第2話
「オペ室からの雄叫び」
手術日当日を迎えた。
朝、起きると、昨夜の剃毛失敗事故をやらかしたのではない別の看護士がやって来た。
「今日、いよいよ手術ですね!頑張ってくださいね!」なんだかウキウキ顔で話しかけてくる。なんだこの看護士。
「手術を受けるときには、なんとなんと!手術室のバックグラウンドミュージックを患者さんが選択できるんですよ!なんにします?クラシック、J-pop、Rockなんでもありますよー。」
いや、そんなんなんでもいいし。こちとらそんなのん気じゃねーし。
そもそも、手術受けるときに音楽要る?
「なんでもいいっす。お任せします。」
興味なさげに看護士に投げた。
「あー、じゃあアタシが好きなアユ、浜崎あゆみでいいですかー?やったー!アユにしよう!ワクワク!」なんか知らんが手術するのが楽しそうだ...
「それでいいです。」私は無関心に答えた。
そうこうするうちに、開始時間に。
手術室に運ばれると、そこにはまるで分娩室のような脚を開脚する足置き付きベッドがあった。
あらかじめパンツを脱がされていた私。そこに寝かされ、足置きに脚を置くと、まるで妊婦の出産スタイルとなり、あられも無い恥ずかしい姿に。医師が手術室に入ってくる。
そんな状態で、血圧計などを装着され、いよいよ麻酔を打たれる。
...麻酔がチクリとした瞬間、血圧計を見ていた看護士が異常を察知。
「先生!血圧が異常に低下しています!」
「なに!?それはマズイな...アンタ、麻酔を受け付けない体質なのか?」困惑する医師。麻酔を中断した。
5分たてども血圧は異常に低下したまま。
しびれを切らせた医師は決断をくだした。
「よし、麻酔無しでやっちまおう!」
「え?え?ええーーー!!!?手術中止じゃないの?麻酔無しってどういうこと?ええっ!?」
しかし、執刀中の手術室に患者である私の声や意見など誰も聞こうとしない。
「よし、開始!メスっ!」
医師は私の患部に鋭くメスを入れた。
「うあおおおおおおおおーーーー!!!!やめてぇーーーーー!!!」私は雄叫びをあげた。昨夜の剃毛ミスで感じた痛みを遥かに超える激痛。私は苦悶のあまり、身悶え医師のメスから逃れるようにお尻を動かしまくった。
それは、さながら本郷猛がショッカーに仮面ライダーに改造されるのに抗って暴れている人造人間手術室だった。
「おい!動くな!オトコだろ!喚くな!」医師は論理的に諭す。
いや待て、そんな理屈じゃないだ!尋常じゃない痛さなんだよーーー!!!
「うおおおー〜、痛ってぇーーー!!!」
私は叫ぶ。
「だから動くなって!」
医師は怒る。
すでに手術室には、看護士さんセレクトの浜崎あゆみのSeasonsが流れている。
♪今日がとても楽しいーとー
明日もきっとー楽しくてぇー♪
「くっそ痛ってぇーーー!!やめてぇーーーーー!!!」
「往生際悪いなー。動くとやりにくいって!」
♪そんな日々が続いてくぅー
そう思ってたあの頃ぉー♪
「うおおーーー!!マジでやめてぇーーーーー!!!」もう涙目。
「うるさいからもう少し黙ってよ!執刀の気が散るから!」真剣な執刀医。
♪今日がとても悲しくてぇー
明日もしも泣いていてもぉー
そんな日々もーあったねと
笑える日が来るからぁー♪
そこは、私の雄叫びと、医師の怒鳴り散らす声と、浜崎あゆみの歌声が交錯する手術室という名の阿鼻叫喚地獄でした。
あの日以来、浜崎あゆみの曲を聴くと今でも背筋がゾッとするようになりました。たぶんこれはPTSDでしょう...。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます