エピローグ
=== ヒロイン視点 ===
何度、刺されたアイスピックで、逆にあなたの氷の心を砕こうかと。
でもそれじゃきっと駄目。あなたは、私から逃げていく。
なら消えるのは私、どうせ消えるなら、私は ――
私は、家の前で何時間も立ち往生していた。
中年の女性が家から出て行く。
覚悟を決めて、スマホを開く。
『ねぇ、今暇してる?』
メッセージを送ると、すぐに帰ってきた。
『うん、遊ぶ?』
私は、それに返答せず、私は、震える指をなんとか動かして、家のチャイムを鳴らした。
『ピンポーン』
「はい、どちらさまー?」
あなたの声が玄関越しに聞こえてくる。
初めて聴くあなたのそのままの声。
心臓がドキドキして、頭がふらふらする。
ガチャリと開いた玄関のドアの後ろに、呆然としたあなたが立ってる。
確かに目の前に。
「伝えたくて、はっきり伝えたくて」
「私は、あなたが好き」
そういって、私は精一杯の笑顔で言った。
次の瞬間、私は駆け出していた。涙で前がよく見えないよ。
500キロの助走つけてのピンポンダッシュ。
なにやってんだろ?中学生みたい。
でも、反応を見るのが怖かった。きっともう駄目だから。
きっと、今日からもう遊べない。
『うん、遊ぶ?』この返事はもう二度と書けない。
なんでこんな事しちゃったんだろう?
私の馬鹿馬鹿 ――
ポケットのスマホがブルブルと震え、私は、画面を覗いた。
『今、親いないんだけど、それでも良かったら寄ってく?』
少し呆然としてから、私の足は、先ほどと逆の方にまた駆け出していた。
玄関の前で、あなたは待っていた。
あなたと初めて目が合う。初めて見つめ合う。初めて触れて…
あれ…初めて、抱き合う?
頭が混乱する。どうして?
私の事、嫌いになったんじゃないの?
他の誰かさんと幸せになれば良い、なんて言わないの?
「今日まで、本当に色々ごめんな」
「本気な気持ち伝わったから。だから、消えたりしないで。」
暖かい気持ちがじわりと心を満たしていくの感じる。
「ん、もう大丈夫。」
「どこにも行かないよ?」
抱かれながら、乗ってきた新幹線の中で、長い暗いトンネルを抜けた瞬間を思い出す。
しばしの抱擁の後、あなたに手を牽かれて、あなたの家に、初めてお邪魔する。
これからも、沢山のリアルな初めてが、私たちを待っているんだろうと心を躍らせる。
距離を恋えて、歳を恋えて ――
トンネルを恋えて Dary@だりゅーん @Dary
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