第3話

「術後の電話」


手術後、私は何かを失ったような喪失感を感じていた。


結局、はみ出していた腸の部位は二箇所で、両方とも切除された。それも麻酔無しという手術方法で。


要らない部位とは言っても、それは30年以上連れ添ったカラダの一部。二箇所も切除されると、カラダのなにかが無理矢理削除されたような、なんとも言えない喪失感があるのだ。


そうやって、術後2、3日は直腸ロス感で違和感を感じながら入院生活を送っていた。


術後、3日目ぐらいだっただろうか、就寝時間の21時直前に携帯が鳴った。

携帯画面を見ると、着信は10年以上前に別れたIさんからだった。


私は病室から抜け出して、1階のロビーに行って話した。


「もしもし?関澤ですが。」おそるおそる敬語を使う。


「あー良かった!番号変わってなくて。久しぶり!元気!?」10年ぶりに聞く相手の声も変わってなかった。


しかし、この状況で「元気?」と聞かれても困る。入院していて「元気だよ。」というのは明らかに嘘である。


「元気だよって言いたいけど、実はそうじゃないんだ。今、入院中なんだけどね。」


「え、まじ??なんで?ヤバイ病気なの?」それはそう聞いてくるなあ。


「言いにくいんだけど、痔なんだ。3日前に手術した。」中途半端に嘘つくより、恥ずかしいが本当のこと言った方が辻褄が合うだろう。


「え?痔?ふっ...(笑)なに?え?」どう対応していいかわからん様子だ。


「ところで、久しぶりの電話やけど、なんかあったん?」そうだ、10年ぶりの電話はなんなんだ?それもこの最悪のタイミングで。


「いや、別に用があるわけじゃないんだよね...。ただ、せいちゃん元気かなぁって思って...もう結婚とかしてるの?」


「ああ、結婚して、子どももこの前生まれたよ。女の子。」


「ええ?あ...そう...それはそれは。じゃあ、お身体大事にね。それじゃ。」電話は切れた。なんの電話だこれ?


俺が元気かというより、結婚してるかどうかを聞いてきたような電話だった。結婚してなかったら何か続きの話があったのだろうか。謎だ。


痔を元カノに告白しなければいけない恥をさらしてしまったのと、意図不明な電話の内容に困惑するばかりだった。


そこへ、看護師長がやって来た。

「関澤さん!探したんですよ!就寝時間に抜け出して、かつ病院内では携帯は禁止なのに!なにしてるんですか!!!?」

電話のせいで、こっぴどく叱られた。


この病気、ホンマ女難続きで大変でした。

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入院顛末記 芹沢 右近 @putinpuddings

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