声がした。

「リリはきっと素敵な魔女になれるわね」


おばあちゃんごめんなさい。

私、全然魔法が上達しないダメ魔女なんだ。


「リリ、シャルルの魔女の呪文はね・・・?」


遠い記憶の優しい声。


「私、魔女向いてないのかな・・・」

ぽつりと出た。

ずっと認めたくなくて、うっすら思っていても見ないようにしていた本音。

おばあちゃんも、お母さんも皆素敵な魔女なのに、

小さな頃から私だけ出来損ないだった。

どんな魔法も必ず大失敗して、たくさん泣いてそれでも頑張ってきたのにな。


「私も一人前になりたい、素敵な魔女になりたい」


と、この時。

大きな光が私を包んだ。


覚えているのはここまで。


気が付くと私はとてもうるさい場所にいた。

さっきまで人気のない静かな校舎のはずれにいたはずなのに、

ぱっぽーぱっぽーぱっぽー

聞いたこともない音が鳴り、沢山の人が一斉に真っ直ぐ歩き出す。

「な、なに?」

人が去っていったと思ったら次は、プップーー!

これまた聞いたこともない大きな音を発する四角いものが私に話しかけてきた。

「ここは一体・・・」

「おい、そこの!信号変わったんだから早くどけよ」

「え?あ、ふぇ?」

怒鳴られて言われるがまま端の方に移動する。


「ウケるー、あれなんかのコスプレ?」

同い年くらいの女の子たちが私の方を見て笑う。


「何なの?ここどこ?」


混乱した頭で考えに考えた末出た結論


「もしかして・・・」


私、異世界に迷い込んじゃった??




つづく。

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魔法乙女のリリルリア りったん @Risu103

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